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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第十章 冥界よりの侵略者
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『帰ってきた理由』

 ――来てほしい。


 酷く簡潔な報せを受け、冒険者の都――パラディエイラを訪れた。


 騒ぎを起こされては困るので、護衛兼付き添いは最低限の人数で選抜した。


 俺、アカネ、グリム。そして――ユイナだ。


「ここが人間の都なんですね。とても綺麗です」


「連れていってくださらないなら、この城を破壊します」と笑顔で言われてしまえば、一緒に来てもらうしかない。


 物騒な言葉の言い回しとは裏腹に、こうして可愛らしい笑顔で街並みを眺める姿はそれこそ綺麗だと思える。

 たとえ角が生えていようとなかろうとだ。


 背中に背負う戦斧が目を引くが、さすがは冒険者の都。全然目立っていない。


「ですが、かなり慌ただしい様子。ノルン様、今回の事態、かなり大事のようですね」


 笑みを崩したユイナが、道を行き交う人々を見て眉を潜める。


「そのようだ。例の件も控えている。さっさと終わらせるぞ」


 〈悪魔族〉の案件は各国の王や城仕えなどの一部の者しか知らない。もちろん、無用な混乱を避けるためだ。


 だが、ユイナの言う通り、只事ではないのは明らかだ。


 ギルドへと向かう足が、自然と足早になった。




 ◆◆◆




 ギルドに到着した俺たちを待っていたのは、険しい形相で右往左往する冒険者たちだった。


 しかし、これほど忙しい状況下で、端の方で何人かが泣いているのが目についた。死人が出たのだと確信した。


「おおっ、ノルン。来てくれたか!」


 冒険者ギルド〈ボルボレイン〉ギルドマスター、バッカス・ガルヴェリウスが階段を勢いよく降りてきた。

 おかげで皆が動きを止め、視線が俺に集中する。


「事態は急を要する。ここは騒がしい、上で話そう」


 ズドンと肩を叩かれ、若干床が凹んだが気にしてはならないだろう。


 ユイナよ、殺気を放つのはやめるんだ。


 悪気どころか、バッカスは友好的な人なんだよ。


「――話をする前に、かなり痛々しい内容だが……構わんか?」


 ギルド長の部屋に案内され、バッカスに促されて椅子に座った。


 そして、アカネとユイナを見やり、俺にそう尋ねた。


「構わない。ふたりとも、子どもではない」

「そりゃあ、すまねえな。んじゃ、本題だ。――ことの発端は3日前、ギルメンのひとりが遺体として帰ってきた。転移結晶の使用による帰還だ」


 冒険者の生還率を考慮し、ギルドが彼らに支給しているものだ。


 かなり高価なものだが、バッカスは可能な限りギルドメンバーに渡している。

 情に熱く、仲間思いのバッカスらしい。


 俺も渡されかけたが、転移魔法は使えるため断った。


「酷だが、遺体で帰ってくるのは珍しくねえ。けど、そいつの全身のあちこちに紙が仕込んであった。『南方にて、魔物の大群が集結』って書き殴られた紙がな」

「南方か……」

「嘘をつくようなやつじゃあなかったからな。確認のために、すぐに10人のギルメンを向かわせた。最悪の事態を避けるために、全員手練れで構成したパーティーだ。危険を感じたらすぐに逃げろ、そう伝えて送り出した……」


 そこまで話して、バッカスは表情を曇らせる。この顔を見るのは2度目だ。


 聞かなくても結果はわかる。が、ここで話を遮るのは愚か者がすることだ。


「全員が、最初のやつと同じような姿で帰ってきた。まるで、オレらの無力を知らしめるようにな」


 隣に座るアカネが、そっと手を重ねてきた。俺はバッカスから視線を逸らさずに握り返す。


 僅かに震えていた。理由まではわからない。

 恐怖か悲しみか、それとも怒りか……あるいは――。


「悔しいが、これ以上仲間を失うわけにもいかねえ。だから、恥を承知でおめえの力を、また貸してほしいのさ」


 哀しい笑みだった。


「ギルドマスターがなんて顔をしてるんだよ? 俺は一応このギルド〈ボルボレイン〉の一員でもあるんだ。恥でもないし、遠慮もいらん。仲間が困ってたら助ける、それがギルドってもんだろ?」

「ふっ、相変わらず生意気な野郎だ」


 軽口を叩ける程度に、バッカスの顔に生気が戻ってきた。


 仲間思いなのは良いが、ひとりで背負い込みすぎる点はよろしくないな。それが原因でフィーネを怒らせた俺が言えたことでもないが……。


「バッカス、ひとつ訊きたい。調査に向かった全員の死体が帰ってきたのか?」

「……ああ、10人全員だ」

「妙だな」

「たしかに気になります」


 これまで黙っていたグリムが、俺に続いて呟く。


「バッカスが信頼するほど10人は精鋭だった。なのにだ、全員が死体で帰ってきた。ここが腑に落ちない」

「どういう……いや、そうか!」


 仲間を失った影響で損なわれていた冷静さをバッカスが取り戻す。それにより、違和感に気付いたのだ。


「絶望的状況だったとしても、情報を生きて持って帰ろうとしたはずだ。たとえ、誰かが犠牲になろうとも。しかし、それが叶わなかった。ならどうして転移結晶は発動したのか」

「敵が使ったのでしょうか?」


 ユイナが首を傾げる。


 こちらの戦意を削いだり、精神的に苦痛を与えるため……そう考えるのが妥当だろう。


「いや、結論を出すのは早計だ。――が、どうやら俺たちの役目はここまでらしい」


 王国側の手札がギルドに到着したらしい。


 今まで全く気配を感じなかったのに、わざわざ来たことを知らせてきやがった。


「バッカス。王国からの援軍が来たぞ。入口でお待ちだ」

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