『お前は』
リュウヤたちの巻き添えを防ぐために結界を張り、攻撃も彼らへは向けられないように立ち回った。
その結果、レグルスが無数の武器に囲まれ、今にも殺されそうな状況。黙って待っているのも限界だった。
「アアアァァアアッ!!!」
気遣いを悟ったリュウヤが、痛む体に鞭打って立ち上がる。
「――ダメ」
だが、彼の前には小さな少女が立ちはだかった。
見てくれは幼くとも、その実力が自分より遥か高みにあることはリュウヤであっても理解できた。
フィーネ・グランヴァース・デーモンロード。あのレグルスが敵わないと断言する唯一の人物。
到底まだ未熟なふたりの〈勇者〉では勝ち目はない。
「行かせてくれ」
「邪魔になる」
「それでも……それでも俺は、もう見ているだけなのは嫌なんだ!」
カグラも杖を支えに、フラフラながらも立ち上がる。
「お願いっ、私たちを行かせて!」
「……ダメ。ここで待ってて」
悲しげな表情で言うフィーネを前に、諦めかけるリュウヤだった。が、カグラが彼の手を掴む。
「私たちは勇者。だから、困っている人がいたら助けたいの。世界を破壊しようとする人も、世界の敵と言われる魔王でもね。そうでしょ?」
隣に立つリュウヤに微笑みかける。
少年が覚悟を決める理由は、それで十分だった。
「――そうだ! 俺たちは勇者だ。人々の希望だ。だから……だから誰だって、何だって助けてみせる。もちろん、世界だって困ってるなら助ける!」
全身が傷だらけであっても、誰かのために見せる屈託のない笑顔。
勇者である自分を受け入れ、前に進むと決めた証拠だった。
「行ったらレグルスの邪魔になる。助けるつもりでも、逆効果」
言われてげんなりと肩を落とすリュウヤ。
「悔しいけど、実際そうなんだろうよ。俺は人魔大戦の時には役に立てなかった」
だが、すぐに顔を上げて胸を張った。
「でも、だからこそ、俺は進まなきゃ駄目なんだ。どんなでっかい壁があっても、カグラが一緒なら怖くない」
「……ほんと、調子いいんだから」
悪態つきながらもカグラは頬を赤らめ、まんざらでもなさそうである。
「さっきやられたのもちょっと油断したからだ。次はあいつをぎゃふんと言わせてやるよ!」
それを聞いたフィーネは思う。――本物も同じなのか。
「眠っていて。レグルスは複製だって気付いたら悲しむから」
チャキ。
鍔が動く音がするのと同時、リュウヤとカグラはバタリと倒れた。
〈複製〉で造られたコピーは本物と遜色ない出来栄えとなるか。それは術者の腕の見せ所である。
この場合、レグルスの慧眼より相手の技術が上回ったのだ。
「レグルスは強くなった。でも、まだまだ未熟」
呟いて武器に囲まれるレグルスを、白銀の少女は盲目の瞳で見つめる。
魔族たちを統べる王――〈魔王〉として常に気を張り、何事に対しても飄々と立ち回る。どれだけ辛くとも、苦しくとも他者には見せず、ひとりで頑張ろうとする癖がある。
そんな強い魔王を頼りに、多くの同胞が集って良き日常を手に入れた。だから、その者たちを守ろうと、また頑張る。
事実、レグルスが力を証明し続けるおかげで、現魔国は歴史上で最も栄えていた。
彼が人間族であることを忘れてしまうほどに。
「また無茶をしてる」
フィーネは瞳を揺らす。――誰がレグルスを守るの?
誰に問いかけるまでもなく、答えなど既に出ていた。
「お前は――わたしが守る」
何処かの〈勇者〉に影響されたのか、フィーネは歩き出した。守ると決めた、まだまだ未熟者な愛しい彼のもとへ。