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『分岐点』
頭部から額を伝ってきた赤い血で片目を塞がれながら、パイモンは自分を見下ろす主を見上げた。
「私は存外ここが気に入った。鬱陶しい者共もいるが、昔ほど意識は向かん」
「……見つけられたのですね。あなたの居場所を」
パイモンの言葉にハッと息を呑んだ。
ルシファーは言われて初めて――そうなのか、と自分自身では気付いていなかった思いを知る。
「貴様に言われるまでわからなかったとは、私も耄碌したのだろうな」
「いえいえ、そのようなことはございません。他者の心と同様に、己の心もわかりにくいもの。ですがあなたは今、お知りになった。わたくしめには素晴らしく喜ばしいことでございまする」
「そうか」
皇は今でも慕う元配下の思いを噛みしめ、感謝の意を表そうと自然と微笑んだ。