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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第九章 世界の救世主
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『恵まれた』

 いくつもの選択肢があった。様子見や、策謀を巡らせるなど色々あったのだ。だというのに――


「――っ!」

「――ふっ」


 互いの刀が衝突し、風切り音と共に火花を散らした。


「重い」


 アルヴァンが呟く。


 俺とて同意見だ。片手とは思えないほどの重さ。

 それにあいつの剣は何処から出てきた?

 転移や召喚の類とは違った。魔力が集積して形を成したような。まるで造り出した(・・・・・)かのように。


 始まりの衝突の直後、照らし合わせたように俺たちは距離を取った。


「生死を決するんじゃないのか?」

「……気になることがあってな。つい、体が動いてしまったようだ」


 軽口を叩いて口角を上げるアルヴァンに、苦笑しながら誤魔化しで返す。


 衝突の瞬間に感じたアルヴァンの魔力。あれは今まで奴に感じてきたものとは別の波長が混ざっていた。

 ほんの一瞬。気のせいと言えばそれまでだが、俺の直感が告げている。――油断するな、と。


 潜んでいる一人のことも気になる。どうやら話をした方が良いかもしれない。


「もしかして、オレのことが怖くなったか?」


 相手を馬鹿にする表情で問いかけてきた。


「どうだろうな。恐怖と言うより興味の方が近い」

「……やめてくれ、気色悪い」


 ニヤけ返すと引かれてしまった。


「勘違いするな。単刀直入に言えば、お前が何者なのかを知りたいのだよ」

「何者? わかり切っていることじゃないか。オレはアルヴァン。世界のために世界を破壊する救世主だ!」


 言いながら一度の跳躍で俺との距離を詰め、刀を振り下ろしてきた。


「やはり妙だ、なっ――」


 魔力で身体能力を強化し、今度は難なく受け止める――はずだった。が、先程にも増して、凄まじい重量が俺を押し潰さんとする。


 衝撃で床がひび割れ、足が僅かにめり込んでいた。刀を握る手と、支える手。その両方が震えているではないか。


「世界を壊したところで、新たに生まれる者が今いる者たちより賢い保証がどこにある? 同じ過ちが繰り返されるだけではないのか?」


 そこまで言って核心らしきものが浮上する。


「……なるほど、そういうことか。お前は彼らに絶望しつつも希望を見出している……いや、見出したいんだ」

「――っ、黙れ!!」

「ふっ、図星か」


 叫びに呼応するように、刀にかかる重さが急激に増した。


「オマエにオレの何がわかる! 魔王として恵まれた環境で生まれ育ったオマエなんかに、わかるもんかぁぁあ!!」


 アルヴァンの迫力に気圧されたから。あの部屋の子どもたちと重なったから。はっきりとした理由はわからない。


 少なくとも油断していたのは間違いない。


「――っ」


 だから、フィーネが名を呼ぶ声も、周囲に近付いていた奴らに気付けなかった。


 アルヴァンが力の向きを変え、後退りにした俺は――串刺しとなる。5体のエインヘリアルの剣にだ。


 魔力を感じさせない。エインヘリアルの性質を忘れてしまうとは不覚だ。


「がはっ……くっ……」


 同時に剣を抜き去り、上段に振り上げる。


「センメツする」

「終わりだ」


 アルヴァンが口角を上げると、淡い光を帯びた白い剣が無慈悲に振り下ろされ――。


「俺の命は、もう……俺だけのものじゃない」


 しかしてエインヘリアルの動きがピタリと止まる。


「なぜ動かない!」

「時間の流れを操作しただけだ。もっとも、彼女たちだけの時間、だがな」


 〈刻源転廻〉――対象の時間の流れを文字通り操作する魔法。それを使ってエインヘリアルの時間を一時的に止めたのだ。強力故に消費魔力が激しいのが残念な点だ。


 誰かさんがそちらに気を取られている間に回復を済ませるつもりだった。が、あの剣には魔法を阻害する効果が施されているのだ。正確には魔法へと昇華する魔力構築の妨害措置、だ。


「まあいい。代わりはいくらでもいる」


 嘘ではないと証明するように、エインヘリアルは次々とこの場に現れた。


「しかし、そうか。恵まれた環境で、ね……」


 記憶がない。不便なのはその点くらいだ。


 瞼を下ろし、これまでの日々を追想する。


「俺は奴隷でもなければ召使いでもない。魔王と言う地位を与えられ、身分の保証と行動の自由がある。仲間たちだって、俺にはもったいないくらい良い人たちだ」


 少し頬が緩んでしまいそうになるが、決して偽りではない本心だ。いつもより砕けた言葉遣いになっているのが、何よりの証拠であろう。


「幸せ者だな。オレには自由もなければ、誰も助けてくれなかった。希望なんて言葉も知らない。知ったところで吐いて捨てる。そんな毎日だった。あの日、あの人と出会うまでは――」


 (よぎ)る数年前の日常。

 恩師と出会った日々と、出会うまでの地獄が鮮明に浮かぶのだ。

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