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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第二章 旅立ちの人間界
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『武器』

 ゴードンは俺の指示に従い、すぐさま街の変革に乗り出した。


 奴隷の扱いに関することから、商業に関することまで様々だ。良くもまあここまで短時間で準備、実行したものだ。


 事前に考えていたのかもしれないな。


 俺は今、オカマ……ではなく〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉の一人、美の化身ルカムとお茶している。

 宿屋の主人から手紙を預かった時に察しはついた。


 正式なお誘いをお断りするのも悪いと思い、俺は受けたわけだが……。


「お前は来る必要はなかったのだぞ?」

「別にいいでしょ。“妹”なんだし」


 図々しくもイーニャもついてきた。

 ルカムは笑いながら了承してくれたので助かったよ。


「仲がイイ兄妹ね、羨ましいわぁ。もしかして、アナタたちは壁を越えちゃってらのかしら?」

いーや(そうよ)


 俺とタイミングを合わせてイーニャが肯定した。

 しばらく黙っておいてもらおう。


「こほん。壁は越えてないさ。確かに妹は大事だが、劣情は抱いてない」

「アラ、そう。つまらないわね。妹ちゃんは越えたそうだけど?」

「知らぬな。俺はこいつを守るので精一杯でな。余計な発情に応えるほど暇ではない」


 喋れないため、全力で恨み辛みを込めて睨み付けてくる我が妹。


 こらこら、そんなに見つめるなよ、照れるではないか。


「妹ちゃんが大切なのね」

「ふっ。ああ、もちろんだ」


 俺とルカムは軽い雑談を交わした。


 つい先日、戦った者同士とは誰が思おうか。


 さすがにこいつのピエロな見た目には慣れてきたとも。

 しかし、その上の輝きには視線を向けてはならないのを覚えた。


「アナタ、これからどうするつもりなの?」

「どうする、とな」

「〈王国の守護者〉に逆らった事実は既に王国にも報告がいっているはずだわ。アタシはアナタを気に入ったから悪く言うつもりはないけど、王国はそうは思ってくれないでしょうね」


 知っているとも。

 報告役をわざと逃がしたからな。


「代償は高くつく、と」

「反逆者や大罪人と見なされたら、王国領内では好きに出歩くこともままならなくなるわよ。妹ちゃんだって危ないわ」

「実際にそうなった時に考えるさ」


 と、口ではそう言いつつも本当はいくつも対策は用意してある。


「わざわざ忠告ありがとな」

「イイのよ、イイ男だしね」

「俺にソッチの趣味はないぞ」

「目覚めるかもしれないじゃない?」


 期待の眼差しを向けるな。

 あり得ない、絶対にあり得ないから。俺はちゃんと……その、なんだ、あれだ。


「断じてない。ともかく、感謝と謝罪はしておこう」

「謝罪?」

「見た目のことを馬鹿にしただろ。その詫びだ」

「ベツに気にしてないわ。いつものことよ」


 笑いながら街の方へと目を逸らす。


「焚き付けるためにああ言ったが、俺は周りとは違う趣向を貫くのは悪くないと思う。お前のはカリントと違って、他者に迷惑をかけるものでもないしな」

「……嬉しいことを言ってくれるじゃないの。アタシの魅力に気づいちゃった?」

「“内面”のな。お前こそ、大丈夫なのか?」


 キョトンとした顔をするルカム。


「名高い〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉が敗北して無事でいられるのか?」

「なぁに、心配してくれるなんて惚れちゃいそうだわ」

「惚れられても応えられぬぞ。一生の片想いはロマンチックだがおすすめはしない」

「アラ、残念。でもホントに大丈夫よ」


 嘘だな。

 表情でバレバレだっての。


 言いたくなさそうだし黙っておく。


「なら良いさ。次に会った時は、お前の顔の化粧を俺にもしてくれ」

「目覚めちゃったの?」

「違うわ!」


 素晴らしいテンポだった。


「お勉強だ。どんなものなのか実際に試さねば、わからぬことたってあるだろう。無理にとは言わんが?」

「イイわ。やったげる。もう最高のメイクをしてあげるんだから」

「約束だ」


 小指を俺は差し出した。


「あー、これはだな、故郷の風習でな。約束をする際に、お互いの小指を合わせるのだ。嘘ついたら針を千本飲ます、とな」

「針を千本なんて、アタシを殺す気?」

「単純に約束を破らなければ良い話だ」

「……わかったわ、約束ね」


 こうして俺とルカムは約束を交わした。

 お互いに笑顔で、再会を夢見ながら別れたのだった。


 ――ルカムはこの時、どんな思いで俺と指を合わせたのだろう?


