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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第三章 命懸けの冒険者
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『ギルドマスター』

「始まりはいつも通りの些細な魔物討伐の依頼だった」


 下級の冒険者向けとして提示し、5人組の新人がその依頼を受けて都を出た。

 下級冒険者が2、3人もいればすぐに終わる依頼内容だったらしい。


「そいつらは初任務でな。帰ってきたらパーティーをしてやろうとギルドメンバーたちと準備をして待っていたんだ――」


 そこで一旦話を止めるバッカス。視線はアカネに注がれている。


「構わない」

「わかった」


 子どもには刺激的な内容なわけだ。


 これからのことを考えると、アカネにも聞かせておくべきだと判断した。


 嫌そうなら即座に対処できるように準備はしておいた。


「知ってるだろうが、冒険者の最初の任務の生存率は高くない。だから俺は新人の初任務が無事に終わったら盛大にパーティーをするって決めてんだ」


 口角を上げて話す。その時の気持ちを思い出しているのだろう。


「心配はしてたけどよ、大丈夫だって思ってた」


 伏せられたその目は遠くを見ていた。


「けど、予定の日を過ぎてもそいつらは帰ってこなかった。どっかで立ち往生でもしてるんだろうと思った。新人ならあり得る話だろ」


 落ち込むのを誤魔化すように声を明るくする。


 結末は既に見えた。

 イーニャも料理を食べる手が止まってしまっていた。


「1週間が過ぎてもなんの連絡もなかった。なにか異常事態が起きたのかもしれないと、上級の冒険者パーティーを向かわせた……」


 肩を落とすバッカス。辛いだろうに、よほど重要なことなのだろう。


 俺は黙って聞き続けた。


「最初に行ったヤツらと同じく、帰ってこなかった。最悪の場合に備えて、ギルドでも指折りのメンバーを選んだのにだ」


 イーニャが恐る恐る手を上げた。


「なんだ?」

「新人の冒険者は万が一のために〈飛翔石〉を渡すのがギルド共通の規定ですよね?」

「そうだとも。もちろん、その新人たちにも渡していた。念のため後から向かわせた上級のヤツらにも渡しておいた」


 〈飛翔石〉とは、別名〈転移結晶〉とも呼ばれる使い捨ての瞬間的に移動――転移が使用できる人工の石のことだ。予め石に登録された場所にしか転移できないデメリットはあるが、メリットの方が大きい。


 転移魔法が使えない剣士や、未熟な魔法使いなどが重宝している。


 イーニャが言ったように、冒険者ギルドの規約では初心者保護のために下級冒険者には必ず〈飛翔石〉を渡すことが義務付けられていた。


 費用削減目的で渡していないギルドもあるとかないとか……。


「こんなことは初めてだった。オレは王国騎士団に要請を頼んだが聞き入ってもらえんかった。たかが冒険者が数人死んだ程度で騎士団は動かん、ってな」


 拳をギュッと握りしめる。


「殴りかかりそうだったぜ」


 自嘲するようにフッと鼻で笑った。


「騎士団はあてにならねえから、最後の切り札として、オレのギルドの最強のメンバーの4人に行ってもらった。結果……一人だけ〈飛翔石〉で帰ってきた。全身から血を流すような酷い有り様でな」


