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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『刺客』

 照らし合わせたかのように、壁を越えた者たちの正面に転移した。


 騎士と言うには身軽な服装の集団。考えなくてもわかる、暗殺などを行う隠密部隊だ。


「貴様、何者か?」


 同じ質問をお仲間にされたぞ。

 声からして男のようだ。顔を見ただけで一目瞭然だが確信となった。


「王国の連中は礼儀を知らないようだな」


 だから俺も同じ返答をしてやった。


「答えないか。構わない、どちらにせよ始末するだけだ」

「悩み事が多いからって八つ当たりは良くないな?」


 あまり眠れていないのか目の下のくまが凄い。


「気にするな、殺ってしまえ」

「「御意」」


 くま野郎が指示を出すと、周りにいた連中がトプンとまるで潜るように地面の中に消えた。


 他にも黒い煙のように姿が霧散した者もいる。


 さすがは隠密部隊。隠れるのはお手の物なわけだ。


「お前たちはさ、いったい何人を殺したのだ?」


 俺は問う。その感覚はいったいどのようなものなのか知るために。


 人は生きるために動物を殺し、その命を食す。植物なる野菜も含めてだ。


 最低限生きていくだけなら、同族を殺す必要はない。

 だがお前たちは人が太古から一番の禁忌と定めてきた“同族殺し”をすると言う。


 どんな気持ちなのだ?


