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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『おもちゃ』

「着いたぞ」


 森に入る手前で、俺にお姫様抱っこされて眠るアカネを起こす。


「お前なぁ、2時間でよく寝れるな」


 アカネは〈短転移(テイレル)〉を使えないから、こうするしかなかった。そしたら俺の腕の中で心地良さそうに寝てしまったのだ。


 ――「んっ」と、両腕を広げて無言の圧力が凄かった。


 まだ子どもだし仕方ないか。そもそもこんな見た目幼子(おさなご)を危険な場所へ連れて行く俺の方がおかしいのだから。


 アカネの髪の毛は赤を基調とし、一部だけ銀色に染まっていた。俺の地を吸った影響だと考えている。


 大切に思うならたぶん争いから遠ざけるべきなのかもしれない。


 しかしこの世界で争いのない地など何処にあろうか?


 それならば生き延びる術を教えた方が断然ましだと結論を出した。


「あの山の(ふもと)だ」

「ん……」


 ふわふわと言うか、ぽわぽわと言うかまだ寝ぼけている様子のアカネ。


 こうしていると、〈鬼人族〉と〈吸血種(ヴァンパイア)〉の〈混血種(ハーフ)〉には到底見えないよなぁ。


「くぅーっ……むにゃ」


 角を隠せば、普通の人間の少女だ。


「ほんと、俺を押し倒した相手とは思えぬな」


 アカネとわかったから抵抗はしなかったものの、かなりの力だったのを覚えている。


 暴走状態にさせぬように気をつけねばと改めて決意して頷いた。


「……ん」

「ん? ああ、なるほど。お姫様のお望みのままに」


 手を差し出してきた。

 最初は何のことかと困惑したが、理解すると顔が自然と緩んだ。


 手を握る、いや、俺はアカネと手を繋いだ。


 嬉しそうにはにかむアカネを、俺は直視できなかった。気恥ずかしいと言うか何というか……。


 揺り動く俺の心など関係ないと言わんばかりに、一瞬だけ妙な違和感を感じた。乗り物酔いのような、水の中に入ったような感じで全身が(だる)い。


「これは……結界か」


 疲労から来るものではなく、どうやら俺たちは何者かが仕掛けた結界に入ってしまったようだ。その証拠に魔法による通信ができない。


 魔法自体を封じると言うより、外部との遮断に重きを置いているようで入る者拒まず、出る者逃さずらしい。


 透明な壁に阻まれて戻れなさそうだ。

 こんな辺鄙(へんぴ)な場所に結界を張る人物は限られる。

 狩場と知らずに入ってしまったわけだ。


 ――好都合だ。逆手に取って術者の居場所を突き止めてやろう。


「アカネ、少しだけ手を離すぞ」

「ん……」


 コクンと頷き、俺より先に手を離した。


 結界のおかげで魔力はわかった。これで居場所がわかる。


「落ちよ(しずく)――〈世の盃〉」


 まるで小さな一粒の(しずく)を垂らすかの如く、我ながらしなやかな動きで片手を振り翳した。大地に向けられた人差し指から一滴(ひとしずく)が落ちる。


 落ちた滴は静まり返る水面例えた大地に波紋を起こす。並の実力者でなければ認識すら叶わない魔力の揺らぎである。


 広がる波紋を伝って、俺を中心として世界の情報が俺へと流れ込んで来る。

 本気を出せば大陸全土まで広げられるが、時間がかかる上に今回はそう遠くない。


「――見つけた」


 あちらも侵入者(俺たち)に気付いたようだ。


 しかし、どうしたものか。

 アカネの実力を知りたいが、知らないが故に相手を選ばないとなぁ。


 悩んでいても時間の無駄だな。


「アカネ。これから俺は7日周期に一回、お前に血を吸わせる。だが、戦闘において傷の数によってその期間を伸ばす。何が言いたいか……つまり、傷を受けるな。無傷で勝利せよ」


