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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『報告』

「今日は祭りか何かか……?」


 ギルドに戻ってきた俺の第一声は純粋な疑問だった。


「おかえりなさい、ノルンさん」


 受付嬢が笑顔で出迎えてくれたので、軽く会釈を返す。


「盛り上がるのは構わないが、ほどほどにさせた方が良いぞ」

「面目ありません」


 俺の指摘に受付嬢は苦笑い。

 ギルドマスターは何をやっているのだ……。


「バッカスは上か?」

「はい。イーニャさんとご一緒に、ノルンさんをお待ちです」

「わかった。ありがとう」


 返事をすると、フフと笑われたので首を傾げた。


「どうかしたか?」

「い、いえ、お二人が親子のようだと思いまして」


 俺とアカネを見て、穏やかな表情を浮かべた。

 自然と手を繋いでいる姿は、確かに親子なのかもしれない。


 仲良しっぷりを見せつけてやろうと企みながら、俺とアカネは酔っぱらいたちを掻い潜って階段を上がった。


 もし今、敵襲されでもしたら数秒のうちに陥落するだろう。


「戻ったぞ」


 扉は開け放たれていたので遠慮なく入らせてもらった。


「おかえりなさい、兄さ……ま?」


 視線が俺の顔から下へ行き、手元にたどり着くや否や首を傾げるイーニャ。


 作戦成功だ。ぐぬぬと悔しがっている。


 感情がだだ漏れなこんな間抜けな奴を、誰がスパイだと信じようか。


「ただいま。――早速だがバッカス、話しておきたいことがある」

「わー」

「只事じゃなさそうだな。わかった、聞かせてくれ」

「……」


 イーニャに近寄って唐突に頭を撫でて、撫で回して機嫌を誤魔化そうとしてみる。その間にバッカスへの要件を済ませようと考えたのだ。


「悪いが、少年たちは取り逃がした。邪魔が入ってな」

「逃したのは別に構わない。それで、その邪魔者が重要なわけか」


 仲間の仇を逃してしまったのを責められるかと覚悟していたが、杞憂に終わったようだ。


「ああ。奴らの正体には〈法儀国カイゼルボード〉が絡んでいた」

「法儀国の連中がか……。わからんな、どうして王都の連中じゃなくて、一介の冒険者を襲ったんだ?」


 法儀国が王国に反感を抱いているのはかなり有名な話だから、バッカスの疑問は最もだった。


「推測に過ぎないが……3人とも恐らくは別の世界からこの世界に召喚された奴らだ」

「召喚……噂でちらっと聞いたことがある。だがよ、それは王国の上層部の連中が魔族に対抗する〈勇者〉を呼ぶための最重要機密のはずだ。情報はともかく、なんで召喚のやり方を法儀国が知ってんだ?」

「俺も一応部外者だぞ……。こう考えるべきだろう、法儀国に召喚方法を知ってる奴が亡命なり何なりをしてしまった、とな」


 数多ある人間の国々で、圧倒的な国民数を誇る〈アインノドゥス王国〉だ。機密を知る一人やふたりがいなくなろうと大きな影響はあるまい。まして、そいつらが敵に回ることもあり得る。


 個人的には、その機密を王国民かわからない俺たちに軽々と話してるバッカスがおかしい。


 信用されていると捉えるべきか?


「下手をすれば、法儀国との戦争にもなりかねない。だからギルドとしてどうするか確かめたかったのだ」

「なるほどな。他国が関わってくるとなると、ギルドだけで決められる案件ではないものな」


 正直な話、俺一人で国を滅ぼすのは不可能ではない。

 しかし、人を殺せるかと問われれば首を縦には振れないのが俺の現状だ。


 バッカスや殺されたギルドメンバーには悪いが……。


 俺は重大なミスに気付いた。


「――あ」

「どうした?」


 魔法で保護しておきながら、そのまま放置してきてしまった。


「バッカス、ちょっと待っててくれ。5秒で帰る――〈転移法(テレイル)〉」


 惜しむアカネに手を離してもらい、すぐさま転移して……連れて帰ってきた。


「損傷していた部分は治しておいた。俺がしてやれるのはそこまでだ」


 あの怪しい(じじい)め、連れて行こうとしていたようだ。魔力が残っていたのでバレバレだ。まぁ、俺の魔法の前に断念したらしいがな、ざまぁないぜ。


「あ……あぁ……ずずっ……ありがとう。感謝してもしきれない」


 あーあー、だいの大人が涙を流して……。たとえ生きていなくとも、それほど帰ってきたのが嬉しいのだろう。


 良いギルドマスターだな。


「おーいっ。起きてる奴がいたら手伝ってくれー。いや……お前ら全員起きて手伝え!!」


 ギルドマスターの一喝で寝ていた連中が飛び起きる。酔い醒まし効果まであるようで、皆が仲間の遺体を運ぶのを手伝った。中には号泣する者まで出てくる始末だ。


 ほんと、仲の良い連中だ。見てるこっちが恥ずかしくなるくらいにな。


「俺たちはここで待ってるよ。ちゃんと仲間を弔うのだぞ、ギルドマスター」

「当たり前だぁ! 悪いが報酬はそのあとにさせてもらうぜ。帰ってくるまで、ゆっくりしてってくれ」


 わからないことや必要なものがあったら、受付に言えば何とかなるようにしておいてくれたらしい。かといって、今のところ急ぎで必要なものはないので、大人しく待つとしよう。