 血まみれなら、戦闘を行ったと考えるべきか。


「血を流しながらそいつは最期の力を振り絞って真相を教えてくれた――相手は人間だったってな」


 詳しく聞くと、異常な強さを持った3人組の少年だったらしい。




 ――魔物討伐依頼の目的地で、少年たちは待ち構えていた。


 仲間の死体を無下に扱われ、怒った剣士が斬りかかると目にも止まらぬ速さで四肢を切り刻まれた。

 近距離では不利だと判断し、距離を取るも気付いた時には敗北していたと言う。


 なら何故、一人だけ帰還が叶ったのか。


 想像するに難くない。少年たちはわざと逃がしたのだ。

 その証拠に「もっと強いヤツを寄越せ」と言われたらしい。弱いヤツじゃつまらないと。


「ギルマス……すみ、ません……ボク――」


 涙を流しながら、バッカスの腕の中で息絶えた。


「――最後まで聞いてやれんかった。オレはギルドマスター失格だ!!」


 込み上がった怒りを抑えきれず、握った拳を机に叩きつける。


 揺れた食器が音を奏で、拳は机を容易に貫通していた。


 イーニャが凄く驚いて震えている。


「あんたが失格かどうかはどうでも良いが、悪戯が過ぎる子どもにはお仕置きを与えるのが大人の役目だな」


 バッカスの言いたいことはわかった。


 ギルドマスターであるバッカスがギルドでは一番の実力者だ。


 しかし、ギルドマスターは民が住まう都を守ることを最優先としなければならないため、国の許可がなければ都を出られない。

 これはギルドマスターと王国との間で交わされた〈契約魔法(クライン)〉の内容である。


 もし契約を破り許可なく都を出れば即座に心臓ごと魂が砕け散る。


 難儀なことに、ギルドマスターは必ずこの契約を行わなければならないのだ。従わなければ、ギルドとして認められず、国からの給付金が貰えない。


「じゃあ、まさか……」

「言っただろ。腹の探り合いは苦手だって。俺があんたの代わりに行ってやるよ。報酬は――」


 複数の報酬を提示した。なかなかの内容にバッカスも苦笑する。


「無茶な報酬だ。……だが、仲間の無念を晴らせるならどんな無茶でもしてやるよ」

「そうこなくては。最後に一つだけ問う」

「ああ」

「バッカス、あんたは生者と死者、どっちがお好みだ?」


 俺の問いにバッカスは目を丸くする。やがて意図を理解したのか口角をゆっくり上げて返事をした。


「どちらでも構わない。できれば、顔は拝ませくれ」

「わかった。契約成立だ」


 握手を交わした。


「少しの間、ふたりを頼めるか?」

「おいおめえ、まさか今から行くつもりなのかっ?」

「都に来られたら面倒だからな。外道の常套手段、人質のオンパレードだ」

「でも兄様。その人たち移動してるかもしれないよ?」


 イーニャが立ち上がった俺の顔を見上げて指摘した。


 確かにそうだ。

 3度とも同じ場所にいたからって、今もいるとは限らない。


「バッカス、一つ頼みがある。さっき話に出てきた唯一の帰還者のもとへ案内してくれ」

「もう墓の中だ。それでもいいなら案内する」

「構わん」


 俺たちは部屋を後にした。イーニャを除いて。


 イーニャだけはここに残ってもらうことにした。その間の面倒は受付の女性がしてくれるので任せよう。




 ◆◆◆




 都中央に位置する教会の隣の墓地に、俺たちは訪れていた。


「ここだ」


 いくつも並ぶ墓の一つの場所に案内された。


「反鏡者エイン――ここに眠る、うっ……ふー」


 話したどころか見たことすらないエインと言う人物の姿が、痛みと共に光の明滅のように頭を過る。


「大丈夫か?」

「あぁ、気にするな。いつものことだ」

「おめえが言うなら信じるが、体調管理はしっかりしとけよ」

「心掛けるよ」


 バッカスは墓標に視線を落とした。


「エインは珍しい魔法の使い手だった。鏡を使うんだ」


 それで反鏡者なのか。

鏡魔法は万能に近い魔法故に魔力消費とコントロールが難しいらしい。


話を聞いただけの評価だと、しっかりと使いこなしていたようだ。なのに敗北し、瀕死の重傷を負わされた。


その少年たちが上手だったのか……。


「仲間を大切にする、ホントにいいヤツだったよ……」


 最期を思い出して、その時の感情が込み上げたのか、バッカスは顔を上げて空を仰いだ。


 反対に俺は墓標に視線を向け、手を合わせる。


 もしかしたらあんたも過去の俺と会っている一人なのかもな。

 そのよしみで許してくれると願おう。


「あんたにも協力してもらうぞ――〈記憶接続(メモリカ)〉」


 瞼を下ろしてバッカスに左手を、右手をエインの墓標へと翳す。


「これは!」

「エインの記憶だ」


 死者から記憶を読み取るのは初めてだから不安だったが、成功してくれたようだ。密かに魔物とかで練習しておいて正解だった。


 エインの最後の戦いの記憶が映像として目の前に流れる。


 この3人が例の少年たちか。

 ふむふむ、ほおほお、はあー、なるほど。


「ここまでだ」

「今のは、魔法なのか?」


 何が起きたのかと首を傾げるバッカス。


「それ以外に何が……ああ、〈特異能力(レガリア)〉があったな。残念ながら単なる魔法だ」


 人間界ではあまり知られていない魔法らしい。王国でも上層部しか存在の知らないとされる魔法。


 悪用されれば大問題だからな。まぁ、その連中は大いに悪用してるんだが、それを言ってはお仕舞いだ。


「相手の顔はわかった。これで準備万端だ。では、行ってくるよバッカス。行くぞ、アカネ」


 本当は顔だけではなくて、エインが肌で感じた少年たちの魔力もわかったのは教える必要はないな。


 未だに呆けるバッカスに背中を向けるも、言い忘れていたので一回転。


「バッカス。イーニャに何かあったら、お前ら全員――燃やすから」


 笑顔で伝えておいた。


「任せておけ。ギルド〈ボルボレイン〉の誇りに懸けて守って見せる」

「安心だ。またあとでな」


 俺とアカネは少年たちのもとへと走るのだった。


 ……だって、馬車だと数日かかるから、走った方が速いと思ったのだ。

 実際は転移魔法を応用した、短距離転移魔法〈短移動(テイレル)〉を使って移動距離をかなり省略したのだがな。

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