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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『魔獣』

 くいくい。

 袖が引っ張れる。誰だと振り向くと誰もいない。もしと思い視線を下に落とすと、我が服の袖を掴んでいる人物を発見。


「アカネ?」

「……」


 コクンと頷かれても何が言いたいか……あいにく俺にはわかるのだよ。


 しゃがんで目線をアカネに合わせる。


「相手は人ではない、魔獣だ。俺はお前を育てると決めた以上、お前を守らなくてはならない。生きる術を覚えさせるために多少の危険に晒しても、死に晒すつもりはないんだ」

「……」


 納得してくれたのかいつものようにコクンと頷いた。が、すぐにかぶりを振った。


「……」


 何かを伝えたそうだ。俺は目を逸らさずにじっと待った。


「兄様なら、魔獣を倒せるかもしれない。アカネはそう言いたいんじゃない?」


 申し訳無さそうな顔をしながら、アカネの気持ちをイーニャが汲み取った。


「この都のみんなで5割なんでしょ。兄様が加勢したら残りの半分は補えるって、私は思うの」


 迷いを帯びていたのに、言葉を紡ぐにつれて覚悟を感じさせる表情へと変化していった。


 イーニャ(こいつ)もわかっているのだ。ここに来るまでは成り行きで人助けみたいな行いをしてきたが、俺たちの本来の目的は〈アインノドゥス王国〉、ひいては世界の現状を知る調査なのだと。


 そして、イーニャはその道案内に過ぎず、俺もこの都とはほとんど無関係の赤の他人に等しい。アカネに関しては完全に巻き込まれただけの被害者と言えよう。


 目的通りに行動するなら避難場所に今からでも向かうべきだ。


 なのにイーニャは、俺に戦えと言った。


「ほっとけないよ、(ここ)の人たちを、ギルドのみんなを。アカネも同じ思いじゃない?」


 頷かれてしまった。しかも力強く。


「ノルン。助けられてばっかりのオレがこんなことを言えねえのは十分わかってっけどよ……頼む、もう一度、今度はオレたちと共に戦ってくれねえか?」


 逃げも恥じらいもない。仲間のために頭を下げるバッカス。


「頼む、このとおりだ!」

「兄様……私からもお願い」

「……」


 3人に頭を下げられて、これでは俺が悪人だな。もとが〈魔王〉だから、全然悪人でも狂人と罵られても構わないのだが……毒されたのかもしれない。


 俺は自分のことを、もっと淡白な人間だと思ってたんだけどなぁ……。


 まったく、はた面倒な役だ。


「良いだろう、特別に加勢してやる。だが、5分だけ時間を稼げ。知り合いがどうやらピンチらしくてな。先にそちらを片付ける」

「れぐ――兄様!」


 こいつめ、わざとやっているのではないかと思えてくるぞ。


「……ありがとよ」

「感謝は良い。報酬を忘れるなよ。アカネとイーニャは都民の避難を手伝え。バッカス、ギルドメンバーで3〜5人のグループを3つほど作って、そいつらにも都民の避難誘導、並びに都内の警戒に当たらせろ」


 魔物は基本的に群れで動く習性がある。

 加えて魔物の上位個体ならそれなりの知能もあるだろう。


 それらのことを踏まえ、都内に〈魔獣〉の手下魔物が現れる可能性を考慮したのだ。


「反論は受け付けない。さぁ、解散!」


 それぞれが俺の指示に従って行動を開始する。


 人間のものとは思えない魔力がちらほら感じ取れる。そいつらが魔物の可能性が高い。杞憂に終わってくれるのが良いのだがな……。


「アカネ。お前にこれを渡しておく。いざという時に使え」


 俺の血を入れた小瓶を渡した。


 すると、すりすりと俺の胸に顔をうずめてからイーニャのもとへと走っていった。感謝の気持ちを伝えたわけだ。


 可愛らしいアカネの仕草に微笑んでから、〈魔獣バルログナ〉の姿を確認するために都の外壁まで転移する。


 まだ距離はあるようだが、ギリギリ目視で捉えられる。


 四本足の黒く巨大な生物。パッと見の印象はそんなだった。

 近くで見たらおぞましくなるかもしれない。


「やはり大きいな……」


 予想通りの巨体に、思わず空を見上げた。


 どうやって倒したものか。時間稼ぎが本当に可能かどうかを試そう。


 俺は天高く手を振り上げ、詠唱を行った。


「母なる大地よ、我が呼び声に応え、その力で()しき魔獣を貫け――〈大地の剣(グランド・ソード)〉」


 魔獣付近の大地の何ヵ所かが盛り上がり、それはやがて巨大な土の剣が宙に浮いたまま固定され、俺の命令を待った。


「――行け」


 俺の第一の目的はあくまで時間稼ぎ。倒せたら万歳して喜べるが、国に危険視されるほどの魔獣だ。


 この程度はほんの挨拶のつもりだった。

 人間相手の大きさなら詠唱は不要だが、山一つ分の大きさとなると話が変わる。まだまだ俺も修行不足なのだ。


 剣は〈魔獣バルログナ〉を串刺しにはせずに、手足の隙間にうまく入り込んで行進を止めた。


 これで終わりではない。


 地面が〈魔獣バルログナ〉を囲むように盛り上がった。巨大な土の檻である。

 見事に四方から囲み、剣の効果も合わさって行進を止めた。


 この隙に精神統一を10秒以内に済ませ、都に全体を結界で囲んだ。手下魔物が既に侵入している可能性を考慮し、魔物が弱まるようにしておいたから、よほどの相手でなければ冒険者でも勝てよう。


「ふぅー、こんなものか?」


 三重結界。

 内側から魔物弱体化、及び防御壁の役割も備えた優秀な結界だ。

 一番外側には〈魔獣バルログナ〉の攻撃にも耐えられように一細工しておいたから問題はあるまい。


 これで準備は整った。


 結界を最後にもう一度確認した後、俺はコジュウロウタたちがいる、人間界に来てから最初に訪れた村に転移した。

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