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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第九章 世界の救世主
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『ただひたすらに』

 俺とダンゼルの拳が衝突し、爆発染みた音と衝撃が周囲に広がる。


「くっ――」

「押し潰す!」


 やはり力はダンゼルが上。


「――ん?」


 〈転移(テイル)〉が使えない。


 どんな方法を使っているかまではわからんが、メーベスの野郎が俺の魔法の発動を妨げていやがる。


 だが俺に集中していると――


「紫電八刀流、舞ノ技――〈(クレナイ)〉」


 刀を鞘に納める音が微かに聞こえた。


 メーベスが全身から血を流す姿が見えた。

 これで奴は完全に無視して良い。


「――っ!」

「――ふんっ!」


 互いに押し合うからこそ拮抗する拳だ。

 どちらかが力を弱めれば自然と崩れる。


 ダンゼルの力を利用して体を回転させる。


 拮抗するほど、いや更に強い力を込めていたおかげでダンゼルは体勢を崩す。戦い慣れしているこいつならすぐに立て直せるだろう。


 しかし、一撃は入れれる。


「〈強化(ブースト)〉」


 仕留めるには一撃で十分。


 回転しながら魔法で身体能力を強化する。


「――ぐっ、だあ!」


 右手を突き出していたせいでがら空きの右脇腹に蹴りを()じ込んだ。


 速度なら俺の方が上だ。


 さすがに吹っ飛びはしなかった。が、確実にダメージは与えた。


 空から落ちても平気なくらい頑丈だとダンゼルは言った。

 敵の言葉を鵜呑みにするのは素人のすること。


 だから俺はその場合を想定し、更に面倒な時でも構わない手段を選んだ。


「ば……っ、かな……」


 呼吸がまともにできないのか、途切れ途切れでとても喋りにくそうだ。


 当然だ。

 そうでなくては困る。


 ダンゼルは全身に魔力を意図的に流し込み、鎧を纏うように身体防御能力を上げている。

 外部への攻撃なら確かに鉄壁とも言えるだろう。


 なら内部への攻撃ならどうか。

 それも一番大切であり、動く器官を狙えばどうなるか。


 結果は見ての通りだな。


「どれだけ頑丈だろうが、お前が生き物であることには変わりない。心臓が破壊されれば終わりだ」

「がはっ――」


 ダンゼルは吐血してふらつきはするものの倒れなかった。


 回し蹴りの衝撃を〈集中(オド)〉で一点に集めて〈移動(テーレ)〉で心臓に直接送り込んだ。


 魔族の身体構造は既に勉強したし、魔力で直接ダンゼルの体内を調べた。

 位置も強さも十分だったんだが……なるほど。


「訂正しよう。お前の頑丈さは俺の予想以上だ」


 死にはしなくとも倒れると思っていた。


「さよならだ――」

「――」

「と、言いたいが実行はしない俺である」


 目を閉じて死の覚悟を終えたダンゼルをよそにそう付け加える。


「お前たちに勝負を挑んだのは殺すためと思っていたのか? やむを得ない場合はともかく、できるだけ殺さずに済ませたい」

「……フッ、殺さないと、言うのか。オレに無様に生き残れと……!」


 胸元を押さえながら俺を睨み付ける。


「死にたければ勝手に死ね。立ち上がる敗者なら手を貸す――が、諦めた奴に用はない」


 襲撃者を気遣う暇が何処にあろうか。


「己が決めた目標への道を自ら閉ざすのだな。非常に残念だよ、剛王ダンゼル――あだっ」


 後頭部をフィーネの手刀をくらった。


「むぅー」


 後ろを振り向くと頬を膨らましてご機嫌斜めなフィーネがいた。


「わかっているとも。――フィーネに感謝するんだな。どうしてお前の娘が不幸姫と呼ばれるのか、原因は既に突き止めてある。あとはそれをどうにかすれば良いだけの話だ」


 ダンゼルとメーベスに回復魔法を施してから話を始めた。


