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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『序列4位』

「武器を取れ、ノルン。私は本気の貴様と戦いたい」

「来いと言っておいてなんだが、俺はお前と戦う理由はない」


 本気で戦ってみたいと言う好奇心はある。だとしても、現状では出せそうにないのが正直な感想だ。


 手を軽く握ったり開いたりして力加減を確認する。


「――例の村の住人の命がかかっているとすれば、十分な理由になるだろう」

「……なるほど」


 どうしても俺と戦いたいらしい。本来は真実か虚言かを確かめるべきなのだろうが、そんな手間をかけるなど煩わしい。


 俺は騎士でも武士でもない――魔王だ。


 彼らが掲げる、立派な誇りは持ち合わせない身である。だからこいつのわがままに付き合う必要は皆無に等しい。


 ……理解していた。だが納得ができなかった。


 俺への試練に思えたからだ。覚悟を確かめるための試練にだ。


 なあ、レグルス・デーモンロード。お前は――どうしたいんだ?


 一度だけ深呼吸をしてから、既に腹を括った男の瞳を見据える。律儀にも俺に考える時間を与えるような奴に、俺は殺し合いを申し込まれている。笑える話だ。


 立場が違えば、面白い友人になれたかもしれないのに。淡い幻想が目の前を過り、一陣の風が吹いて現実へと舞い戻された。


「お望み通りにしてやる。顕現せよ――」


 俺の呼び声に応えて黒い影のようなものが集約し、手元に一振りの刀が姿を現す。数秒遅れて俺の左側面にも同じように3つの影が集約し形を成した。それらの3つの影は鞘のない刀へと姿を変えた。


「展開――〈四刀扇歌(シトウセンカ)〉」


 右手で鞘に納められた一振りの刀を抜き去り、左手で宙に浮く残りの刀を操る。接近戦用の状態、と言うべきか。


 対人、対多数の戦闘を想定し得意としている。


 遠距離から一方的に仕掛けるのはつまらないからな。正々堂々、真正面から接近戦で相手をする。


「凄い。その様な姿は初めて見る」


 てっきり馬鹿にされるかと思っていたが、純粋にこの状態の力量を見定めた評価なのは表情から伝わった。俺の姿を見てほくそ笑んだのだ。


 本気で相手をしてくれることに喜びを感じているのだろう。


 だがシグマには悪いが、あくまで接近戦においての本気だ。全てを出し切る本気は、まだ使いたくないのでな。そこは内緒にしておこう。


「ノルン。改めて……申し出に応えてくれたこと、感謝する」

「構わない。俺は心の広い男だからな」


 俺の冗談に互いに笑い合う。


 一息ついてから、俺たちは武器を構えた。


 始まりの合図はいつだったのだろうか。それは当事者である俺にもわからなかった。気付いたら刀がシグマの太刀と交わっていたのだ。


「スゥ――」


 シグマが太刀を振り上げ、俺の刀を上へと打ち上げる。体勢が崩れたのを見計らい、握り手を変えて二の太刀を加えようとした。


 今度は俺が浮かせていた刀で太刀を叩き落とす。追撃に首もとへと別の刀を突進させるが、再び握り手を変えて見事に弾き返した。


 互いに言葉を発しず、会話は武器の交わりで行っていた。


 離れたところから俺たちの戦いを眺める冒険者たちが、思わず言葉を失うほどの速さで攻防を繰り広げる。


 主となる刀に宙に浮く刀を追従させ、それを太刀で防がせる。その隙に俺自身は地面を思い切り蹴り、反転して逆側から斬りかかった。


「――ッ!」

「ハッ」


 思わず声を上げて笑った。


 危うく自分の刀に斬られるところだった。

 シグマは俺が握る刀が当たる寸前で身を屈めて避けて見せた。そのまま太刀による突きを仕掛けてきたので、刀を当てることで軌道をずらして難を逃れる。


 10秒にも満たない攻防の中で、俺はシグマの首を三度落としにかかった。そのことごとくをこいつは防ぎやがったがな。


 武器の扱いでは明らかに俺が劣っている。俺が防戦一方にならないのは、追随する三本の刀があるからだ。数で勝っているからこそ拮抗に近い状態になっているに過ぎない。


 ――情け無用。確かにそうしなければ俺は負けるかもしれない。


 まったく、こいつの目は何処に付いているのかと確認したくなる。完全な死角からの攻撃でも容易に対応してくる。さらに、反撃も忘れないのだから自信をなくしてしまいそうだ。


