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『1番目』
石の壁でも容易く切り裂くベルゼブルの鋭利な爪が眼前に迫る。
「――お前の真の望みは何だ?」
爪は俺の瞳に触れる直前で動きを止めた。
「言ったはずだ。地上を我らのものとすると」
「聞いたとも。だけどそれは、2番目。俺が訊きたいのは――1番目の方だ」
より重要な目的を果たすために必要なこと。
それが地上の支配なのは表情や動き、言葉選び。そして――色で察した。
〈冥界〉の主になる〈悪魔族〉が外に出なければならなくなるような状況。
正直、俺はそちらの方が問題視すべきだ。
「探偵気取りか? そんなものはないと言って――ゴファッ!」
「差し伸べられた手を、素直に取れないのは悲しいな悪魔よ」
次こそは止まらないであろう爪を半歩体勢を横にずらして躱わし、隙だらけの腹部に魔力を込めた拳を食い込ませた。