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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『退治』

「貴様が真実を語るか、魔獣(あれ)を倒すかすれば、私もその問いに答えよう」

「お前は――」

「話している暇はないぞ。ほら、バルログナが動き始めた」


 コジュウロウタの村の前で応戦した時に殺気をあまり感じなかった。あっさりと魔獣討伐のために俺についてきて協力した。


 しかし、本気でバルログナを倒そうとしているようには見えなかったし、冒険者たちを守る素振りも見せなかった。


 極めつけは、バルログナの真の姿の存在を知っていたことだ。

 俺の記憶が正しければ魔族はともかく、人間はその情報を得ていないはずだ。


 試しにイーニャに尋ねてみたが、真の姿については知らなかった。


 いや待てよ。裏切り者のベルグスが〈魔獣〉についての情報を人間側に流していた。そこから知ることは可能か。

 俺が気付いた時には既に潜入されてから2週間が経過。その間に何度か王国と連絡を取って情報交換を行い、相手側にシグマがいたとすれば……わからん。


 切り札になり得るような〈魔獣〉をここで使った理由は何だ?


 まさか……俺か?

 不穏分子の俺を殺し……違うな。なら機会はいくらでもあった。


 ――試されている。それが妥当か。


 目的はわからないが、とりあえずそう仮定して動くとしよう。


 変に頭が回るのも困りものだな。可能性が次から次へと出てきやがる。


「シグマ。嘘だったら、わかっているよな?」

「脅しか? 私には効かないが、嘘ではないとも」

「良いだろう。魔獣だろうが神だろうが、倒してやるよ」


 お話をしている俺たちを狙って、バルログナが口から光線を放った。


 俺はただ、頭上で翼をはためかせて飛ぶバルログナを見据える。何故ならふたつの岩の拳が盾となり防いでくれるからだ。


 残りは光線を吐くのに夢中なバルログナの顔面を殴りにかかる。


 命中する前にバルログナは光線を止めて後ろへと飛翔して岩の拳を躱した。


 一つは躱したらしいが、残念ながらもう一つあるのだよ。


「ガフゥンッ!!」

「戦場では油断大敵だぞ?」


 隣のシグマを警戒しながら魔獣を諭す。


「ウガアァァァアッ!!!」


 魔法陣が多数展開。

 俺だけが狙いではないようで、魔法陣は都にも向けられている。


 透明な壁が見えないのだろうか。それとも壊す自信があるのか。


 まぁ、どちらでも構わない。


「……」


 考えてみれば、爪野郎がアカネかイーニャを傷つけたんだよな。爪野郎はこいつが操っているんだよな。


「あぁ……そうか。お前は俺のものに手を出したのか」


 ようやく理解した。こいつはもう――俺の敵だ。


「〈風の剣(ウィンド・ブレード)〉〈飛翔脚(アラクス)〉」


 文字通りの風の剣を両手に携え、空中で自由に移動できるように飛行魔法を使った。


 最後にもう一つ。


「〈瞬速(ソニック)〉」


 身体能力強化魔法も忘れずに。遠距離からの攻撃をすれば比較的楽に倒せるのだろうが、実際にこの手で成さねばわからないこともある。


 魔法陣が淡く光を帯び、黒い光線を次々と放っていく。


 よし、先にそちらを処理しよう。


「〈風斬(カザキリ)〉」


 飛び交う光線を避けながら、全ての魔法陣を真っ二つに斬り裂いた。空を飛ぶのもなかなか悪くない。


 次はアカネも一緒に飛んでみよう。


「お前にはとっておきだ」


 俺自ら斬ってくれよう。いきなり目の前に現れた俺に、バルログナは驚いているようだ。


 慌てて翼をはためかせて距離を取ろうとする。


「無駄なんだよ」


 バサバサと動く両の翼を岩の拳が掴む。――逃がしはしない。


「〈絶風〉」


 目にも止まらぬ速さで剣を振り、バルログナの翼を根本から斬り落とした。


「ガアアアアアアア!!!!」


 苦痛の叫びを上げるが、容赦してやるつもりはない。


 翼を失って地面に頭から落下する。


 立ち上がろうと必至にもがくバルログナに剣を突きつける。