 アカネは俺の言葉を聞き、若干の思案の後にコクンと頷いた。承諾したらしい。


 俺から言っておきながら、かなり無茶な要望なのにな……。お手並み拝見だ。


 アカネより先にお相手の方だがな。


 そんなことを考えながら正面に魔本陣を形成。


「〈シャイニング・ブラスター〉」


 すっと手を翳すと魔方陣から光が前方に放たれる。

 挨拶代わりと、結界内での魔法の効力を確かめる意味が含まれていた。


 木々には悪いと思うが、我慢してもらおう。この件が片付いたら土を元気にでもすれば良いだろう。


 数秒後、目標に衝突したのか遠くで爆発音が聞こえた。


 光を放ちきり、役目を終えた魔方陣が消え去った。


「先ほどの条件に付け加える。もし本当に無傷で勝利したら、褒美を与える。何かは勝ってからのお楽しみだ」

「……」


 表情は変わっていないのに、目はとてもキラキラしている。


 勝つ気満々だな。狙い通りではあるものの、ここまで期待されるとは思っていなかった。


 こうして敵に時間を与えてやったが、まだやり返してこない。


 わざわざ道を作ったのに無駄にならではないか。


 警戒したのは損だったな、とため息をついていると――


「――なっ!」

「どうした、そんなに驚いて。まさか、俺がこの程度の速さに対応できないとでも思ったのか?」


 人差し指と中指に魔力を集中させ、眼前に迫ってきたそれ(・・)を挟んで止める。


 それ(・・)の持ち主は、俺に止められるなど考えていなかったのか驚愕の声を上げた。

 一瞬の内に目に見えない距離から迫ったとは言え、相当自信があったように見える。


 世界が一足遅れて持ち主の存在を認識し、周囲に風を吹かせて木々を揺らし、葉を落とした。


 念のためアカネを気にかけて視界に入れていたが、ちゃんとこいつを目で追えていたから問題ないようだ。


「くそっ、離れねえっ」


 目の前のこいつ同様、正直俺は驚いている。

 魔力を周囲に展開していたからこそ俺は反応できたが、目で追うことはできていなかった。


 それを平然とやられてしまえば、思わず苦笑してしまう。


「忘れていた」


 指で挟んでいたそれ、もとい剣を離してやる。


 すると陸地から水中に戻れた魚のように元気に動き回るツンツン頭の少年。3人組の少年の内の一人だ。


 目にも止まらぬ速さで。あれではせっかくのツンツンの髪の毛が台無しになるだろうにもったいない。


 アカネはともかく、俺がこいつを肉眼で追うのは難しい。――心の目で見るとしよう。


「目を閉じるなんて、ナメられたもんだなぁ!!」


 ふむふむ、なるほど。振る舞いからして、この少年は戦闘経験が浅いと考えて間違いない。


 殺られたギルドの奴らにどう映っていたかは知らないが……俺からすれば、新しい玩具()を手に入れてはしゃぐ子どもに見えた。


「まあ、開けてても見えねえだろうけどな、ハハハハッ」


 単純な身体能力強化ではここまでの速さは生み出せない。となると、別の魔法かあるいは――〈特異能力(レガリア)〉か。


 どちらにせよ、倒さないと話が前に進まない。


 俺はこいつと戦うのは面倒だ。

 よし、アカネに任せよう。最悪の時に発動する魔法も、眠っている間に仕掛けておいたから心配はない。


「アカネ。今回のお前の相手はこのツンツン頭のだけで良い。残りのふたりを俺が相手するから、どちらが先に勝利するか競争だ」

「ん」


 アカネが頷いた。


 それを確認してから、残りのふたりのところへ向かおうとしたら、また斬りかかってきた。今度の攻撃に対して俺は逃げも防ぎもしない。


 何故なら、アカネがツンツン頭を殴り飛ばすからである。


 速く動きすぎて勢いがついていたのだろう。アカネの一撃がかなり強力なものになった。


「アカネにそいつは任せた。殺さずに勝利するのだぞ。せめて、瀕死程度に抑えるように。ではな、競争開始だ」

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