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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第九章 世界の救世主
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『ようこそ』

 蘇生魔法を使えるのは俺だけではない。


 ネメシスの件が良い例だ。あれは俺のそれ(・・)よりも完全に近かった。


 代償は大きいとしても、十分な見返りがあった。

 消滅した者の蘇生である。


 少し期待してしまったが故に、イーニャが含まれていなかった時は落ち込んだ。


 蘇生した者たちの中に、待ち望んだ者の姿はなかった。


「〈封動(動くな)〉――っと、効かないか」


 あの球体の中にアルヴァンがいるはずだ。


 俺がここにいると誇示したのに出てこない。となると、あそこから離れられない理由があるのだろう。


 世界を滅亡させる魔法を発動させるために、とかな。


「塔からの魔力の流れ……まさか本当に?」


 景色が歪む程の濃密な魔力が、塔から切り離された球体へと昇っていた。


「のんびりとエインヘリアルの相手をする暇はないらしい。フィーネ、正面突破だ」

「え?」


 見据えるは塔の上の球体。


「天を駆ける翼竜が如し――〈翔竜(クリード)〉」


 〈飛翔(レプト)〉より速く飛べる魔法を使用し、フィーネを問答無用でお姫様抱っこする。じたばたと暴れられるかと思ったが、意外と静かになされるままだった。


「センメツ、する」


 一体のエインヘリアルが追いついて斬りかかってくる。が、直前に〈短転移(テイレル)〉を発動させて塔の頂上へと転移した。


 もちろん、球体への魔力流に触れない端の方にだ。


「レグルス、下」

「下?」


 意図することが分からず、どういう意味かと訊いた。


「下にいる」

「――っ、まさかアルヴァンのことか!?」


 こくりとフィーネが小さく頷く。


 眼前の魔力流のせいで魔力探知が覚束ない。が、フィーネがいると言うのだからそうなのだ。


 自信満々だった予想が外れてしまった。両手で顔を覆いたい気分だ。


「下となると、塔の地下か?」

「うん。待ってる」

「……待ってる、か」


 塔の中は空洞になっていた。壁に沿って螺旋状に階段があるのみで他にはなにもない。


 中心は魔力の通り道。造る時点で前提としていたのだろう。


 球体(あれ)が単純に破裂しただけでも、この都市は軽く吹き飛ぶ威力は想定できる。残念なことに、俺が張った結界は容易く破壊されるだろう。加えて、衝撃により津波や地震が起こる可能性とてある。


「ならば行かねばならんな」


 底の見えない暗闇を見下ろし苦笑する。


 一人ならば心細いが、今回は一人ではない。誰かがいてくれることがこんなにも心強いとはな。


 魔力をいつも以上に練った障壁を張り、底見えぬ暗闇へと飛び降りた。


「――ぷふっ」

「……」


 抱きかかえるフィーネの長い髪が舞い上がり、いつもとは違った印象を(いだ)かせる。それに鼻をくすぐってくる。


 敵地だというのに呑気なものだ。


「――到着」


 そうこうしている内に底と思しき場所に到着した。


「まるで神殿だな」


 圧縮魔法が施されているとは言え、驚きを隠せないほど空間が広がっていた。ここが地下だと忘れてしまいそうだ。


 これまで地上で見てきたものとは明らかに異なる建造物。何本もの石造りの柱が左右に立ち並び、奥には何かが降臨するであろう座が用意されている。人が座るとは到底思えない巨大なものが。


 記憶の中にある神殿(・・)。まさにそれがこの場を形容するのに一番しっくりくる言葉だった。


「――ようこそ。歓迎したくはないが、そう言うべきなんだろう」


 そして、その座の前に立つはひとりの少年。


 右腕を広げ、俺たちを歓迎した。相変わらず左腕は隠れたままだ。


「落ち着いているな。仲間がやられてももう動じないか。意外と薄情な奴だ」

「アンタに言われたくないな。王国との戦争、剛王との覇権争いで」


 前王国で戦った時はかなり取り乱していた。なのに今のアルヴァンからは、焦りや怒りなどの負の感情が感じられない。

 まるでそれらを感じる心が欠落したみたいだ。――いや、違うな。


「――フィーネ。ふたりを頼む」


 フィーネを下ろし、二柱にめり込む〈勇者〉二人を任せた。


 おかしい。

 あいつらはアルカクィエルのもとへ向かったはず……。

 クラトスの姿が見当たらないのも気になる。


「勇者は下した。あとは、アンタを倒せば脅威はなくなる。オレを邪魔をする者は誰もいなくなる!」


 握った拳が微かに震えていた。


 俺がよほど邪魔らしい。〈勇者〉らの元へ向かうフィーネには目もくれない。


 それとも伏兵でも潜んでいるのやら。


「……だけど、オレは無法者じゃない。少し話をしようか、魔王レグルス。勇者の話は退屈で仕方がなかった」

「お前と話すことなど何もない。片方が生き残り、片方が死ぬ。それを決するだけだ」


 話が通じない相手を黙らせるには屈服させるか、殺すしか方法はない。


 曲がりなりにも全世界に喧嘩を売った男だ。屈服するくらいなら死を選ぶだろう。


「その通りだな。勝者だけが生き残る」


 アルヴァンはまだ話し足りないようだが、放っておいても勝手に話し出すだろう。


 お互いに相手を見据えた。

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