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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第九章 世界の救世主
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『浮上せし都市』

 ――ついにアルヴァンが動き出した。


 真夜中に騒音がしたかも思えば、海からとてつもない光が魔国を覆う結界に直撃していたのだ。


 幸い、度重なる様々な連中の進行のおかげで強化を施しておいたのが功を成した。


 遅かれ早かれ、あいつなら行動に移すと思っていたから、大して驚いてはいない。


 問題は夜中の騒音の文句が俺のもとにやって来ることだ。

 善処するとしか答えられないんだよ……。


「厄介事が次から次へと……。他の種族の反応はどうだ?」

「かなり警戒しているようです」


 珍しく険しい表情でグリムが報告する。


「海底に沈んだはずの伝説の都市――アトラエイデス。空を飛んでいないのを喜ぶべきか」


 投影魔法で映し出された浮上都市を眺める。


 昨日の夜、突如海中から都市が丸ごと浮上してきたのだ。

 しかもそれが大昔の文献に記される、過去に滅んだ伝説の都市とくれば興味も湧く。


 しかし、各国が警戒するのはただ珍しいだけだからではない。


 一時ではあったが、世界を支配した国の要塞の役割も担う移動都市。


 伝説通りなら上空から世界中に殲滅攻撃も可能らしいからな。


「……妙ですね」

「何故最初に放ったあの強力な古代魔法を使わないのか」

「はい。あれでは単なる牽制程度にしかなりません」


 浮上都市を眺めていたダンテが目を細めて進言した。


「遠距離を活かして各国に連続で攻撃すれば良いものを。撃たないのか、それとも撃てないのか。グリムはどう思う?」


 玉座の隣に控える教育兼世話係に尋ねる。


 今では作戦参謀のような役割も担ってもらっているがな。


 優秀な人物にはその者に相応しい立場と役割を与えるのが俺の方針だ。


「まだ断言はできません。ですが、世界中の各種族に宣戦布告を行ったも同然の現状で追撃をしないのは、できないと考えるのが妥当かと思われます」

「獲物を狩り場に誘い込む罠かもしれんぞ。まぁ、奴らの都市を消滅させるのは難しくはない。だが、あの技術は捨て難い。よって、少数精鋭で敵都市に潜入。古代魔法、または古代技術の情報を入手する」


 今後脅威となり得る古代魔法の類いの情報はひとつでも多く入手しておきたい。


「詳しい内容、人員は明日伝える。今日はゆっくり休んでくれ。以上だ」


 アルヴァンたちよ、もう少し大人しくしていてくれれば助かる。


 俺の休養のために。


 あと、フィーネの機嫌のために。

 寝不足が続くと機嫌がすこぶる悪くなるんだぞ。


 一日中抱っこやらおんぶやら肩車やらをせがまれる俺の気持ちを察しろ。そのまま寝られるんだからたまったもんじゃない。


 とか文句を抱きつつも、この環境にすら身体は勝手に順応していっているんだよなぁ……。


 いずれ不眠不休で活動し続けられる身体になるのも時間の問題なのかもしれない。あまり望まないが……。


 自室に戻り、乙女3人衆に占領されたベッドを眺めてため息ひとつ。


「……寝れんな」


 すやすやと静かに呼吸する者たちの眠りを妨げられず、乱暴気味にソファに寄りかかった。


 座った時にギシィと思いの外大きな音がして焦ったが、乙女たちは起きずに寝返りをうっただけで終わって胸を撫で下ろす。


「――お疲れさま」

「えっぶ――」


 前置きなしで突然聞こえた声に驚いて声を上げようとするも、口がすぐに塞がれてしまう。


「しー。ふたりが起きる」


 こくこくと頷くと、俺の口から白い手が離れる。


「起こしてしまったか?」

「ううん、大丈夫」


 そっと右の手が温かいものに包まれる。

 フィーネが両手で俺の右手を握ったのだ。


 あぁ……気付かれているな、これは。


 言葉として表に出してしまえば俺は答えなくてはならない。

 だが行動から察するものであれば間違っている可能性がある以上、気のせいだと誤魔化すことが出来る。


 グリムたちを騙せたからいけると思った俺の推測は外れてしまった。


「感情の赴くままに行動に移せれば、そう思うことがないとは言わないさ。……と格好つけてはいるものの、次に直接まみえたらどうなるか自分でもわからん」

「――殺すの?」


 ぎゅっと握る小さな手に少しだけ力が強まる。


「アルヴァンの出方次第だ。優先順位は簡単には変えられん」


 あれが古代魔法の類いなら、今の俺でも完全には対応できるかどうか怪しい。できたとしても時間を要する。


「だーが、約束を違えると何を言われるかわからんからなぁ……。善処はする」

「じゃあ、わたしも行く」

「おいおい、冗談はよしてくれ。いくらお前の頼みでもだな――っ!」


 やれやれと首を振ってから視線を落とすと、真紅の双眸が俺をしっかりと捉えていた――いや、捕らえたのだ。


「待つばかりはイヤ。それとも、わたしは足手まとい?」


 瞳は揺るがさずに訊いてくる。


 迷いも戸惑いも躊躇いもない問いかけ。


 フィーネは俺がどう答えるかわかっているのだ。

 わかっていながらこうして問いかける。


 逃がさないように。

 狩人が獲物を逃がさないようにしっかりと見据えながら。


 ……ずるいぜ、まったく。


「わかったよ、俺の負けだ。今回はフィーネを同行させる」


 フィーネに掴まれた手はそのままで、空いた方の手を上げて降参の意を示す。


「ありがとう」

「礼を言うのは早いな。何故なら同行させるには条件があるからだ」

「む」


 ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、追加要項が提示されて頬を膨らませるお姫様。


 つついてやろうか。


「〈特異能力(レガリア)〉の使用を禁ずる。お前のそれ(・・)はいざと言う時のための切り札になるからな。そういえばロアンに使ったらしいな?」

「あれは、あの子が悪い。アカネを侮辱したから叱っただけ」

「次からは言葉で叱ってやれ。あいつは〈人魔対戦〉で負けて落ち込んでたのに、フィーネにも負けて更に塞ぎ込んでいるらしい」


 能力自体は間違いなく強力なものだ。


 しかし、使い手の性格と使い方がよろしくない。


 ロアン(あいつ)の性格から鑑みるに素直に稽古なんて質ではないしな。

 父親代わりの存在であるフレンに頼もう。


 何を隠そう。

 今から数十年前に死にかけだったロアンを助けたのがフレンなのだ。


 何気ない日常会話でその話をされた俺は驚いて口が開きっぱなしだった。


「アカネのためなら感謝するが、それでも条件は変わらん。どうする?」

「わかった。でも、わたしが使うべきと判断したら――迷わず使うよ」

「ああ、構わん。他の誰でもない、フィーネ自身の判断なら俺は従うさ」

「決まり。他には誰を連れていくの?」


 首を傾げるフィーネ。


 瞼は下ろされ、瞳は隠れてしまった。


 何人かは決まっているが、まだ選びきれていないのが現状だ。


「起きてから決める。まずは睡眠だ」


 然り気無い主張をしてみるも、フィーネには効かない。


 全く離れる気配がないのだ。


 あまつさえ腕に寄り掛かってきた。


「おやすみなさい、フィーネ」

「おやすみ、レグルス」


 この日は不思議とまともに眠れたのだった。

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