「貴様の本気はこの程度なのか?」

「さらっと嫌みを言ってくれる。では、もう少しだけ力を入れるとしよう」


 膝を曲げて前傾姿勢を取り、足に力を入れて大地を蹴る。次の瞬間にはシグマの心臓目掛けて刀が突きつけられていた。


「なっ――」

「よく防いだ……が」


 刀から手を離して、追随していた方の刀を握りしめて振りかぶる。


 シグマは太刀の向きを変えて突きの刀を受け流し、刃を俺に向くように仕向けた。このまま斬るのをやめなければ、先に斬られるのは俺の顔だ。


 地面を足が捉え、確実に踏みしめられるのを確認してからその場で一回転。太刀を避けることで凌いだ。回転の勢いを乗せた俺の一撃は、その場で飛び上がり空に足裏を向けた状態のシグマに弾かれる。


 空中では動けまいと三方向から刀を突進させる。


 一本目をあろうことか空中を蹴ってその足で踏みつけ、二本目と三本目は正面から背後にかけて半円形の軌道を描いた一振りであしらった。


 そして地面に着地する瞬間を狙って刀を振り下ろし、魔力の斬撃を飛ばす。


 太刀は背中側にある。さてどう防ぐのかと見ていると、水が流れるような優雅な動きで体の向きを変え、それに比例して丁度良い位置に移動した太刀で斬り伏せた。


 一撃も受けず、か。それは俺も同じだな。


 この一分ほどの攻防でシグマの動きは覚えた。――もう大丈夫だ。

 パチンと指を鳴らして追随していた宙に浮く三本の刀を影へと返還した。


 俺の行動に眉を歪めるシグマ。目の下のくまと合わさって、ただの目つきが悪い奴だ。


「数の有利を自ら捨てるか」

「もう必要ないからな」


 左手を頭上まで上げる。するとその手に吸い込まれるように鞘が収まった。


 鞘を左手で掴み、右手に持っていた刀を納める。


 シグマにとっては不可解極まりないのだろう。疑問で表情が歪んでいた。


 それでも隙を晒さない奴を気にせず、居合いの構えをする。

 そこでようやく俺の意図に気付いたのか、シグマは太刀を構え直した。


「紫電一刀流、居合いの太刀――〈月穿(ゲッセン)〉」


 他者が刀の動きを目にするのは、役目を(斬り)終えて鞘に納まる瞬間だけ。


 シグマは体の正面で太刀を構えることで何とか防ぐも、かなり後ろへと押されていた。足下の土がどれだけの威力だったかを物語る。


 ……そうだよな。お前ならこれを防げるよな。


 目視だけでは絶対に不可能な速度の居合いを防いだ。加えて紫電一刀流は防がれても斬撃が追従しているため、一撃で二撃となる。


 何が言いたいか……。刀の居合いならともかく、飛ぶ斬撃なら太刀の脇を抜けて体に当たるはずなのだ。


 だがシグマに斬り傷はない。


 単純に太刀で防ぐ以外の方法を使ったのは明白だ。それを確認する目的で居合いを使ったんだけどな。


 狙い通りの役目を果たしてくれた。


「お前こそ凄いな(・・・)


 太刀を握りしめ、俺を見据えるシグマに言われた言葉をそっくりそのまま返す。


「俺は目が良いんでな。その太刀の力か、それとも――」

「フ……ハハハハハハハッ」


 いきなり笑い出すシグマ。さすがの俺もゾッとした。


 いやしかし、良い笑顔で笑う奴だ。相変わらずくまは酷いが、印象がガラリと変わる。そんな屈託のない笑顔だった。


「ハハ……ふぅー。失礼した。こんなに笑ったのは久しぶりだ」

「笑うのは良いことだ。寿命を伸ばす効果もあるらしいぞ」

「なら、ずっと笑っていたいものだな」


 太刀を下ろして俺の冗談にまさかの冗談で返してきた。こいつにそんな芸当ができたのだなと密かに驚いた。


「貴様に敬意を評し、改めて名乗らせてもらおう。私はアインノドゥス王国貴族五老公が一人であり、〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉序列4位――シグマ・セイレーンだ」


 長えよっ、と思わずツッコみたくなるのをぐっと堪える。何だかデジャヴを感じるぞ。


 しかし……序列4位とは、大層な相手と戦っているのだな俺は。


「強者である貴様に、頼みたいことがある」

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