「バッカスと何を話してたのだ?」

「教えなーい」


 そっぽを向かれてしまった。


「そうか。また話したくなったら聞くとするよ」

「ちょ、ちょっとぉ。少しくらいは食い下がりなさいよ」

「しつこい男は嫌われるのでな」

「時々はしつこくしなきゃダメなの」


 今度はムッとした顔を見せてきた。


「覚えておこ――」

「……」

「どうしたの?」


 言葉の途中で止めたのを不審に思ったのか、アカネはともかく、機嫌を損ねていたはずのイーニャまで俺の顔を覗き込んできた。


 ()を何者かが破壊したようだ。

 新人マクシスに代わる調査隊だろうが、タイミングが悪すぎるな。


「いや、何でもない、気にするな」


 俺が何食わぬ顔で返事をした時、カンカンカンと甲高い鐘の音が都中に響き渡った。


 俺が苦い顔をした原因はこちらの方だ。


「なに!」


 素直な反応をしてくれるイーニャ。


 おかげでこっちは落ち着いていられるよ。


 こういう場合は大抵良い状況とは逆が多い。


 鐘の音の次は、外が何やら騒がしくなってきた。


「逃げろー!!」

「あんな化け物、どうすりゃいいんだよ!」

「きゃー!」

「あっぶね、押すんじゃねえ!」


 予想は残念ながら的中のようだ。

 アカネはイーニャと違い、俺と同じように落ち着いて状況を把握するべく窓から外を見る行動に出た。


 すると、ドタドタとバッカスが荒々しく階段を上がってきて、


「おめえら、早いとこ避難場所に行きなっ、ここにいちゃ危ねえ!」

「待て。簡潔で良いから、状況を説明しろ」


 避難させるために急いで駆けつけてくれたのだろう。息を切らすバッカスに俺は問いかけた。

 一旦軽く息を整えてからバッカスは告げた。


「――〈魔獣バルログナ〉がこの都に真っ直ぐ向かってる。目的は不明だ。まさか魔獣を法儀国の連中が操れるわけないからな」

「バルログナ?」

「兄様……知らないのですか……?」


 顔を真っ青にして訊いてきた。


 お前の顔で何となく察しがついたが、一応聞いておこう。


 ああ、と頷いて先を促した。


「魔物の数少ない上位個体、それを魔獣と呼ぶの。その中でも危険視されてる3体の魔獣がいて〈三大魔獣〉と呼んでる。一つの町や都を滅ぼし、国一つにも甚大な被害を出すと言われている恐ろしい生き物なの」


 怖がりついでに焦っている割にはかなりの饒舌で説明してくれた。簡潔でわかりやすかったを言葉で伝える代わりに頭を優しく撫でてやる。


「で、その恐怖の権化〈三大魔獣〉の一体がこの都に向かっていると。しかも迷わず真っ直ぐと……」


 バッカスに視線を合わせて続けた。


「各ギルドには既に指示が出ているのか?」

「ああ。――都を必ず死守せよ、だ」


 わかりきった返答を聞いて俺は視線を逸らした。


 都の外から感じる強大な魔力の元が〈魔獣バルログナ〉だとすれば、各ギルドが協力して戦った場合、勝利するのは難しいが可能だろう。


 半数以上の犠牲を出すのは必至だがな。


「勝てる見込みは?」


 問いかけるとバッカスは顔を伏せた。


「この都の戦力じゃ、よく見積もって5割くらいだろうな」


 なるほど、自分たちの、あまつさえ都の戦力まで含めて考えられるとは驚きだな。


 他のギルドや駐屯騎士たちの力量を把握していなければ、そうは言えまい。


 他のギルドではなく、バッカスのいるこのギルドを選んで正解だった。


 さて、お次は俺が考える番だ。

 コジュウロウタたちのいる村には王国の新手が迫っている。しかしこの都を、特にバッカスたちギルド〈ボルボレイン〉のメンバーをみすみす死なせるのは惜しい。


 軽く見ただけでも、伸び代がある奴は少なくなかった。


「はぁ……」


 ため息が出てしまった。

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