 後に再会が叶わぬものと知った俺は、そんな疑問が思い浮かんだ。




 ◆◆◆




 炭鉱の街――イルギット。


 こことももうおさらばだ。


「もう行っちまうのか?」

「ああ。あんたには世話になった」

「なにを言うんでい。娘と再会させてくれた恩は一生忘れねぇぜ」


 街を出る前に立ち寄っておきたかったのだ。

 バンガスの顔は、抱え込んでいたものが吹っ切れたような晴れ晴れとしていた。


「うむ……なら早速恩を返してもらうとしよう」


 店の前に堂々と止めている馬車の荷台からとあるものを取り出してバンガスに渡した。


 すると目が飛び出す勢いで驚愕の声を上げる。


「ああああ、あんちゃんっ、ここここれは!!」

「落ち着け、バンガス。じじいの貫禄はどうした?」

「貫禄もなにも、あんちゃんこいつは〈オリハルコン〉じゃねえか!?」


 急に小声になるバンガス。笑わせてくれる。


「それで俺専用の武器を用意してほしい」


 〈オリハルコン〉とは、この世界で一番高価とされる鉱物である。

 他にも〈アダマンタイト〉や〈ミスリル〉など様々な鉱物があり、武具の材料として重宝されている。


 それらの最上位をポンと渡したのだから、この驚きようは当然かもしれない。


 何せ〈オリハルコン〉の加工は〈炭鉱族(ドワーフ)〉たちでも難しいとされる。人間族には到底不可能に近い。


 それに〈オリハルコン〉自体も市場でも滅多に見受けられず、〈オリハルコン〉製の武具は高値で取引される。噂によると山が複数変えるほどの値段がつくこともざらだとか。


 炭鉱の街でも数十年に一度くらいしか発掘されないお宝で貴重なものなのだ。


「あとこれも頼む」

「あんちゃぁぁぁああああん!!!」


 元気なことだ。


 こうなるのを見越して結界を張っておいて正解だった。

 こんなに騒がれては注目の的だ。


「〈ヒヒイロカネ〉だ」

「見りゃわかるわ!」


 〈ヒヒイロカネ〉は〈オリハルコン〉と対照的な性質らしい。


 魔法武器に良く用いられる〈オリハルコン〉と、対魔法武器に用いられる〈ヒヒイロカネ〉と言った具合だ。


 つまり〈ヒヒイロカネ〉も〈オリハルコン〉と同等の価値がある。

 まあ、最近は〈ヒヒイロカネ〉の使用率が上がっているせいで値上がりが凄まじい勢いと聞いた。グリム先生の教えである。


「取り乱していたから、わかっていないのかと思ってな」

「あんちゃんが貴重すぎる鉱石をポンポン出すからだろうが。心臓がいくつあっても足りねえぞ……」

「大丈夫。俺たちとあんた以外にはただのちょっと高価な鉱石にしか見えないから」


 ため息と共に興奮を体から追い出せたらしく、ようやく落ち着いてくれた。


「どんな武器にすればいいんだ?」

「刀、短刀……鎌?」

「聞くなよ。あんちゃんの武器だろうが」

「んー。刀、短刀、鎌にする。鉱石をどう使うかは任せる。予備はたくさんあるからな。余ったら好きに使え」


 馬車からふたつの袋を取り出して、バンガスの前にドサッと置いた。


「あと、全部両刃で頼む」


 バンガスは口が開いて閉じないようだ。


「お題は取りに来た時に払う」

「いらねえよ」

「遠慮することはないぞ?」

「金持ち自慢か? どっちにせよ、恩人から金を貰ったとあっちゃあ、娘に会わす顔がなくなるんだ」


 なるほどな。では存分にお言葉に甘えるとしよう。


「一応これを渡しておく」


 高価でもなんでもない極庶民的な鉱物でできた腕輪を渡した。


「あんたやこの街にもし何かあったら、それに念じれば俺に伝わるようになってある」

「おお、そりゃ安心だな」

「あ、武器の完成とか、進み具合とかでいちいち使うなよ。一ヶ月以上はここに戻ってこないつもりだから」

「わかったよ。世界で一番最高の武器に仕上げてやるから、楽しみにしてな」


 店内に置かれていた武具を見ただけで腕前はわかる。疑いなどしないさ。


「刀と短刀はわかるけど、どうして鎌なの?」


 店を出て馬車に乗ると、イーニャが尋ねてきた。


「強いて言うなら気分だ」

「気分……」


 そんな目で見るなよ、照れるだろ。


「真面目な話をするとだな、今後使う場面が出てくると思ったからだ」

「ふーん」


 なおも不満そうな妹は放っておこう。


 こうしてやり残したことも無事に終えて、今度こそ俺とイーニャは街を出た。




 ――そして次の目的地への道中にて、


「兄様ぁ、だめぇ?」


 上目使いで懇願するように言い寄ってくる我が妹。


 俺は顔を片手で覆った。


「何故、こうなった……」


 ため息が出たのは仕方ないだろう。

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