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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『選ばれし者』

 俺が切り開いた木々の先にいた少年たちを見つける。


「いたいた」


 やってきた俺に驚きもせず、優雅に待ち構えていた。


「また来たんだな」

「まさか、トウヤが殺られた?」

「中に入ったのは二人だったから、もう一人が相手してるんでしょ」


 お話をする余裕まで持ち合わせていると。


「さっきの光線を撃ったのはあんたか?」


 身軽な服装の方の少年が薄ら笑いを浮かべながら尋ねてきた。


 剣士の少年もそうだったが、こいつらは余程勝つ自信があるようだ。人の命を弄ぶだけの余裕が……。


「そうだ」


 隠さなくて良いだろう。


「いやー、結構強力だったよぉ。でもおれらには効かなかった。残念だったなぁ、頑張って撃ったんでしょぉ? だってあんた、全然魔力残ってないじゃん。最初から少なかったけどさぁ」


 よく喋る奴だ。


 もう一人の姿が消えている。

 耳を澄ませばジャリジャリガサガサと聞こえる。姿を消しただけで、音は消せていない素人だ。


 お喋りは陽動のつもりなのか。


「――よし、終わった」

「あ? なんだって? 声が小さすぎて聞こえないなー」


 お前たちに言ったのではない。

 遺体の保護が終わったので、これでようやく戦えると思ったら、ついつい口に出てしまったのだ。


「展開――」


 ついでに攻撃の準備も終わっている。


「だからなんだ、って……おいおい、嘘だろ?」


 無造作に配置された魔法陣が存在を主張する。


「躱わせよ」


 俺の言葉を合図に魔法陣から光が放たれる。


 適当に配置したので、俺にも当たってくるので難なく躱わして観察を行う。


 お喋り少年は光る繭のようなもので身を守り、透明少年は残念なことに光の一撃を受けてしまう。片腕を押さえて苦痛を声で伝えてきた。


「あぁあああああああぁああっ、いいあいいい痛い痛い痛いッッッ!!!」


 掠った程度でそれかよ――とでも思ってやれば良いのかね。本体が背後から近付いているのは既に見抜いている。


 透明化少年は光を操れても、音は操れないらしい。

 魔力も全然感じるから隠密行動には程遠い。ここにいる、と自分から教えてくれているようなものだ。


 ――戦闘に関しては素人。力を持っているだけの浮かれた子ども。

 ならこいつらを招いた奴が別にいるわけだ。そちらを何とかしないと、同じことが繰り返される。


 結界の効力もわかってきたし、〈シャイニング・ブラスター〉も止まる頃合いだ。


 そろそろ終わらせよう。


 競争についてはアカネに勝ちを譲るつもりだが、うかうかしていては不測の事態を招きかねない。


 ザッ。


 透明化少年が間合いに入った。

 バレていないと思っている透明化少年は俺を斬るべく剣を振り払う。さぞ勝ち誇った顔をしていることだろう。


 俺はものの見事に真っ二つに斬られてしまった――偽者(・・)の俺は、だが。


 無造作に周囲に放たれていた〈シャイニング・ブラスター〉がピタリと止み、魔法陣は消え去った。


「戦場で動きを止めるなよ」

「――がはっ」


 透明化少年の腹に蹴りを入れると、簡単に飛んでしまった。受け身も取れずに地面を転がり、木にぶつかったおかげで停止した。


 あれは痛いな。もろに蹴りが入ったようだ。

 当分動けないだろうから、次はお喋り少年の番だ。


 指をくいと上げると、一瞬でお喋り少年の足下の地面に魔方陣が浮かび上がり光が空へと放たれる。さながら光の柱だなと思った。


「いつまで耐えられるかな?」


 結界かそれとも防御魔法かは定かではないが、あの魔法では長くは防げないと見た。


 余裕の表情のお喋り少年も、身を守るそれに亀裂が入ったことでようやく状況を理解したらしい。一気に顔が青ざめていくではないか。


 今後の参考がてら観察しておこうと考えるも、どうやらそうも言っていられないようだ。透明化少年が斬りかかってきたのだ。まぁ、もう透明ではなくなってしまったが……。


「まだ動けるとは意外だ」


 刀を抜いて受け止める。


「あんな蹴りなんかでボクがやられるわけないじゃない。ボクたちは選ばれし者なんだよ」


 口角を吊り上げて教えてくれた。


 随分と楽しそうだ。催眠……いや、自己陶酔の方か。


「だから、あんたなんかに負けるなんてあり得ないんだ。今までここに来た馬鹿な冒険者連中みたいに、殺してあげるよ」


 おいおい、お喋り少年の長所を奪うなよ。お前もお喋りになられては呼び方に困る。


 しかしおかげで確証が取れたので、感謝してやらんでもない。


「やはりか。冒険者を依頼で釣り、お前たちはその相手をしていた」


 透明化少年の頬がピくつく。


「お前たちにそんな手回しができるような頭も権力もない。となると、協力者がいるわけだ」

「へえ、冒険者のくせにあんたは賢いんだね。他の連中はすぐに助けてって命乞いをしたのに」


 その情景を思い出して再び嬉しそうに口角を上げる。


「残念だったな。俺は命乞いなんてしてやらんよ」

