『物』
今後の任務を伝えるべく、俺は〈死の人形師〉――ゴイレン・ウェンザルの屋敷に訪れた。
何度来ても慣れない場所だ。
所狭しと部屋のあちこちに並べられた人形たちを見渡しながら肩を竦める。
まるで全ての人形から凝視されている気分で落ち着けない。
「――して、我々にどのようなご用件でしょうか?」
極めつけはこの部屋、もとい屋敷の主の見た目が怖い。
気だるそうな垂れ気味の目玉が飛び出そうになっているような気がするし、背が高いのに猫背で常に不気味な笑みを浮かべている。
おまけに差し出されたカップに注がれた液体は黒かった。
匂いからして紅茶でも、コーヒーでもない。
しかし、せっかく出された品だ。一口含み、無味を楽しんでカップを置いた。
「お前に、門の調査とアルヴァンたちの監視を行ってもらいたい」
「門の調査はわかりますが、オーレリアどもの監視とはどういうことですかな?」
今にも飛び出て落ちそうな目玉をギョロリとこちらへ向ける。
ついつい、「うわあお」と驚嘆の声を出しそうになり、危ないなと飲み込んだ。
「知っての通り連中は我々に敗北し〈魔国〉の傘下に入った。が、ああいう奴がいつまでも大人しく従い続けるとは思えぬ。加えて、他国からの干渉がどの程度か探りたくてな」
「多くの国を脅かした彼らを囮に、怪しい輩を炙り出すと」
「解釈は任せる。聞きたいのは引き受けるか否かだ」
渇いた喉を癒すために黒い液体を一口。
やはり味がしない。
ゴイレンは俺の思案を探るような目付きだ。
「陛下は我々を怖がっていらっしゃる」
「ああ、怖いし気持ち悪い」
「そうもはっきりとは、清々しくなりますな」
「不甲斐ない俺には、こいつらの良さは理解できぬ。せいぜいわかるのは、お前がここにいる全員を大切にしていることくらいだ」
ずっと気になっていた謎がようやく解けた。
「こいつら全員がお前で、お前がこいつらなのだな」
「……!」
俺の指摘に驚いたように小さく口を開くゴイレン。
「だから我々、か。となると俺の自分の配下を罵倒したのか……謝罪しようゴイレン」
「い、いいえっ、滅相もございません。我々を物扱いしなかった、それだけで歓喜に至る思いです」
「そ、そう、なのか。喜んでもらえたなら何よりだ」
半分は理解できていないが、まともに話が進められるようになったのは明白だ。