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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第九章 世界の救世主
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『予想通り』

 俺とグリムが帝国での用事を済ませ、帰るとなかなか面白い光景を見ることとなった。


 出発前は皆から避けられ、距離を置かれていたアカネの周りが賑やかになっていたのだ。


「レグルス、これはいったい……?」


 隣ではグリムが信じられないと言いたげな面持ちで驚いていた。


 俺とてこんなに早く事が進むとは驚きだ。


 何より俺の頬を緩ませたのが、アカネと一緒にフィーネも注目を浴びている事実である。


 やはり、前魔王フレンの娘だから近寄り難い印象を持たれていた。

 本人は気にしていないし、若干人見知りな部分も相まって、どうしたものかと悩ましく頭を抱える必要はなくなったようだ。


「知らぬ間に人気者ではないか」


 性別問わず集まる連中の中心にいる人気者に声をかける。


「まっ、魔王様!?」

「陛下っ!? お、おかえりなさいませ!」


 すると、声をかけたはずのフィーネには顔を背けられ、周りの者たちが突然現れた魔王に慌てるのだった。


「ただいま。いつも言っているだろう。俺を相手に固くならなくて良い。――それで、何の話をしていたのか聞かせてほしいな」

「陛下……。乙女の話に割り込むのはお行儀が悪いですよ」

「うっ、それもそうか。邪魔してすまぬな、気にせず続けたまえ」


 そう言い軽く手を振って女子会を後にした。


「陛下。ご報告が――」


 バルムが近況報告のために歩み寄ってきたが、


「うぉっと、アカネ。急に飛び付いてきたら危ないだろ」


 先に飛んできたアカネを抱き留める。


 そのままお姫様だっこをすることになった。


「相変わらず仲がよろしいようで、見ていて微笑ましいですな」

「からかうのはよしてくれバルム。報告の続きを頼む」

「了解しました。オーレリア一行は例の一件以降大人しくしており消息不明――他の国へはそう伝達済みです」


 特に珍しい光景ではないので、バルムもすぐにいつも通りの調子に戻る。


 アルヴァンたちの潜伏先を既に把握している。

 だが、他国の連中に手出しはされたくない。


 どうせ奴らのことだ。

 俺の嘘など見破っているはずだ。


 それでも何も言ってこない。


 任されたと捉えるべきか、はたまた秘密裏に介入してくる気か。


 どちらにせよ、先手を打てるのは俺だ。

 アルヴァンに確認したいこともあるし、早めに行動に出るべきか。


「手間をかけたな」

「いえ。偽の情報(・・・・)を渡すのです、それなりの考えがおありなのでしょう? 私は陛下を信じていますので、手間だとは思いません」

「感謝する。期待には応えなくてはならないな」

「――して、陛下」


 バルムの視線が俺の顔より下に向く。


「この方を私に紹介していただけませんか?」

「シェナだ。先んじてグリムに聞いているだろうに」

「ご存知でしたか」


 もちろんですと苦笑が返ってきた。


 冗談を言われるとは、バルムとも仲が良くなったのかもしれないな。


「こう見えてもかなり腕の良い情報屋だ。迂闊に話しすぎると、他国に真意が漏れかねぬぞ?」

「ちょ、ちょっと、ノルン!?」

「お戯れを。陛下が信用なさる方です。私が疑う余地がありましょうか」


 慌てふためくシェナを落ち着かせようとしたのか、バルムはシェナにも微笑みかけた。


「シェナさん、このように愉快な方ですが、今後も陛下をよろしくお願いします」

「……はい。こちらこそよろしくお願いします!」

「面白い返しをしよって。ふ、お前らしいがな」


 シェナの緊張をほぐす意味も込められたお願いだ。

 優秀な情報屋でもその気遣いは知らないだろう。




 ◆◆◆



 10分程度で城の案内は終わった。


 今は客間で休憩中だ。


「……ふぅ~」


 特性のホットココアを飲んで一息つくシェナ。


 俺の部屋でもと思ったが、これ以上緊張させる訳にもいかないとここに連れてきたのだ。


「連れ回してすまんな」

「ううん、ダイジョーブじゃないけど、ダイジョーブ!」

「どっちだよ」


 緊張は解けても疲れがたまってしまったようで、返答からそれが感じ取れた。


「仮初めに過ぎないが、皆への牽制の意味があったんだよ」

「牽制?」

「ああ。もちろん、他にもいくつか理由はあるが、一番はそれだ。俺と一緒に歩く姿を見せつけることで――手出しをするな、と言うやつだ」


 もっとも、逆効果になる連中もいるのも事実。


「俺のものだ。そういうこと?」

「簡潔に言えばな……おい、自分で訊いておいて照れるな。こっちまで恥ずかしくなるだろう」


 返答したのも束の間、そっぽを向いたシェナは耳まで赤くして照れた。


「お前に確認しなければならないことがある」

「……なに?」

「お前は魔王の許嫁になった訳だ。現在の立ち位置を鑑みると、今まで以上に命の危険に晒されると言って過言はあるまい。それでも情報屋を続けるのか?」

「えっと……」


 後回しにすればするほどシェナには良くない。


 訊き辛くとも確かめなければならない案件だ。


 これは俺やシェナの両親、そして誰よりシェナ自身のためである。


「うん、続ける。ノル……レグルスをアタシが頼るように、アタシを頼ってくれる人もいるんだ。その人たちを放って自分だけのほほんと暮らすなんてできないよ」


 決意に満ちた表情。


 自分の仕事に誇りを持っている者の良い顔だ。


 良い顔に免じて名前が混濁しているのは水に流してやろう。


 シェナの安全を本気で考慮するのならやめさせるのが良いのかもしれないが、こんな風に言われては押し退けるのは野暮だ。


 続けてほしくないのに続けてほしい。

 迷っているのはどうやら俺の方だったらしい。


「わかった。これからも頼らせてもらうよ」

「まっかせてよ」


 胸を張るシェナ。


「しかしだ、これだけは言っておく」


 一呼吸挟んでから話題を変えた。


「あの時とは状況もお互いの立場も変わった。だが、危なくなったら迷わず俺を呼べ。何処だろうと必ず駆けつける」

「……うん、ありがとう。頼りにしてる」


 そう言ってから顔を隠すようにココアに口をつけた。


「今日はゆっくり休んで、明日からの仕事に励んでくれ。ここのメイド長の料理はとてつもなく美味しいからな、食べ過ぎに注意しろよ」

「アタシは少食だから大丈夫」


 自信満々に宣言したくせに、夜ご飯を食べ過ぎてしまうのは言うまでもなかろう。


 気持ちは分からなくはないがな。


 何度か教わってはみたものの、美味しいものは作れても、やはりメイド長の味は越えられなかった。


 ――いくら魔王様でも越えさせるわけにはまいりません。


 挑戦する度にそれを言われるのが恒例となっている。

 悔しさもあるがそんな他愛ない日常のやり取りを俺は楽しみでもあるのだ。

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