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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第二章 旅立ちの人間界
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『教え』

「宿れ拳神――〈魔神拳〉」


俺の両の拳に一回り大きい黒く刺々しい拳が纏うように顕現する。名前の通り、禍々しい魔神に相応しい拳だ。


ふと、前魔王フレンのことを思い出したが即座に振り払う。


禍々しい見た目だもんな。て言うか、この拳重いぞ!


「ふはははははっ、今度はこちらから行くぞ!」


身体能力強化と風魔法の併せ技を駆使すれば、一気に近寄ることも可能なのだ。後ろへ退く前に拳を構えて遠慮なく殴り付ける。


「ウグッ!」


重量のある拳を受け声を漏らすゴードンとルカム。だがこれで終わりではない。


この拳にはもう一つ技能が備わっている。


「飛っべぇ!!」


拳を突き出すと、受け止めるふたりごと〈魔神拳〉が発射された。


所詮は魔力の集束体だから、こんなことも可能なのだ。拳が飛ぶなんて思いもしなかったであろうふたりは驚きの声を上げて飛翔する。


よし、高さはあれくらいで良いだろう。


飛ぶ男ふたりを見上げ、十分な高度まで上がったのを確認してから指を鳴らす。すると拳は壮大な爆発をして見せた。


「あ……あぁ……」


奴らの中で一番の手練れふたりがあっさりとやられたのを目の当たりにした領主カリントと執事部下たちは、口が閉じない状態に陥っていた。


恐怖で足はガクガクと震え、もはや立つこともままならないようだ。


執事部下たちは訓練を受けていたのか、辛うじて立っていられているが、手足は微かに震えていた。


「安心しろ、あいつらは殺してない」


殺すにはもったいない連中なのでな。


「――だが、お前にはそんな優しさなど不要だ」

「ひいぃぃっ、お前たち、わしを守れっ、その身を盾にしてでも守るんじゃあ!!」


勇気を振り絞って数人の執事部下が俺に向かってきた。


残りはカリントと共にこの場を去ろうとしている。


逃がすわけ、ないだろ?


「ゴードンの部下に告げる。選べ――」


しかしゴードンの部下だ。希望を与えなければなるまい。


「ここで抗い、死ぬか。それとも降伏し、カリントを差し出して生き延びるか。10秒だけ待ってやる」


向かってきていた執事部下たちが足を止める。

互いに顔を見合わせ、何かを話しているようだ。


頭を使えよ、執事部下たち。

お前たちはゴードンの部下なのだ。命を粗末にする真似はしてくれるな。


カウントを口に出しながら、俺は考えていた。


俺はカリントをどうしたいのか、と。どうするつもりなのか、と。


時間を与えたのは彼らに対してだけではなく、自分自身への猶予でもあった。決断するための、覚悟を決めるための時間を与えたのだ。


「――0。さて、時間だ。お前たちは、どうするのかね?」


キリッとした顔を見せつけられた。先程までとはうって変わって決断や覚悟の終えたような表情になっていたのだ。


「我々はゴードン様の教えの下、その身を懸けて主を守れと仰せつかった。よって、我らは――最後の一人になるまで貴様に抗い、主の盾となろうぞ!」

「そうだ! ゴードン様のためにも、オレたちが諦める訳にはいかないんだ!」

「せめて、時間稼ぎだけでも!」

「俺たちは決して、敵に屈しない!」


厄介だ。ことさら面倒だ。


だがここまで言わせるその手腕。ますます欲しくなったぞ、ゴードン。空中での爆発から地面に落ち、横たわって気を失っている執事の(かがみ)を見下ろした。


俺はいつの間にか笑っていた。


「良いだろう、面白い。そうでなくてはつまらないよな」


両手を大々的に広げて宣言する。


「来るが良い、覚悟を決めた武士(もののふ)よ! この俺が胸を貸そう。お前たちの足掻き次第で、領主の裁きが決まると知れ!」


執事部下たちは頷いた。


武器を握りしめ、各々の成すべきと思った行動をとった。


希望は与えた。だから次は、敗北を与えよう。


「起きろ〈流砂千渓(アグニエル)〉――少し遊んでやりな」


何故、俺がこの砂漠を選んだのか教えてやろう。


そもそもこんな砂漠のど真ん中に魔物がいないことを疑問に思わなかったのか?




「俺には地属性魔法の適性があるらしく、砂や石、岩の類いなら自在に操れるし造り出せる。故に、ここに来た時点で、お前たちの敗北は決まっていたのだ」


砂が地面から意思を持ったように様々な形で盛り上がる。


「まあ、それは俺の魔法ではないがな」


甲冑を来た騎士だったり、単純に大きな拳だったり、それは執事部下よりも多くの数で彼らを攻め立てる。


斬っても突いても粉砕してもすぐに再生する砂の攻撃は、彼らに休む暇を与えず、次々と倒して確実に数を減らしていった。


「頑張れ頑張れ」


再生し、何度でも襲ってくると言っても所詮は砂の集まり。


ある程度の傷や気絶はさせても、致命傷は与えられないように調整してある。


あいつらとて愚かにも罪を犯しているとはいえ、その覚悟に免じて慈悲を与えよう。


「それ以上、近付くな!」

「主様、お逃げください。ここは我らが時間を稼ぎます!」

「た、頼んだぞ。ここを無事に逃げおおせたら、お前たちに思うがままの褒美をやる。決して奴をわしに追い付かせるな」


傲慢な指示を出してせっせと走り去っていく。敵に背中を向けるなんて、不用心にも程がある。もしここが戦場なら殺してくれと懇願しているのと同義ぞ。


「聖なる水よ、我が前に立ちはだかる敵を貫け――〈アクア・バレット〉」


立ちはだかる……て、どちらかと言えばそれはお前たちの方なんだが?


水の塊が矢のごとく飛んできたので、躱わすと術者の執事部下がニヤリと口角を上げた。


「ああ、なるほど」


パチン。


弧を描いて背後から迫ってきていた水の塊が、俺に当たる直前で動きを止めた。


「なんだと!?」

「何が起きたかわからないようだな。仕方ない説明をし――」


俺がせっかく説明してやろうと言うのに、もう一人が容赦なく剣で斬りかかってきやがった。


おいおいこらこらー、人の話は最後まで聞きなさいと教わらなかったのかね。


ゴードンが起きたらそこんとこを詳しく訊かねばならないようだ。


「ははは、(りき)みすぎだ。それでは受け流された時に体勢が崩れるぞ」


腰に装備しておいたダガーで剣を言葉通り受け流して、隙だらけの横腹に蹴りを入れた。


「ゲハッ」

「こんな風にな」


執事部下剣士はバタリとその場に倒れた。

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