表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
38/285

『3人の少年』

 レグルスが放った〈シャイニング・ブラスター〉を、3人の少年たちは焦りながらも防壁魔法で防いだ。


「あっぶね、いきなりかよ」

「さすがに本気を出してきたのかな」

「結界からここまではかなり距離があるはずなのに、こりゃあ面白いのか来たんじゃねえの」


 開戦の狼煙代わりに高揚する。


 彼らにとって、最初に殺した新人冒険者も、上級冒険者も“弱い奴ら”の一括りで纏められていた。


 王国から流れてきたならず者たちが建国したが故に、まだ国力は低い国――〈法儀国カイゼルボード〉が召喚した異世界の民である。


 異世界人は世界を渡る際に、その身体に特殊なエネルギーを浴び、常人よりも遥かに強い能力を手に入れていると言われる。


 それが世に言う――〈特異能力(レガリア)〉である。


 王国で勇者召喚に携わっていた者が研究の果てに完成させた魔方陣によって、他国には秘密裏に彼ら3人の少年は召喚された。


 その実力を知るために、辺境にある山の麓の魔物討伐を依頼した。


 つまり、ギルド〈ボルボレイン〉のメンバーは法儀国の罠にまんまと嵌まり、命を落としたのである。


 全知全能や全ての能力が桁外れ、などと神に等しいわけではないし、鍛え上げられた騎士でも戦士でもない彼らが何故戦闘経験豊富な冒険者を殺められたのか……。


「じゃちょっくら、ささっと終わらせてくるわ」


 剣を携えた彼らの中で一番背が高い少年――トウヤ・クラカワ。


 〈瞬速剣技〉と言う名の自身の動きを加速させる特異能力の発現者。

 本人はただ動きの速さを上げるだけと思っているが、身体能力強化や視覚、感覚の強化などもされている。


「オレらの分も残しておいてくれよー。つっても、結界に入ったの二人だけだから、あいつだけで終わりそうなんだよなぁ」


 退屈そうにぼやく細身の少年――サトル・キグチ。


 魔法行使に特化した特異能力――〈魔術裁縫師(マギア・システィム)〉の発現者。

 一度見たことのある魔法なら、自在に使用できるもので、使い手にかなり左右される。


「大丈夫だよ、そうしたらまた次が来るでしょ」


 サトルを宥める彼らの中で一番大人しそうな雰囲気の少年――ショウト・スメラギ。


 〈景色使い(ドール・アイ)〉と呼ばれる、自分の姿を景色に溶け込ませる、透明化の特異能力とショウトは説明している。


「だな。でもよ、やっぱさぁ、スマホが使えないのだけはなんとかなんねえかなー」

「機械自体、この世界には無さそうだから難しいと思うよ……」

「やっぱそうだよなー」


 もとの世界で使っていたらしい、平たいガラスがついた板を見ながら項垂れるサトル。


 それを苦笑しながら見守るショウト。まるで兄と弟だ。


「あー、トウヤがしくじって一人だけでもこっちに来ねえかなー」


 トウヤが去っていった、新たな獲物がいる方向へと視線を送るサトル。


「でも、結界に入った二人はそんなに強くなさそうなんでしょ?」


 ショウトが首を傾げて尋ねる。


 ああ、と残念そうにため息をついてからサトルは残念そうに答えた。


「そうなんだよ。魔力がそんなに高くなくてさ。大人と子ども一人ずつって感じ」

「もしかして凄く強い子どもだったりして」


 機嫌を治そうとショウトが冗談交じりに言うと、サトルは腹を抱えて笑った。


「強いの子どもかよっ、ハハハッ、いいねそれ、あるかも」


 マジヤバい、などと笑うサトルを見て、ショウトも笑みをこぼす。



 彼らには負けない絶対的な自信があった。

 〈法儀国カイゼルボード〉に召喚された3人の少年は、召喚の場にいた術者たちを含めた数名の貴族をも皆殺しにした。


 理由は「力が溢れるから試したかった」だけ。


 丁重にもてなされ、食事に入れられていた睡眠薬で眠った時に奴隷刻印を刻まれて服従を誓わされた。


「これさえ無ければ自由なのによぉ」

「仕方ないよ、少なくとも今はね」

「神隠しは実は別の世界に行ってました、みたいなのがおれらだよな?」

「たぶんそうだね」


 彼らはまだ大人しく従っているが、奴隷刻印を消す方法を知ったら法儀国の連中を皆殺しにして自由になることを密かに画策している。


