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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『虐殺』

「強者が弱者をいたぶり殺すのは、もはや争いではない。ただの虐殺だ」

「ハハッ、何が言いたいんだよ。もしかして人を殺すなって? 殺さなきゃ殺される世界で、人を殺して何が悪いんだよ!」


 地面に這いつくばったまま、頑張って強がるショウト少年。


「やはり……」


 軽く息を吐いた。


「お前たちは外道だな」

「さっきから、ムカつくんだよ。ヘラヘラしやがって!!」

「その理由なら、お前たちが良く知っているだろう。――余裕、なんだよ」


 手足を光に貫かれた苦痛で上げた叫び声が山にこだまする。


「治さないのか? 早く治さないと失血で死ぬぞ」


 欠伸が出てしまった。


 ……まずいな。冷や汗が流れる。


 退屈だからとか面倒だからとかそんな理由で出た欠伸ではないのがすぐにわかった。俺の予想以上に、アカネの吸血による疲労が大きかったらしい。


 そんな疲労が蓄積された状態で、ギルドで暴れたり、転移魔法を何度も使ったり、戦闘を行えば限界が来るのは至極当然。


 この結界が俺の身体に追い討ちをかけた。意識は飛ぶような事態にはならなそうだが、今にも倒れそうなんだよな……。

 倒れたら寝る、間違いなく寝る。それもかなりの熟睡だ。


「まぁ、実を言うと俺もお前たちのことをあまり悪く言えないんだ」


 口角を僅かに上げて地面に這いつくばる者たちを、哀れみを込めて見下ろした。


 俺は平気だ。全然平気だ。ククク、そうだ、俺は余裕なのだよ。


 病は気からと言うのを聞いたことがある。それを必死に試して身体を持ちこたえさせる。


「だからお前たちに、こう考えるのを許可しよう。自分たちは争いでも殺し合いをしていたのではない、強者による蹂躙――虐殺をされたのだと」


 俺は善人ではない。善か悪かと問われれば、間違いなく悪だと答える存在なのだ。


「光栄に思うが良い。絶対なる強者に殺されるのだから、来世まで語り継いでも誉れとなろう」


 アカネが目に見える距離まで近付いていたので、格好いいところを見せねばならないからな。


「おっと」


 全身の気だるさに拍車がかかり、片膝を地面につける。


「結界か……いや」


 俺を中心に地面が窪んでいる。気だるいのではなく、重いことに気付いた。


 疲労のせいで結界への抵抗力が弱まったと考えたが違うようだ。


 俺を中心に、周りの空気すら重くされている。噂に聞く重力魔法と言うやつだ。


 魔方陣は何処かなと周囲を見回してみても、それらしきものは見つけられない。


「あー、あれか」


 まさかと思い頭上を見上げると、そこには黒い魔方陣が光を帯びていた。


 よくもまあ、あんな高いところから俺を捉えたものだ。などと感心していると、一人の白いローブを着た謎の人物が、黒い煙と(もや)を掛け合わせた穴の中から姿を現した。転移魔法とは少し違うな。


 なんだ、あの魔法は?


随分(ずいぶん)と派手にやられよって……。ここは一旦退くぞ」

「まだ負けてない……!」

「仕方ない――」


 声だけで判断するならばお爺さんだな。如何せん背中を向けられた上に、頭もフードで隠れて顔すら見えん。


 しかしあのうるさい奴を一言で黙らせたのか?


 誰かに従うような連中には全然見えなかったが、何かしらの理由がありそうだ。


「勝手に逃げられては困るのだが?」

「申し訳ありません。この者たちに死なれては、こちらが困りますので」


 俺に振り返り礼儀正しい所作を見せる。


「見たところ、貴殿もお疲れのご様子。ここは見逃してはいただけませんか?」


 杖をこちらに向けながら言うことかよ。それは最早お願いではなく脅迫だぞ。


 加えて重力魔法の強さも増している。


 別に逃げられても構わない。むしろ逃げて拠点に帰ってくれた方が正体が判明するので、本音を言えば俺としても悪い条件ではない。


 謎の爺さんから手がかりになりそうなものはないし、身に付けてすらいない。強いて言えばあの杖くらいか。


 先端に黒く丸い宝玉をつけた、木であしらったもの。形状を見たことがある気がするのに、なかなか思い出せない。


「断ると言ったら、俺と戦うのか?」

「できればそうしたくはありませんが、致し方ないのであれば――〈拘束鎖(バインド)〉」


 地面から鎖が伸びてきて、俺の手足に巻き付く。


 さらっと無詠唱で魔法を使いやがった。


「この鎖……」

「驚きました。これほどの魔力の持ち主とは」


 鎖が俺の魔力を物凄い勢いで吸収してやがる。まるで暴走状態のアカネの吸血だ。


 背後にいるアカネには手出しをしないように指示しておいて正解だった。この後、ご褒美を与えようと思っているのに、アカネまで魔力を吸われては俺の身が保たん。


「存外楽しめましたぞ。それでは――」


 その言葉を最後に謎の爺さんと3人の少年は穴の中へと消えた。全員が穴へ入ると同時に、文字通り煙のように霧散する。さらに言うと重力魔法も解除されたようだ。残るは魔力を吸いたがる鎖だけ。


