『キライだよ』
〈煉獄〉のふたつ名を勇ましく名乗った奴がボロボロに負ける様を無言で傍観した。
「……」
名前負けしてるな。
篝火に変えた方が良いのではないか。
「にしてもあの炎野郎、もしかしたらかなり頑張った方になるのかもしれん。遊びと言えど、ルシファーを相手にかなり粘ったものな」
単なる口先だけの奴。
そう判断するのは性急が過ぎるか。
逆にそれが原因でルシファーを駆り立てている事実にヘルグはまだ気付いていない。
「――レグルス様。お気をつけください」
「――ユイナ!? あぁ、なるほどな理解した」
突然後ろから聞こえたユイナの声に驚きつつも、上空に感じた魔力から忠告の意味を理解した。
いつの間に背後に立たれたのか非常に気になることだが、それは後で訊くとしよう。
「――ヘルグが追い詰められるなんて。確認のために来て正解だった」
黒く短い髪の少年が、上から俺たちを見渡しながら言う。
「これ以上、大切な仲間を傷つけるのは許さない!」
ルシファーの魔法の拘束を弾き飛ばし、ヘルグを一瞬で助け出して距離を取った。
「ぐっ……すまねえ」
脇で抱えられたヘルグが少年に謝罪する。
「大丈夫だ。ヘルグは先に戻っていて」
黒髪少年がそう言うと、脇に抱えられた炎野郎が消えた。
転移魔法でお家に帰らせたのだろう。
それに、あの顔……見覚えがある。
「まさか自ら登場とは、ご苦労なことだ」
忘れるわけがない――アルヴァン・N・オーレディアだ。
大人しくしていると思っていたが、また面倒事を起こすつもりらしい。
仲間内だけで騒いでいれば良いものを、こちらまで巻き込まないでほしい。
「人間の分際であれを壊すなんて、ただの雑魚じゃないみたいだね」
口調から察するに、ルシファーも気付いたな。
アルヴァンはただの人間とは何処か異質だと言うことを。