 気に入らない奴は殺しても罰せられない、最高の世界だと歓喜の声を上げるサトル。


 積極的に戦うトウヤや、殺したがりのサトルと違い、ショウトは一歩引いたところで物事を見ていた。


 それは3人の中で一番自分が優れているが、時が来るまでふたりについて行けば面倒事を極力避けられると考えたため。


 ――脳ある鷹は爪を隠すんだよ、サトル。だからそれまで大いに役立ってよね。


 腹の中ではそんな同郷の仲間をゴミのように捨てる算段を立てているショウトが、もしかしたら彼らの中で一番(たち)が悪いのかもしれない。


「いたいた」


 そして、一人の青年が少年たちの前に姿を現す。彼こそが結界に入った大人の方である。


 サトルは魔力をほとんど感じない青年に、笑いが込み上げそうになるのを堪える。まだ笑うのは早いと思ったのだ。


「また来たんだな」


 殺しすぎたせいでもう来ないのかとも思っていたサトルは、再び人を殺せる嬉しさを誤魔化すためにそう言った。


「まさか、トウヤが殺られた?」

「中に入ったのは二人だから、もう一人が相手してるんだろ」


 ――あいつが負けるなんて考えられない。おれらは最強なんだよ。


 余裕っぷりが表情に出る始末。

 敵が来たなら作戦開始だ、と役割を果たすべくサトルはお話を始めた。


 サトルが敵の注目を浴びている隙に、透明化のショウトが致命傷を負わせる作戦だ。


「さっきの光線を撃ったのはあんたか?」


 青年は若干眉を歪めた後に「そうだ」と肯定した。


「いやー、結構強力だったよ。でもおれらには効かなかった。残念だったなぁ、少ない魔力で頑張って撃ったんでしょ? だってあんた、全然魔力残ってないじゃん。最初から少なかったけどさぁ」


 青年はサトルの話に耳を傾けている。


 それを見て決まったと口角を上げるサトル。


「――よし、終わった」


 すると、何かを呟く青年。


 聞こえなかったサトルは挑発ついでに聞き返す。


「あ? なんだって? 声が小さすぎて聞こえないなー」


 しかし落ち着いた様子の青年。あたかも聞こえないようにするつもりで言ったのだと意思表示をするかの如く。


「展開――」

「だからなんだ、って……おいおい嘘だろ」


 この時の青年の表情をサトルは見たことがあった。


 ――可愛そうな奴を哀れむ顔だ。


 ふざけるなと彼が言う前に青年がまたも口を動かす。


 一瞬にして向く先がバラバラの無数の魔法陣が周囲に展開するではないか。


 サトルは驚いて目を丸くする。


「躱わせよ」


 青年が彼らに聞こえるように言葉を口にした瞬間、魔法陣が一斉に光を帯びて光線を放つ。


 四方八方に飛び交う光線から、サトルは身を守るべく防御魔法を発動させた。

 ショウトにも防御魔法を使ってやろうと考えるも、姿が見えないのでは何処に発動させればいいのかわからない。


 それに青年はいとも容易く無数の光線を躱わしていた。


 ――光だぞ。光速なんだぞ。それをあんな簡単に。


 少し考えれば、予め自分に当たらない軌道にしておいて、その中で“躱しているように見せる”ことができるという答えに行きつけるだろう。

 それが導き出せないのは、サトルが冷静さを失っている証になる。


 このままじゃ埒が明かないと考え、状況を打開するために魔法の詠唱を始めた。それが悪手だと気付かずに――。



 ショウトは何をしているのかと言うと〈景色使い(ドール・アイ)〉の本当の能力を使って難を逃れていた。


 景色に溶け込ませる、ではなく、実は光を操る能力だったのである。


 人が暗闇では何も見えなくなるのを利用し、自分に光が当たらないようにすることで擬似的(ぎじてき)に透明化に見せかけていただけだった。


 そのため、魔法であっても光である光線を操って避けていた。


 更に光の加減を調節することで残像を作り、事前に仕込んでおいた声を魔法で流して自分の偽者として活用した。


 彼もまた光線を避ける青年の姿を見て、魔法を制御できていないと考え、攻撃すべく背後から迫った。


 ショウトが内心勝利を確信していたのは言うまでもない。



 そう、この時の少年たちは、自分たちと戦う青年が何者(・・)なのか知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