「魔獣バルログナよ、ここは退きたまえ。お前ほどの知能の持ち主だ、どうせ人の言葉は理解しているのだろう? これ以上の争いは――」


 突然視界が光に覆われる。バルログナが大口を開けて光線をこの至近距離で放とうと言うのだ。


「俺はお前の魔法を解析した。それが何を意味するのかわかるよな?」


 バルログナの口から放たれた光線を、俺の正面に展開した魔法陣が吸収する。魔獣が光線を放ち終えると、そっくりそのまま舞い戻った。


 顔面に自身の光線を反射されてまともに食らってしまったバルログナは、もう終わりだなと思った。が、最後の力を振り絞って咆哮する。


 しかし、何も起きる様子はない。


 バルログナも表情はないが、困惑しているように見えた。


「爪野郎を呼ぶ気だったのか? 残念だったな、既に全部殺してしまった」


 危機に陥れば仲間を呼ぶ。同じ手段が2度も通じると思ったか?


 人間の皮を被って容姿だけではなく魔力まで偽装する方法は評価しよう。だがな、どれだけ試行錯誤しようとお前たちは所詮魔物。

 人間は爪や牙ではない、知恵を使って生き残ってきた。


 知恵比べで俺に勝てるわけがないだろ?


「……ゼイ、ガ」

「ん?」

「――ニンゲンフゼイガアア!!」

「そうやって他者を見下しているうちは、俺には決して勝てんよ」


 指をふっと降ろすと、4つの岩の拳が一つに合体した拳がバルログナの頭上から振り下ろされ、顔を地面にめり込ませて気絶させた。


 今度こそ終わった。


 そう思ってシグマに約束を果たしてもらおうと身を翻したその時、太刀が今まさに俺を斬ろうと迫っていた。


 体を捩って何とか躱わす。


 誰の仕業かは検討がついている。宣言通り、次は俺の番なわけだ。


 高濃度に風を圧縮した〈風の剣(ウィンド・ブレード)〉で反撃するが、間合いはあちらが上。どうしても防戦一方を強いられる。


「本当に倒すとは……」

「約束を守れよ、シグマ」


 互いの武器をぶつけ合いながら、俺たちは会話を行う。


「そうだった。貴様の推察通り、あれは俺がここを攻めるように仕向けた。これで満足だろう。早く殺されてくれ」

「初めから目的は俺なのだろう。なら何故、こんな回りくどいことをした?」

「なぜ? 決まっている――」


 シグマは口角を上げた。


「王国の脅威を排除するためだ」

「俺一人のために、随分と多くの王国の民を危険に晒したな」

「物事に多少の犠牲は不可欠。王国民ならば、名誉の死として受け入れよう」

「澄ました顔をしているが、その犠牲となる者がお前の大切な人でも同じ事を言えるのか?」


 眉がピクリと動いた。俺は効果ありと判断し、そこを重点的に攻めた。


「お前の親や、家族、愛する者を失ったとしても、多少の犠牲で済ませるのか? もしそうなら、俺はお前を……」


 どうすると言うのか。


 俺は知らない。シグマ(こいつ)のことを何も知らないのだ。


 そんな俺が、何をしようと言うのか。


「――殺すか? 貴様も所詮は悪党の一人だったわけだ」


 果たしてそれが正しいのか。


 察しているとも。お前は、あわよくば俺に殺されるつもりだ。


 お前の瞳に光がないのは寝不足だからではない……諦めようとしているからだ。その程度、とうの昔に見抜いていたとも。


 そんな生きることを絶望した奴に、俺は何をしてやれる?


 何をするのが正しいんだ?


「――問答無用」

「なんだと?」

「考える必要なんてないと言ったんだ。俺はお前を殴る、それだけだ」


 呆気に取られた顔をするシグマ。俺もその気持ちはわからなくもない。


 だが、何も知らない俺ができるのは、シグマに勝利することのみ。


 連戦で正直身体が重いが仕方ない。一人の人間の考えを変えれずに世界征服なんてやれるものか。


「バッカス! お前たちは都の復旧に行くんだ。俺は寝ぼけ野郎の目を覚ましてから行かせてもらう」

「お、おう……。よくわからねえが、男の戦いだな。思う存分やりやがれ、待ってるからよ」


 最初は戸惑いを見せるもすぐに笑って見せ、周りの冒険者や駐屯騎士たちを連れて都へと身を翻した。


「これでふたりきりだ。いつでもかかってこい、シグマ」

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