「教えてくれよ。いったい、どんな感覚なのだ?」

「――ぐわッ!」


 何もない場所に回し蹴りをお見舞いすると、姿を消していた人物が苦痛の声を上げて吹っ飛んだ。


 潜むだけなら、こいつらは一流なのだろう。


 見えもしないし、音もない。挙げ句魔力まで隠せるとくれば並の人間ならあっという間に死体に早変わりだ。


 だがな、俺は人間であっても町中で悠々と歩く平和な人々とは違う。


 〈魔王〉に召喚され、魔族の中でも最強と謳われる連中に鍛えられた。この程度で殺られたら、地獄で笑われてしまう。むしろ怒られる可能性が高い。


 そんなのはお断りだ。


 何故なら俺は――〈魔王〉だから。


 〈魔王〉とは、傲慢でなくして何とする。


 ……などと、キメてみたが、単に攻撃する――つまり標的を仕留めるためにはどうしても実体化しなければ、攻撃がすり抜けては無意味だ。


 だから、攻撃する直前に実体化は免れない。それを素早く感知して、相手より早く攻撃をすれば良い。


 超人的な感覚能力や、索敵能力が秀でていればもっと楽なのだろうなと思ってしまうがな。


 なら素早く感知とはどうやっているのか。答えは――風だ。


 俺の周囲半径2メートル範囲に気にならない程度の微量の風を漂わせている。この範囲内なら、文字通り何処に何があるか、誰がいるのかが手にとるようにわかる。


 実体化した瞬間に存在を感知、そこ目掛けて蹴りを入れたり拳を突き出せば当たる仕組みだ。


「どうしたどうした、俺を殺すのではないのかー?」


 次々とふっ飛ばしていく。


 そろそろ最初から見えていた連中は片付くな。

 どうせずっと隠密状態の奴もいるはずだ。挑発はしても、油断は禁物である。


 隠密部隊故の宿命で、こいつらはダガーや短刀などリーチが短い武器しか持ち合わせていない。


 俺が武器を使わず、拳や足で対処しているのはそれが理由だ。

 あと、奥の手は取っておく主義でな。


 なかなか身軽な相手だが、まだまだ素手で対処できる範疇だ。


「どうやら貴様を侮っていたらしい」


 くま野郎がようやく動いた。

 背中に携えた大きな太刀の柄を握りながら俺を睨みつける。


 長いな。率直な感想である。


 背中に背負ってギリギリ地面につかない長さ。身の丈ほどの長さとでも例えようか。


 しかし、あれを振り回されたら少々厄介だ。風が乱れる。


「この者の相手は私がする。皆は先に行け」


 村に向かうつもりだな。

 こんな生真面目な目の下くま野郎に村を見られると、面倒事になるのは目に見えてる。


「行かせるわけ――っと、危ない」


 流れる動作で身の丈ほどの太刀を鞘から抜いて振り下ろすと、まさかの斬撃が飛んできやがった。俺がひょいと躱わすと、チッと舌打ちされた。


 あんなのを食らったら大怪我だからな。痛いのはお断りだ。


「アアァァアァアアア!!!」

「案ずるな、激痛を感じても死にはしない」


 背後で凄まじい苦痛に満ちた叫び声が聞こえたので、丁寧に説明してやる。俺なりの敵への配慮だ。


 本当に死ぬことはない。代わりに死にそうな痛みを味わうがな。


 対隠密魔法に対して働く結界で、さながら雷を浴びた気持ちを味わっているのだろう。


「我らを甘く見――ぅあーれー」


 キラーン。空の星がまた一つ増えたようだ。


 冗談はさておき、対策が隠密なだけなわけないだろうが。まんまと弾き飛ばされたから、思わず笑いそうになったぞ。


 太刀を構えるくま野郎はピクリとも笑わない。無愛想が具現化したみたいな奴だ。


「俺はノルン。お前の名を聞こう」

「……シグマだ」


 相変わらず睨み付けてきているが、名前を教えてくれる程度の評価は得たらしい。


「水くさいぞノルン。戦いなら、某に声をかけてもよかろうて」


 背中に久しい声が投げ掛けられる。


 村長自らお出ましとは、なかなかの太っ腹だな。


「悪い悪い。丁度今誘おうと思っていたところだ」

「面白い冗談だ。有象無象は某が引き受けよう。大将の首を貴殿に譲ろう」


 コジュウロウタめ、景気良く息巻くのは構わないが、そう簡単に倒せる相手では……あるようだ。


「ウギャッ」

「なんだと!」

「ばっ、ばかぐはぁっ!」


 後ろから聞こえてくる断末摩で、心配無用だと答えられた気がした。


 村を出てからそんなに時間は経っていないのに、短い間で腕を上げやがった。


「素手で私と戦う気か?」

「不服か?」

「いや。どちらにせよ、結果は変わらない。(かけ)ろ――〈飛月(ひづき)〉」


 太刀を振るった軌道から斬撃が鋭い衝撃波のように飛んでくる。


 どうしても俺に武器を使わせたいのか、躱わせない角度や方向を狙って飛ばしてきやがる。


 ここは癪などを気にしている場合ではないな。5分間耐えるのではなく、別にそれより早く戻っても良いのだから。


 隠し持っていた刀で斬撃を斬り裂く。


「退かなくても良いのか? お前のお仲間はもうそろそろ全員倒れるぞ」

「貴様――いや、貴様らこそ理解しているのか。これは明確な反逆行為だ。断罪の対象となる」


 眉間にしわを寄せて、更に目付きが悪くなるくま野……シグマ。


 太刀の先端を突きつけながら宣言する。


「お前たち王国の連中は同じことしか言わないな」

「やはり貴様が……。貴様だけでもここで葬ってやる」

