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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第二章 旅立ちの人間界
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『惜しい』

 人間界の北側に広がる砂漠地帯。


 そんな未開の地にいきなり連れてこられたカリントたちは慌てふためいていた。


 人はこんなザマを滑稽と言うのだ。


 生憎とここには俺とこいつらしかいない。なので俺が嘲笑ってやろう。


「アナタ、やっぱりただ者じゃないわね」


 ルカムが一歩前に出た。


「俺はあんたと戦う理由はない。目的はそこのチョビ髭とお仲間だからな。そこをどいてくれると助かるんだが?」


 一応訊いておこう。


 苦笑した後にかぶりを振る。


「できない相談ね。アタシは美しく誇り高い〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉なの。王国の民を見捨てるはずがないじゃない」


 構えるルカム。


 こいつで見た目は凄まじい衝撃を与えてくれたせいで気付きにくいが、根は良い奴なんだろうな。


 馬鹿ではないから、俺との力の差は理解しているにも関わらず向かってくるとは見込みがある。


「ルカム・テロンツーノ、俺の支配下に入らないか?」


 俺は手を差し出して支配下になるように誘った。


「魅惑的な誘いだけど、お断りするわ」


 無意味、ではなかったようで何より。


 そうして俺は差し伸べた手を引っ込め、構えた。


「後悔させるしかないようで残念だ」

「させてみなさい。アタシ……いえ、アタシたちは弱くはないわよ」


 ルカムの隣にそっと執事ゴードンが立った。


「主を放っておいて良いのか?」


 本当は訊く必要などないが、わざと尋ねてみる。


「ええ。あなたには部下では不十分だと判断しました。よって、この老体自らが全力でお相手します」


 手と足に魔力が集束していく。


 どうやらゴードンも肉体強化型らしい、と思ったのも束の間。


「破ッ!!」


 ゴードンが拳を前に突き出すと砂が舞い上がり、見えない何かが俺へと迫る。


 なるほど、俺と同じやつか。


 拳を勢い良く突き出して衝撃波を飛ばしてきたのだ。

 全力の言葉はあながちはったりではないらしい。衝撃波を放つと別方向から俺との距離を詰める。


「ちぇー」


 地面を軽く踏み、土の壁を衝撃波の前方に作り出すも軽々と砕け散った。

 思わず文句が口をついて出てしまった。


 マクシスと言い、ゴードンと言い、どうしてこうも王国の奴らは破壊するのが好きなんだ……。


 と、呆れている場合ではなかった。

 眼前に迫る舞い上がる砂でそれの場所はまるわかりだ。


 俺が手を軽く振り下ろすと、砂がおとなしくなった。


「あれを相殺するとはお見事です、が!」


 右側からゴードン、左側からルカムが同時に殴りかかってくる。


 的確にタイミングをずらして来るものだから、手だけで防ぐのは難しかった。


 それにしても、音がうるさいな。

 拳を受け流したり受け止めても、ましてや躱わしても破裂音が凄まじい。


 曲ができそうなくらい見事な連携による連続攻撃だった。


「まだまだこんなものじゃないわよぉ!」


 俺は感心すると共に、疑問を抱いた。


「これほどの力を持ちながら、あんたたちは何故外道の味方をするのだ?」


 魔界のトップの連中を知っている俺からすれば、人間なんて非力なものだと思っていたが、こうやって相対して思い知らされた。


「弱くない、決して弱くはない。故に謎だ」


 次々と迫り来るふたりの拳を受け流し、躱わしながら俺は問いかけた。


「外道、ですか。ええ、主様の所業は間違いなくその類いでしょうな」


 ゴードンが拳を止めて距離を取る。同じタイミングでルカムも飛び退いた。


「あなたにとって、この世で一番大切なものはなんですか?」


 真剣な眼差しでゴードンが問いかけてきた。だから俺も笑顔を崩して返答した。


「見ればわかるだろう、妹だとも」

「それが答えです」

「は……ああ、なるほど」


 ――俺としたことが考えればわかるだろうに。


 こんな簡単な答えがわからなかったとは、グリムに笑われてしまうな。バルムにはお叱りを受けるだろうか。


「あんたも同じ答えか、ルカム」


 ゴードンから視線を移してルカムにも尋ねる。


 ふっと微笑んでルカムは「そうよ」と答えた。


 怒りで沸騰しかけていた頭が急激に冷めていくのがわかる。

 俺はこいつらの行いを許した訳でも、認めた訳でもない。


 しかし考え方は理解した。故に俺はただ約束を果たすことに尽力できる。


「俺の名はノルン。絵描き好きの妹の兄だ」


 だから名乗った。

 〈魔王〉としての名はまだ言えないが、礼儀として言っておきたかった。


「俺は、お前たちが虐げてきた者たちの代弁者だ」


 だからお前たちには、俺が直々に絶望を教えてやる。


「お前たちが蔑み、見下し、弄び、捨て去った者たちの無念の一欠片を思い知らせよう。さあ、懺悔の準備はできているか?」


 殺気を隠さずに放つ。

 それだけでゴードンとルカムは一歩後ろに下がった。


 殺気ついでに魔力も放っているのだ、相当なプレッシャーになっているはずだ。

 彼らの後ろでは領主カリントが執事部下たちと共に逃げ出していた。


 俺に正面を向いて立っているだけで称賛に値する。


「ノルン……良い名前ですな」

「ほんと、イイ響きだわぁ」


 威勢を見せたいのだろうが、声の震えが隠しきれていないぞ。


 だが悪くない。

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