「訳がわからん。オマエの目的はなんだ? なにを企んでいる?」


 信用する気はなさそうだ。


「何を、と問われてもな……。うぅむ、強いて言うなら知識のためだ。あとは寂しい思いをしている奴を放っておきたくないだけ。ようは単なる自己満足だな」


 まだ疑いの眼差しを向けられる。


 言わずに済ませたかったが仕方あるまい。

 不幸姫と呼ばれる娘に近付けないダンゼルが知らぬ現実を教えてやろう。


「娘の顔を直接見たのはいつだ?」

「オマエに教える義理はない」

「くだらん意地だな。まぁ良い、話に時折立ち寄りはするものの安全を考慮してしまう。娘のではない、自分自身(・・・・)のな」


 初めて気付いたのか、ダンゼルは驚いて目を見開く。


「頑丈野郎が聞いて呆れる」

「違う! オレがいなくなれば誰がアウロラを守るんだ!」

「だから愚かだと言うのだ」

「娘を大切に想う父親の気持ちはオマエにはわかるまい!!」


 今日は災難な日だ。


 胸ぐらを掴まれて至近距離で怒鳴られる。

 今にも殴りかかりそうな形相でだ。


「わからんな。父親が自分の境遇を認めてしまった娘の気持ちの方がよっぽど察しがつく」

「――ッ!?」

「お前がかけがえのない存在だと想うように、娘も同じ気持ちだったはずだ。なのにお前はどうした? 守るの名目で娘を孤立させ、父親であるお前すら離れた。一番傍で寄り添うべきお前がな」


 胸ぐらを掴む手の力が弱まる。


 自分がしたことの重大さを理解できたようだ。


 偉そうに言っておきながら、俺も当事者になれば似たような対応をする可能性はある。

 その状況に直面した者だけが至る答えが存在するのだ。


「お前は知るまい。彼女が毎日自分で自分を殺そうと繰り返していることを。あいにくと全て失敗して落ち込むまでが一連の流れだ」

「ば、バカな、そんなの――」

「ありえないと言うつもりか? 残念だったな、これが現実なんだよ」

「……」

「……ダンジー」


 口では認める気はなさそうだが、心は逆らしい。

 もはや先程まで感じられた剛王の名に相応しい風格は何処へやら。


 メーベスが励ますも、今や弱々しささえ感じる。


 丈夫なのは体だけで、精神はそうでもないのだな。


「グリム。ふたりを城の地下の牢に閉じ込めておけ。しばらくはそこで頭を冷やさせてやる」

「扱いはいかがしますか?」

「罪人で構わん。抵抗するようなら、殺さなければどうとでもして良いと番人に伝えろ」

「かしこまりました」


 グリムに連れられるふたりは、全く抵抗する様子はなかった。


 衝撃の事実を知って心中穏やかではないと。


「どうする気?」

「不幸姫――もといアウロラのことだろ。直接会って俺の予測が正しいか確かめる。やんちゃ小僧を大人しくしてから」

「ふーん」


 本当にやる気はあるのかとフィーネが疑ってきた。


「あれは間違いなく〈特異能力(レガリア)〉だ。俺の予測が正しければの話だが、意思を持っている可能性が高い。周りの者を不幸にする、などと言う事象に干渉する類いのな。用心するには十分な理由だ」

「助けるんだね?」

「本人がそう望む限りは最善を尽くすとも」


 様子を探る度に泣かれているのは寝覚めが悪い。


「なら大丈夫だね」


 シェナが笑顔で言い切った。


「お前は人の話を聞いていたのか? 相手は事象を書き換えるような能力の持ち主かもしれないんだぞ。俺だって無事で済むかわからない」

「そんなこと言っちゃってー。でも、どんな結果になってもアタシはのる――レグルスを怒らないよ」


 シェナの奴め……。

 自分を人質として利用しようと狙っていた奴にそんな顔をしてくれるな。


 とても胸が痛む。


「わたしは怒るかも」

「え?」


 フィーネがそう言うと、シェナは驚いた。


「それで良いさ」


 許されるだけでは人は堕落してしまうからな。


 フィーネらしい意見だと俺は笑った。

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