「血の気が多いのも同じだ。お前たちに己の意志はないのか?」

「王国の繁栄が私たちの意思だ。邪魔する者は排除する、それだけのことだ」

「――哀れな奴だ」


 俺がそう言うと、シグマは僅かに眉を歪める。


「なんだと……私が哀れだと?」

「哀れでなければ、寂しい奴だな」


 一気に距離を詰め、振り上げた太刀を力の限り思い切り振り下ろしてきた。


 刀で受け止めると、足が地面を凹ませた。


「調子に乗るなよ。貴様に私の何がわかる? 何も知らぬ者が、私を語るな!!」

「怒るのは、何かしらの心当たりがある証拠だ。己を見失った抜け殻が、ここまでの力を出すのは何故なのだろうな?」


 悲しさ、怒り、辛さ、葛藤……諦め。


 シグマはその中をぐるぐると回っているように見えた。


「黙れ!!」

「指揮官が冷静さを欠いては、部下を殺すぞ?」

「言われるまでもない。私は――冷静だ!」


 ぶんっと風を斬るように振り下ろされる太刀。俺は受け止めきれずに後ろに押され、浅く地面を掘る羽目になった。


「貴様はここで私が――」


 太刀を構えて、今にも斬りかかってきそうなシグマの邪魔をしたのは一陣の風だった。


「……違う。風ではない」


 俺は無意識に呟く。そして、とある方角に自然と視線が向けられる。


 背中に冷や汗が伝う。笑いが込み上げてきそうでもある。


 しかし、俺の顔は笑顔とは程遠い、険しいものだろう。


 敵味方関係なしに、それを感じ取った全員が手を、思考を止めていた。


「ここまで届くとは、予想外だ……」


 風ではない。魔力の余波だ。それも、とてつもなく強大な。


 正直、甘く見ていた。何とかなると思っていた。俺ならできると……。それが驕りだったと思い知らせてくれた。


 事態が急変した。これ以上、時間を無駄にできない。


「シグマ。悪いが、まだ続けると言うのなら、容赦はできない」

「容赦していたとは……なめられたものだ。まさか、貴様が倒すとか言わないよな?」


 初めて笑った。こちらを小馬鹿にしているのが気にくわないがな。


「そのまさかだとも。俺には、己の意思で守りたいものがあるんでな」

「……バカにしやがって」


 吐き捨てるように言った。


「まさか、ついてくるのとか言わないよな?」

「その、まさかだととも。私にも、守りたいものがある。だが……私は誇り高きアインノドゥス王国の騎士だ。民を守らずして、何が騎士か!」


 俺にではない、自分自身に言い聞かせている。気持ちを奮い立たせるために、のし掛かるものに負けないために、シグマは覚悟の雄叫びを上げた。


「命令は村の調査だろう。俺と一緒に来れば、もれなくお前も反逆者の烙印が押されかねないぞ?」

「違うな。命令に背くわけじゃない。私は、邪魔物(貴様)を排除するために、最善を尽くすだけだ」


 ものは言いようだな。


「さすが、噂に違わぬ腕前だ」


 シグマは自分の部隊(隠密部隊)の全員を倒し終えたコジュウロウタに称賛を送った。


「敵だ味方だのと争っている場合ではない。先程感じた力の持ち主を何とかするのが優先だろうて」


 シグマ以外の全員を地面に寝かせたあんたが、一番それを言えない気がするぞ。


 コジュウロウタが交渉する俺たちのもとへと歩み寄る。


「あんたはここにいろ。さっきので魔物が活発化するだろう。村の安全に専念してくれ」

「貴殿に言われずとも、そうするつもりだ」


 笑顔を見せてきたと思いきや真剣な表情へと変えて訊いてきた。


「倒せるのか?」

「俺が誰だか知っているだろう。たかが魔獣一匹で、足を止められてたまるか」

「随分な自信だ」


 しれっと俺とコジュウロウタの会話に乱入してくるシグマ。


「お前……本気で来る気か?」

「しつこいぞ。私は貴様を倒すと言っただろ。魔獣退治もその一環だ」


 やれやれ、言っていることが無茶苦茶だ。寝不足で頭がおかしくなっているのではなかろうか。


 寝ぼけて後ろからぐさりとかお断りなのだが、大丈夫なのか……?


「コジュウロウタ、そいつらの手当てを頼む。起きる前にこれを鳴らして聞かせておけ」


 懐から小さなパーツを取り出し、組み立ててから渡す。


「鈴?」

「ちゃんと使えよ」

「承知した」


 コジュウロウタが承諾したところで、俺は身を翻した。


「足手まといになったり、俺の邪魔をしたら、即王国に飛ば(転移)してやるからな」

「安心するがいい。貴様は魔獣の後で殺す」

「殺されてやるつもりはないが、協力するなら連れていこう」

「連れていく……まるで転移魔法でも使えるみたいだな」


 眉を歪めてくるシグマ。


 どうやら本当に寝ぼけているらしい。ここに来る時に俺は転移してきただろうが……見ていなかったのか?


「……っ。では頼もうか」


 思い出したようにハッと目を見開くシグマ。しれっと転移を要求してきた。


 俺から提案したようなものだし、仕方ないか。


「転移すれば、即座に魔獣との戦闘になる。最後に確認だ、準備は良いか?」


 魔方陣を展開させながら必要ないだろうと思いつつも、念のため訊いておいた。


「いつでも構わない」

「そうか、安心した――〈転移法(テイル)〉」


 返答を聞いた瞬間に転移した。

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