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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第九章 世界の救世主
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『噂話』

 レグルスがシェナに城の案内をした翌日。


 〈魔界〉の変境地――ダートス地方の一角に魔族たちが集結しつつあった。


「――ボス。予想より数が集まりあしたね」


 フードで顔が見えないやけにしわがれた声の怪しげな人物が、隣で鍛え上げられた肉体を見せつけるように仁王立ちする魔族の男に笑いかけた。


「平和ボケしたヤツらの目を、オレが直々に覚まさせてやろうとしてんだ。こんぐらい集まるのは当然だ」


 厳つい顔つきなのに、眉を寄せることで威圧さを増した。


「人間が魔王になるなんてオレは断じて認めてやらん。魔王に相応しいのはこのオレだ。レグルスとかいうへなちょこは叩き潰してくれるわ、ガッハッハッハ」


 見た目に似合う豪快な笑い声が周囲に広がる。


 へなちょこに魔王は似合わない。

 彼が――剛王ダンゼルが決起した理由はレグルスを倒す。


 これは皆が知る表の理由。


 それが偽りではない。が、理由はもうひとつあるのだ。


「魔王になり、必ず呪い(・・)を解いてやるからな――」


 口にするはとある人物の名前。


 抱くは揺るがぬ覚悟。


「ですがボス。今代の魔王レグルスはかなり手強いヤツですぜ。〈魔獣バルログナ〉を倒したとの噂もあります。いくらボスと言えど無傷ではすみませんぜ」

「ぬ。オマエがそこまで評価するとは……覚えておこう」


 怪しいフードの人物を剛王は信頼していた。

 此度の反乱軍の参謀――名をメーベス・トンタイル。


 幼い頃からずっと一緒にいて育った、いわゆる幼馴染みである。

 メーベスが頭脳担当で、ダンゼルが肉体労働担当を果たす。


 顔を見せないのはメーベスが保有する〈魔眼〉への処置だ。


「忠告は致しましたが、案ずることは何もありませんよ。万が一の時はわたくしめが役目を果たします故」

「ハッ。そうはならん。まさかオレが負けると思っているのかメーベス」

「ですな。失礼、無用な心配でした」


 参謀として仕入れるべき情報は噂話まで仕入れた。


 ダンゼルの実力を疑うつもりは微塵もない。

 剛王は一度も敗北したことがないからだ。


 いじめられる自分をいつも助けてくれた親友を心からの信用している。


 しかし、それでも不安はどうしても湧いてくる。


 ――魔王レグルス・デーモンロード。


 仕入れた数々の情報から、謎多き今代の魔王は歴代の中でも随一の実力者であるとメーベスは睨んでいる。


「集まった同士たちのためにも、オレは必ず勝つ」


 意気込む親友を横目に、メーベスは2ヶ月前に自分たちのもとへ訪問してきた若者を思い出す――。




 ◆◆◆




 ダンゼルの家にひとりの青年が訪れた。


「新しい魔王を倒す、だと?」

「人間が魔王になるなんて、剛王と呼ばれる誇り高い魔族であるあなたは許すのですか?」


 アルヴァンと名乗った青年は巧みな話術でダンゼルの心を掻き立てた。


 メーベスが話を聞いた時には、彼の決意は揺るがないものになってしまっていた。

 そうなれば親友としてできるのは協力することだけだと覚悟を決めた。


「聞けば、あなたの娘さんは不幸姫と呼ば――れて恐れられているとか」

「オマエ、ここで殺されたいらしいな」


 胸ぐらを掴まれてもアルヴァンは気にせず話を続けた。


「魔王になれば救えると言っても?」

「そんな話を信じるバカじゃないんだよ」

「どちらでも構いません。――歴代の魔王の力は強大です。ならばなぜそれほどの力を持つのでしょうか? 答えは魔王の力は与えられた(・・・・・)もの(・・)だから、です」


 嘘か本当か分からない話でも、ダンゼルは耳を傾けずにはいられなかった。


 何故なら〈不幸姫〉と呼ばれる彼の娘が話題に出されたからである。


 近くにいるだけで周りを不幸にする、呪いを背負った少女こそが彼の娘。それが原因で誰も寄り付かず、寂しい思いをさせている。


 だから呪いを解く方法があるのなら何だってする。


 10数年もの間、ずっと探し続けているのだから。


「聖剣や魔剣が主を選ぶのは聞いたことがあるのでは? それと同じように、魔王と言う称号を得た者にのみ与えられる特別なものがあるのです」

「どうしてオマエがそのことを知っているんだ?」


 求め続けていても盲目にはなっていない。

 彼とて怪しい人物である相手を疑う器量は持ち合わせていたようだ。


「昔、魔王の側近だっただけのこと。あ、そうそう。気をつけてください。叶えられる願いは、得られる力はひとつのみ。やっぱり変えたいなどと途中で変更することはできませんから、何を求めるかは慎重に」

「お、おいっ、待て!」

「それでは楽しみにしていますよ――剛王ダンゼル」


 ダンゼルの制止を聞かずに、アルヴァンは最後に怪しい笑みを浮かべて煙のように消え去った。


「――くそっ!」


 何処へぶつければ良いか分からない憤りが動かした拳が机を叩き壊す。


 剛王の拳は傷ひとつなかったが震えていた。


 殴った痛みではなく、悔しさや自分の無力さに対しての怒り故であった。


 魔王になるには、現魔王から継承するか――倒すかのどちらかだ。


「オレは――」


 現魔王レグルス・デーモンロードの噂は、〈魔界〉の辺境にある彼の村にまで届いていた。


 どれも悪い噂ではなく、むしろその逆で良い噂ばかりだ。


 ダンゼルは前魔王フレズベルクの保守に走る考えが気にくわなかった。

 その点、レグルスは因縁が絶えない人間の国の中で一番大きな国に戦争を仕掛け勝利した。

 それも争いに飢えて、燻っていた〈魔族〉に戦いの場所を与えるためでもあったと言う。


 他にも他種族との交流を積極的に行い、周囲からの評価は上がる一方だ。


「はぁ……」


 考えれば考えるほど、レグルスを討つ者は悪者になる結論へと至る。


 数千年もの間、闇に包まれた〈魔界〉に新たな風が吹き始めているのは確実だ。


 そして、剛王ダンゼルは風が吹き去るのを眺める者だ。

 変わりいく時代に取り残される側だと自負していた。


 なら――と彼は言う。


「――反逆者。悪くない。オレはオレの目的を果たす。そのためにオマエを倒し、魔王になってやる」


 拳を掲げ、天に誓う。


 剛王と呼ばれるからではない。

 かといって気高き誇りでもない。


 ただひとりの親として、残されたたったひとりの家族のために彼はレグルスを倒すのだ。


 例えそれが、道化に踊らされた脇役に過ぎなかったとしても。

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