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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第九章 世界の救世主
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『お前はわたしが』

 自分自身でも斬りすぎたと思っている。


 アルヴァンが死ぬ。それはつまり、奴の体内に取り込まれた魔力が一気に放出されるということ。


 事象として世界が認識し始め、都市が、大地が、結界が、空が、そして――アルヴァンが真っ二つに斬り分かれる。


 奴を中心に魔力流が発生し、周囲の空気が凝縮し始める。数秒後には大爆発を起こすだろう。


「フィーネ。結界を解くから、皆を連れて都市から退避しろ」

「レグルスはどうするの?」

「俺はアルヴァンを何とかする。辛うじて魔力で押し留めているが、いつまで続くかわからない。万が一に備えて皆を頼む」

「……」


 まだ何か言いたげのフィーネに微笑みかける。


 撫でてやりたいが、下手に体を動かせば破裂しかねない。反動が予想を上回っていた。


 痛みはまだ良い。だが、内側からの弾けだしそうな感覚を抑えるのは、アルヴァンの分も相まって限界に近い。


 恐らくフィーネなら大丈夫だから、なんて理由でそばにいてもらうことはできない。そんなことをすれば男が(すた)る。


「そんな顔をしてくれるな。万が一と言ったろう? 他の者ならともかく、フィーネの言うことであれば誰だって聞いてくれる。もしかしたら俺よりも、な」


 冗談交じりに苦笑しながら言う。


 そう……。

 現状の俺では、仲間たちを巻き込まずに事態を収拾できる自信がない。


 〈全解放(アルスェイレ)〉も、あと数分保つかどうか。

 もし解除されれば、俺もアルヴァンも点火した爆弾のように、華々しく散ることになるだろう。


「……お前はいつも」

「ん? よく聞こえなか――」


 フィーネが何か言うが、呟き程度の大きさで俺の耳には届かなかった。


 聞き返そうとすると、瞼が上げられ、赤い双眸が俺を睨みつける。


 まるで蛇に睨まれた蛙だ。言葉を発することも、動くこともできない。


「お前は、ひとりで全部を抱え込む。そういうとこだぞ、レグルス」


 鼻をつつこうとしたのか、眉間を突こうとしたのか。人差し指を伸ばしてくるも届かず……。なので、こちらに突き出してきた。


 上がろうとする我が口角を必死に抑え込む。


「……心配してくれてありがとうな。だがそれでも、これは俺が始めた戦いだ。最後まで――」


 最後まで言えなかった。


 黙れと言わんばかりに、刀を首筋に当てられたからだ。


「言い訳はいらない。わたしを……頼れ」

「――!」


 怒っていた……寂しそうに、怒っているのだ。


「……わかった」


 断るための言い訳は思いつかなかった。


 気付けば俺は、フィーネの思いを受け入れていた。


「俺が奴の魔力を空へ飛ばす。俺はその作業に集中するから、フィーネにはこの上の地面と結界を斬り、魔力を通すための道を作ってもらう」

「わかった」

「だがもし失敗しそうな時は、遠慮なく逃げろ。前魔王であっても、その血族を絶やすわけにはいかないからな」


 たとえ俺がいなくなっても、フィーネならうまくやれる。


 俺がフレンに召喚されたばかりの頃は難しかっただろうが、今となっては問題あるまい。


 最初は恐らくグリムやバルムが政を買って出る。が、数ヶ月もすれば良き魔王として、他国とも交流を行えるようになる。


 だから、俺はここで死んでも構わない――そう思った矢先、フィーネの顔が近くなり、突然ぐいっと視界が右へ動いた。


 俺の意思ではない。


「…………」


 物理的衝撃があった頬へ、無意識に手が添えられる。


 平手打ち。ビンタ。


 あぁ、痛いな……。


 もう二度と、こんな顔をさせないって決めたはずなのに。


「いい加減にして! お前は、お前はもう独りではない。わたしも、仲間も、配下もいる。お前がいなくなれば、悲しむ者がたくさんいる。だから……命を粗末にするな」

「ああ……」

「レグルス、お前はわたしが殺す。誰にも譲る気はない。お前自身にもだ」


 赤い双眸が俺を捕えて逃さない。


 ついに、はっきりと言われてしまった。……いや、言わせてしまった、か。


「お前とあれの魔力をわたしに送れ。わたしが空へ飛ばす」

「……仰せのままに、我が姫よ」


 問答を繰り返す余裕が俺にはなかった。それに、これ以上文句を言えば、この場で殺されかねない。


 方針が決まれば、あとは早かった。


 フィーネの後ろで両手を翳す。

 俺を経由してアルヴァンの魔力を。俺のは直接フィーネに送る。


「くっ……」


 同時進行でアルヴァンの傷を回復魔法で癒やす。


 これで奴は死なない。


 ダンテたちの退避は済ませた。


 あとは魔力をフィーネに託すのみ。


「よし、これで十分だ!」

「了解。レグルス、離れて」


 指示通りにフィーネから距離を取る。


 居合いの構えで腰を下げた瞬間、閃光が周囲を支配した。


「……は、ははは、こりゃすげえや」


 俺が刻んだ大地の切れ目。それは指よりも細いものだ。


 しかし、フィーネの一振りは、地下を穴に変えるほどだった。


 つまり、地下の天井が全て消え去ったのである。



 後で上空から見てわかることだが穴ではなかった。

 もはや、巨大な谷である。


 地上の建造物のほとんどが土へと還っていた。




 ◆◆◆




 同刻。

 人間界の砂浜にて、白銀の髪を風に靡かせる青年と、似た髪色の少女が一部始終を眺めていた。


「量があるとは言え、ただの魔力であれほどか」

「心配?」

「少しな。レグルスはともかく、フィーネのそれ(・・)は私ですら危うくさせるものだ。故になのか、はたまたその逆なのかはさすがにわからんがな……」


 少女の問いに、ため息混じりに青年は肩を落とす。


「でも……」

「アルヴァンが負けるとは思ってなかった、か?」

「うん」


 先読みして問いかけると、悲しそうな表情で頷いた。


「素の能力は万能だが、あやつ(・・・)はもともと戦闘においては初心者同然だ。4種族の力を使いこなせるように教えられなくても不思議ではない」


 青年の戦い方を傍で見てきていたとは言えど、経験自体は皆無に等しかった。それ故に、上辺だけは取り繕えても、見る者によってはまだまだだと呆れられる結果となる。


 しかし、青年はそれにしてはよくやったと、アルヴァンの師匠を称賛する。


「それでも、血の力の均衡を保たせることには成功している。ある程度やり方さえ知れば、教育者としては私を軽く超えるだろう」


 そう言って、海へと視線を落とす。


「弟子を放置するとは、何処で何をしているのやら」

「お兄さま……」

「わかっているさ。もともと概念として存在していたものに、生物としての存在定義を上書きすること自体が無茶なのだ。現界が不安定になるのは当然よ」

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