「粋がっていればいればいいさ。あんたもどうせすぐにあいつらと同じになるんだからさ!!」


 剣を振るう速度を上げてきた。


 これで、この程度で俺を仕留められると思っているのか。


「剣の腕もまだまだ。足運びも(つたな)い。戦況を見抜けない。何より、どうしようもない阿呆だ」

「はっ? なに言ってんの? 実力差がわかってないアホはそっちじゃん」


 距離を取って仰々しく腕を広げて言い放つ透明化少年。


「あー、使うつもりはなかったけど丁度良いや。あんたには実験台になってもらうよ」


 笑いながら言い終えると同時 、透明化少年の目が怪しい光を灯したと思いきや姿がフッと消えた。


 これが本当の奥の手だな。ならば正面から受けて立とう。


 刀を鞘に納めて姿勢を低く、目を閉じ心を無にする。そして――抜刀。


「俺は、言ったはずだ――遅いと」

「――へ?」


 哀れなことに勢い余ってまたも地面を転がる。



 正面から受けて立ち、圧倒的な力で捩じ伏せよう。


 自分自身を光と化し、その凄まじい速度で俺を斬り伏せようとしたのだろう。

 だが残念ながら光速には程遠い速さで、俺に勝てるわけがないのだ。


「な、なんでだよ、なんで動かないんだよ!!」


 お返しに四肢を軽く斬っておいた。


 傷自体は浅くとも筋とやらを斬ったのでな、上位以上の回復魔法で治さなければ、二度と手足は動かせない。

 教えてやるつもりは毛頭ないがね。


 人体に関してお勉強したのが功を成した。


「ハアアァァァア!!!」


 雄叫びがしたのでそちらを見てみると、光の柱が見事に弾け飛ぶ瞬間だった。


 柱からお喋り少年が抜け出せたようだ。


「素晴らしい。まさか抜け出せるとは思っていなかった。お前たちは俺の予想を――」

「サトルっ、助けてくれ、身体が動かないんだ!」


 俺の言葉を遮って透明化少年が叫ぶ。


 お喋り少年はサトルと言う名前なのか。考えてみれば、こいつらの名前すら聞いていなかった。


「てめえ、ショウトになにしがった?」


 物凄い目付きで睨んでくるサトル少年。


「冷酷なお前たちにも、仲間意識なんてものがあったとは驚きだ」

「んなことはどうでもいいんだよ! おれの質問に答えろや!!」

「断る。お前なんぞの問いに答える義務はない。知りたければ、お前たちが大好きな、力付くで聞き出せば良いのではないか?」

「ああー、わかったよ。うぜーから、死ねよ、お前!」


 怒り叫ぶサトル少年。

 魔方陣が空中にいくつも浮かび上がる。


「俺はな、実を言えばお前たちに恨みなんてないんだ」


 話の途中にも関わらず、展開した魔方陣から魔法が放たれて俺に命中して爆発する。


 これでは近くにいる透明化少年も巻き込まれると思ったが、然り気無く魔法で自分の方に引き寄せていた。仲間を見殺しにするほど頭に血は上ってないわけだ。


 俺は最初のあいつらのように優雅に佇み、魔法を受け続けてみる。


 数分後に魔法は止んだ。辺りの木々は吹き飛び、俺を中心に更地と化した。


「大丈夫か、ショウト」

「痛いよっ。早く回復魔法をかけてくれ」


 爆風で舞い上がった砂煙で、サトル少年には俺の姿が見えないようだ。目を細めて様子を伺っているのがこちらからは良く見える。


 〈夜暗視(ナイト・アイ)〉と言う魔法で、本来は夜間や洞窟などで使うものだが、それの応用を効かせたバージョンをただいま発動中。


 名前はまだ考えてないから、帰ったらアカネと楽しく決めようか。


「魔力切れか? まだ俺は死んでないぞ」


 煙を風で振り払ってやり、堂々と姿を晒すと驚いてくれたので俺は苦笑する。


「来ないのか? 俺を死なせたいんだろ、やってみろよ。ここに来た冒険者たちのように、俺を死なせてみろよ、さあ!」


 両手を広げて殺してみろと宣言した。


「おやおやー。もしかして選ばれし者であるお前たちが、まさか、怖がっているなんてことはないよな?」


 俺が一歩進めば、サトル少年が一歩後退りする。


 戦意喪失とまではいかないが、表情から余裕がなくなっている。


「つまんねえーの。口先だけのお子ちゃまたちな訳だ」


 サトル少年が拳を握りしめたのを俺は見逃さない。


「逃げるなら止めない。恐怖に逃げる無様な醜態を俺に見せてくれ」

「……れ」

「仕方ないよなぁ、弱いんだから」

「……まれ」

「さっさと逃げてくれよー」

「黙れって、言ってるだろうが!!!」


 魔法の鎖で俺の手足を地面に繋げ拘束して動きを封じる。俺が挑発している間に仕掛けておいたのだろう。


 地面を強く蹴り、俺へと殴りかかるべく拳を強く握りしめるサトル少年。


 蹴った地面の(えぐ)れ具合から、身体能力強化魔法を使っているのは明らか。まぁ、この跳躍を見れば一目瞭然だがな。


「ん?」


 背後に見知った気配を感じた。


 少年たちよ、お遊びは終わりのようだ。


 ふおお、とか意気込んで殴りかかってくるサトル少年。鎖を難なく引き千切り、迫る顔面を鷲掴みして地面に叩きつけた。

 勢いのあまり足裏が空を仰いでから、バタリと地面に降下した。


 サトル少年がやられる様を目の当たりにしたショウト少年の顔は、信じられないと言いたげに引き吊っていた。

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