『寄り添う』
ルシファーから〈冥界〉や〈悪魔〉の話を聞けた。
有力な情報を得られたと断言できるくらいだ。
……しかしだ。
知ったから手放しで喜べる状況とは程遠い。
でなければ、こうして頭を抱えて自室を目指し、とぼとぼと歩いていないとも。
「――おかえりなさいませ。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……ワ・タ・シ?」
「……すまない、部屋を間違えたようだ」
扉を開けるや否や、変な奴が変なことを訊いてきたので、つい反射で閉めてしまった。
念のため、ここが本当に自室なのかを周りを確認する。
いくら考え事をしており、この城が広いとはいえ、自分の部屋を間違えるほど落ちぶれた覚えはない。
「うむ、あっているな」
周囲の壁には扉はなく、あるのは俺の部屋のひとつのみ。
確認するまでもなかったが……まぁ、気分の問題だ。
ため息をついてからドアノブに手をかけて回す。と見せかけて、通路の角から魔力操作で扉を開けた。
俺なりのお返しのつもりだった。
驚くか慌てるか、どちらにせよ気分転換にでもなれば良いと思った次第だ。
「…………」
「…………ん?」
何の反応もないので、俺が首を傾げた丁度その時、開いた扉からユイナがひょこっと顔を出す。
探すように周囲を見渡すのでもなく、隅から覗き込む俺に迷わずに微笑みを見せた。最初から企みなんてお見通しですよと言わんばかりの笑顔だった。
……結果は俺が両手を上げて敗北を宣言。
あいつならまんまと引っ掛かっただろうに、相手が悪かったな。
「バレバレだったか」
「はい、バレバレです」
観念して部屋に入ると、パンとスープが机の上に置かれていた。
集中しすぎてわからなかったが、美味しそうな良い香りが漂ってきた。
「あれは?」
「時間も時間なので、軽めのを用意しました。頭を働かせるには、まずはお食事です。今日、ほとんど何も食べていないの知っているんですから」
顔の横で人差し指を立て、本人ですら忘れていた事実を指摘する。
「……ありがとう」
良く見てくれている、と苦笑してしまう。
すると、突然頬を膨らませるユイナ。
不快に思われてしまったのなら悪いな。
謝罪しようと口を開こうとするも、ユイナに先を越される。
「それと、乙女の前で他の女の子のことを考えるのは、よくありませんよ」
見透かされてる……。
苦笑いで固まった。