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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『参戦』

「俺は右から行く。お前は左から行け」

「私に命令するな」


 反抗的な態度なのに素直にバルログナの左側に行ってくれる辺り、口は悪いが根は良い奴なのかもな。


 気に食わないと言いたげな顔しながら遠くなる背中から視線を外し、バルログナの巨体を見上げると同時に再び咆哮する。村まで届いたものよりは弱々しい。


「さすがは魔物の上位個体、魔法まで使えるのか」


 黒い魔法陣がバルログナの周りに無数に展開する。数もさることながら、その大きさにも驚いてしまう。


 人の身長の数倍はあるぞ、あれ。


 魔法陣が光を帯びた次の瞬間、黒い閃光がこちらへと駆けてきていた冒険者たちに襲いかかる。


「良い連携だ」


 前衛の接近部隊はそれを気にせず走ることをやめない。どうするのかと眺めていると、後衛の魔法部隊が黒い閃光に、自らの魔法を当てて相殺した。


 しかし、魔力の差が激しい。相殺しきれなくなるのも時間の問題だろう。急がなくてはな。


 即席の部隊だろうに、お互いを信頼し合っている動きだ。冒険者だけならまだしも、怠慢な奴らと思っていた駐屯騎士までいるとなれば称賛せざるを得まい。


 勇姿を眺めていると、視界に影が落ちる。


 何だ、と思い上を見上げると黒い物体が俺の頭上から押し潰そうとする勢いで降ってきているではないか。――バルログナの足だな。


 こいつは歩いてここまで来たのか?


「〈大地の剛腕(グランド・ウェイク)〉」


 疑問を抱きつつ地面を軽く踏んでから影から抜ける。

 俺が先程いた地面から再び岩の拳が伸びる。足を持ち上げて体勢を崩そうとした。


 だが、衝突するよりも早く足裏に魔法陣が展開、そのまま岩の拳の存在などなかったように粉々に踏み潰された。


 同じ技は通用しないと言うわけだ。あながち単なる馬鹿ではないらしい。


 今ので俺の居場所を特定したのか、かなりの数の魔法陣が俺を標的にし、黒い閃光を無慈悲に放ってきた。


「ふん。この程度――っと危ない」


 刀で閃光を斬り裂いたまでは良いが、刀がみるみる劣化していった。どうやらただの黒い光ではないようだ。


 俺はうまく抜け出せたが、人に当たれば終わりだ。


 魔法で相殺できているから、魔力を劣化させることはできず、物体のみってところか。


 ドスンドスンと俺を無視してバルログナは一直線に都を目指して進行する。


「俺を無視するとは……良い度胸だ」


 シグマの真似ではないぞ。


「〈風の太刀〉」


 風を手元に収束させて、一振りの太刀を形成する。


 別にシグマを意識したのではない。たまたま現状に都合が良いのはこの形だっただけだ。


 頭上ではバルログナの黒い閃光と、後衛の魔法部隊たちの魔法による攻防が続いている。


 前衛部隊もそろそろ到着する頃合い。


 つまり俺も本格的に戦闘開始だ。


「ハアアアァァァァァア!!!」


 聞いたことのある声が耳に届く。


「グガアアアアアアア!!!!」


 次にバルログナが苦痛に満ちた声を上げる。


 既に一人で盛り上がっている奴がいるのは放っておこう。

 つべこべといろんな言い訳をしていたくせに、一番乗り気に見える。


 色からしてなかなかの訳ありなのだろう。目の下のくまだけでも苦労が窺える。


 馬鹿なのか生真面目なのか判断しかねるな。


 とにかく大きな戦力になっているのは間違いない。


「〈大地の剛拳(グランド・フィスト)〉」


 指をくいと上げると、地面がメキメキと音を立てて拳を形作って俺の周りに漂う。左右の拳がふたつずつ、合計4つの岩の拳だ。


 大きさは俺と同じくらいで、俺に勝手に追従するようにしてある。操って動かすのも可能な便利な岩の拳である。


 バルログナの魔法陣の解析も終わった。


 さてと、とりあえず準備は一通り終わったからバッカスと合流しよう。


「〈転移法(テイル)〉」

「――うおっ! あ、あぁ、ノルンか」


 いきなり目の前に現れた俺に驚くバッカス。


 すまない、驚かせるつもりはなかったのだ。


「みんな安心しろ、味方だ。戦いが終わったら紹介する。今は魔獣に集中してくれ」


 突然現れた謎の俺に困惑する前衛部隊を即座に落ち着かせて戦闘に意識を向けさせた。


 俺は運が良かったらしい。最初に訪れたギルドがバッカスのところで良かったと改めて思った。


「フォロー感謝する。簡単にわかっている情報を伝える」

「ああ、頼む」

「全身を覆う鎧のような鱗を甘く見るな。下手をすればこちらの武器が容易く負ける。それと黒い閃光に注意しろ、魔法や魔力を用いたものでなら防げるが、人体に当たれば一瞬で劣化、腐食して終わりだ」