 それを確認してから、アカネが駆け寄ってきた。


「……」


 何だこの構図は。


 アカネが鎖に繋がれた俺の正面に立ち、無言で見下ろしている。


 早く鎖を千切らないのかと言いたげだな。

 魔力の吸収は無効化したが、確かにいつまでも鎖に繋がれた訳にはいかないな。


 紙を破るように魔法の鎖を軽く引き千切り、自由の身となった。


「ちゃんと理由があるんだ」


 アカネの頭を撫でながら説明してやった。


「魔法は術者と必ず繋がりがある。鎖の術者があの爺さんとは限らないが、仲間であるのは間違いないだろう。だからその繋がりを利用させてもらった」


 魔法と、魔法を使用又は発動させた術者とは必ず繋がりがある。


 簡単に例えるなら料理と料理人の関係だ。魔力が材料、料理人が術者と言ったところか。


 魔力だけでは魔法にはなり得ない。


 同じように、材料だけでは料理とは言えまい。


 どちらもそれらを加工や構築をするものがいなければ、魔法(料理)にはなり得ないわけだ。


 自然と接点ができてしまうわけだ。その魔法を使用した術者、その料理を作った料理人。


 まぁ、詰まるところ魔力が大きく関係している。


「魔法は体内の魔力を体外の魔力と掛け合わせて魔法に昇華されるのは教えただろ? つまり、使った魔法には必然的に術者の魔力が注がれてることになる」

「……」


 そこまで聞いてハッとなるアカネ。どうやら結論に至ったようだ。


 アカネは説明が楽で助かる。何処ぞの妹も見習ってほしい。


「わかったようだな。そう、魔法で術者の居場所を探らせてもらった」


 頭の中にある世界地図と照らし合わせる。


「そんなに顔を見るな。集中できん」

「……」


 しゅんとなるアカネ。


 もしや強く言い過ぎてしまったか……?


 誤魔化すために頭を撫でながら、作業を再開して場所がわかった。


「ここは、あぁ……〈法儀国カイゼルボード〉か」


 何とも言えない気持ちになる。

 表情にも出ているのか、アカネが俺の顔を見ながら目を丸くしている。


 どんな表情になっているのやら……。


「〈法儀国カイゼルボード〉は、もと辿れば〈アインノドゥス王国〉に行き着く。まぁ、簡単に言えば、自分たちが正しいと信じて疑いもしない偽善者集団だ」

「……」


 アカネは首を傾げる。


「国王や貴族の考えに賛同できなかった連中の集まりに、他の小国からの流れ者が合わさって建国された国なんだ。掲げるは“奴隷の解放”と“国民に自由を”だったか?」

「……」

「奴隷解放に関して俺は何かを言えた義理ではないが……、国民の自由については求めるものが良くわからんのだよ。どちらにせよ、自分たちが上に立ちたいから、国民の指示を仰ごうとしているだけの建前だろう。その証拠に奴隷を(・・・)使っていた(・・・・・)からな」


 あの3人の少年たち全員から奴隷紋の魔力を感じた。それを辿る手段も考えていたが、彼らのご主人が現れたとなれば優先順位は当然そちらに傾く。


 まぁ、本当は両方とも追跡魔法を仕掛け済みだから、余計な手間をかけただけなんだがな、はははは。


 自分の魔力行使能力がどの程度なのか今一度知る良い機会になった。


 その点だけは奴らに感謝しないとな。


「さて、戻るぞアカネ。法儀国が関わっている事実を知った以上、バッカスの意見を聞いておきたいからな」


 コクンと頷きかけて、途中で止めてじっと見つめてきた。


「どうした、俺に見惚れたか?」

「……!」


 ポカポカと何度も軽く叩かれた。顔が真っ赤なのに触れたらもっと怒られてしまうだろう。


「半分冗談だ。約束は覚えているとも」

「……」

「本当だ。アカネの勝ちだからな、もろもろの用事を済ませたらご褒美をやるよ。良い子で待てるか?」

「……」


 今度こそコクンと頷いた。


 心なしか表情が明るくなった気がする。少年剣士との戦いが良い効果を引き出したのだろうか。


 いつか話を聞かせてもらおう。


「よし、掴んだな――〈転移法(テイル)〉」


 アカネが手を掴んだのを確認してから転移魔法を使い、パラディエイラに戻ったのだった。


 行く時は時間がかかったが、戻る時は一瞬だった。

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