 そう言っている隙に黒い閃光が俺たち目掛けて飛んでくるが、防御魔法を施しておいた岩の拳が盾となる。


 完全に防げたか。俺の考えは正しかったな。


「わかった、情報ありがとよ。おめえはどうすんだ?」

「魔方陣の対処をしつつ、攻撃する。遊撃手だな」

「心強い。そっちは頼んだぞ」

「任せておけ、誰一人死なせるかよ」


 言ってる傍から茶髪少年に黒い閃光が迫る。後衛は上空の対処で手一杯、中衛からの援護も間に合いそうにない。


 防御の構えをするが、閃光が当たれば無意味だろう。


「うわぁぁぁぁ……あれ?」


 足下に展開した赤い魔法陣が閃光から少年を守る。

 もちろん、俺の魔法だ。少年のを皮切りに、前衛の全員の足下に魔方陣が展開する。


「一定量の魔法ならこれで無力化できる。代わりに物理耐久はほとんどないから、そこは自己責任な」

「す、すげぇ……」

「これで思い切り戦えるぞ!」

「ありがとな、ノルン」


 感謝されるのは何度体験しても悪くないな。


「気にするな」


 俺がパチンと指を鳴らすと、至るところに展開されたバルログナの魔法陣がガラスのようなパリンッと音を立てて砕け散る。


「バッカス、声を借りるぞ。コホン――魔獣の魔法はノルンが何とかしてくれる。後衛部隊は上空から頭部や背中に攻撃を集中。中衛部隊は前衛の援護、及び足に攻撃を集中。前衛は全方位から攻撃を仕掛け、援護部隊は前衛と中衛部隊の援護を頼む」


 どうだ。通信魔法を使わずとも、こうして全体に指示を出せるのだ。


 得体の知れない俺などより、バッカスの指示の方が余程効果的だろうし、これで俺もあまり注目されない。何と素晴らしい作戦か。


 ついついニヤけてしまう。


 バッカスにはあとで説明すれば許してくれるはずだ。まだ報酬ももらってないし、いくらでも誤魔化せる。


 そう言えば、シグマは何しているのだろうか?


「フオォォォォオオオ!!!」


 誰かに聞くまででもないな。疑問に抱いた瞬間に雄叫びが聞こえたので、まだ生きているのだと教えてくれる。


 黒い閃光の脅威がなくなったことにより、こちら側の優勢は目に見えるほどとなる。バルログナも足を止めて、冒険者や駐屯騎士たちに意識を割いている。


 まぁ、魔法は俺が全て打ち消しているので、動かせる顔や足、更に鞭のような尻尾で攻撃せざるを得ない。


 不意に死角から放たれる魔法ならともかく、この鈍重な巨体から放たれる攻撃は当たれば致命的だが躱わすのは容易だ。


 〈魔獣バルログナ〉と畏怖されていても、所詮はこの程度なのか。


 予想以上に早く囲いを壊されたり、底なしの魔力や魔法には驚かされたが、対処できるとわかればどうと言うことはない。


 そう、思っていた。


 バルログナが突如攻撃を受けながらもそれを意に介せず、都の方にその(いか)つい顔を向けて口を開けた。


 また口から光線を放つのかと思いきや、何もせずに口を閉じて冒険者たちへの対処に戻った。


 何だ、何をしたのだ?


 自分が追い詰められているこの状況下で無意味な行動をするほど馬鹿ではないはずだ。いったい何を――まさか!


 的中してほしくない嫌な考えが頭を過ぎり、都への身を翻したその時――都内で爆発が起きて煙が上がった。


「俺としたことが!」


 都内に魔物か何かが入り込む可能性を考慮はしていたが、予想以上の戦力だったらしい。アカネやイーニャ、それにギルドのメンバーがいれば何となると思って油断していた。


 バルログナは冒険者たちがそちらに意識を向け、攻撃の手を緩めた隙に何かしらを仕掛けるつもりなのだろう。


 案の定、後衛部隊からの魔法の数や威力が減っている。事前にバッカスに伝えてられていても、実際に直面するとかなり堪えてしまうもの。


 すぐに彼らの心を立て直さなければならない。


「――くぅっ、おいおい……」


 息を吸い、もう一度バッカスの声を借りて冒険者たちを鼓舞しようとした。


 だが直前に腹部に激痛が走り、服がみるみる赤に染まっていった。


「イーニャか……?」

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