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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第八章 魔界の乙女たち
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『清き炎』

「――あーあ、見てらんないな、もおー」


 唐突に聞き覚えのある声が降りかかると、俺と炎野郎の間に黒い衝撃波が走った。


「ルシファー!? 何をしている、俺は邪魔をするなと言ったはずだ!」


 一度見ればまず忘れることのないピエロ染みた格好が視界に入る。


「ボクは了解した覚えがないからね。それに――何をしているか、だって? こっちの台詞だね」


 整った顔立ちの男性がこちらに振り返った。


 ピエロのような格好は嘘だったのか、赤いローブに身を包んでいた。


「……誰?」

「キミね、冗談を言ってる場合かい?」

「命令に従わなかった奴への罰だ」


 表情から察するに、理由は不明だが今のルシファーは不機嫌だ。


「はぁ……気を遣ってあげたのに、魔王がこんな薄情だったなんてガッカリだなー」


 妙にじんじんするなと手を見下ろす。


 ――ああ、そうか。


 馬鹿みたいな問答をしたせいか、手に滲んだ血を見て我に返る。


「ルシファー。襲撃者を捕縛せよ。独断で敵と密約を交わした重罪への罰だ。必ず生きて俺の前に連れてこい」


 〈アインノドゥス王国〉前国王――ドレイファスを焚き付けたのを知らないとでも思ったか。


 ふっと笑みを見せてやった。


「――イイ度胸してるよ」


 ルシファーは盛大に笑った。


「あのルシファーからの貴重な褒め言葉として受け取っておこう」


 嫌みを皮肉で返すと背中を向けると同時に、俺たちと炎野郎の間に隔てていた衝撃波が消滅する。


「やっと出てきやがったな。こそこそとしやがって、もう容赦しねえからな!」


 幻覚の中での分も含めると何度目かわからない、容赦しないぞ宣言。


 お決まりを言わなければ、あいつは行動を開始できないのかもしれないな。どうでも良いが。


「我が呼び声に応え、悪しきを浄化する清き炎よ来たれ――〈炎聖翼〉」


 赤く熱そうな炎が浄化されたかの如く白くなり、炎野郎の背中に装備された。


 あんなに炎にさらされて、よくもまああいつの服は燃えないものだ。


 特殊な加工でも付与されているのだろう。


「まずはてめえから燃やしてやるよ、ヒョロヒョロ野郎!」

「その程度の灯火で燃やせるかな」


 喧嘩を吹っ掛ける炎野郎と、それを余裕の表情で見下ろすルシファー。


 決着は試合が始まる前からついている、とはまさにこの事だ。


 実際、あの清き炎とやらが秘める潜在能力はかなりのものだ。

 使いこなせば凄まじい力となり得よう。


 あんな馬鹿には無理だと思われるが。


「踊れ踊れッ――〈清竜炎槍〉」


 清く白い炎の翼から、槍と呼ぶには小さすぎる無数の刺が放たれる。


「……ん? そういえば……」


 顎に手を添えながら改めて考えてみると、ルシファーが戦うところを見るのは初めてではないか。


「グリムも連れてくれば良かった」


 無数の炎の攻撃を掠りもせず、それら全てをものの見事に避けるか受け流すルシファーを横目に呟く。


「ダメダメ。単調な攻撃過ぎて当たらないよー」

「ちょこまかと鬱陶しい!」


 まるで子どもと戯れる大人だな。


 もちろん子どもは炎野郎だ。


 〈煉獄〉のヘルグ。

 覚えているとも、忘れるわけがない。


「だーかーらー、もっと相手の動きを予想しなきゃダメなんだってばー」

「るせぇっ! てめえなんかに指図されてたまるかよ!」


 ついに助言まで始めやがった。


「ルシファーからすれば、久しぶりの遊び相手ってところか」


 今のところ反逆の気配はなし。

 警戒は続けるつもりだが、時が来るのはいつになるのやら。


「大振りの攻撃ばかりで隙が多い、よっ」

「――がはッ!?」


 炎竜を纏った拳を突き出すもさらりと躱わされ、お返しに腹部に一撃をくらう。


「はぁーあ……」


 暗雲と青空の切れ目を見上げて軽く自己嫌悪。


 連戦で疲労が溜まっていたとはいえど、あの程度の連中に苦戦した自分にだ。


「にしてもだ」


 弄ばれるヘルグを遠い眼差しで眺める。


 ここまで圧倒されてはルシファーの力量がわからんではないか。

 〈煉獄〉なるふたつ名を名乗る以上はもう少し頑張ってもらわんと。


「ふおぉおおおお!!!」


 張り切りに満ちた雄叫びも虚しく、やはりルシファーには当たらずに海の藻屑となる。


「落ちろ――〈天輪重縛〉」

「――ぬわっ!? おわああああああ!!!」


 ルシファーが指を回すように動かすと、ヘルグの頭上に輪っかが現れ、直下の全てを落とす勢いで重力の強さが増した。


「ぐぬぬ……こっのぉ……っ!」


 地面に落とされて顔を食い込ませる炎野郎の姿は実に滑稽だった。


 必死に起き上がろうと抗う様も合わされば笑いさえ込み上げてくる。


 ルシファーは手加減している。

 その程度で済む相手だと言うことだ。


「頑張れ頑張れ」

「バカにしやがってえ!!」


 強まった重力によって項垂れた白炎の翼が勢いを増し、比例してヘルグ自身の力も強まっているようだ。


「なめるんじゃ……ねエエエエエエエエッ!!!!」


 声で自身を鼓舞し、重力を跳ねのけてついに立ち上がった。


 どうだ、としてやったりと言いたげな顔で頭上にいるルシファーを見上げるも、底には誰もいなかった。


 何処に行ったんだと辺りを見回し、ようやく見つけた時には既に遅し。


「だから言ったでしょ。隙だらけなんだって」

「なっ――」


 懐に入られてしまったのに気付き、すぐに距離を取ろうと後ろに飛び退くも徒労に終わる。


「教えてあげるよ。攻撃はね、こうやるんだ――」

「んなもん――」


 正面ばかりに意識が向けられたへルグは、背後に現れた魔力球に気付かずに触れてしまい爆発に巻き込まれた。


 直後、爆煙の周りに20個程の球体が生成され、煙の中に突っ込んで度重なる爆発を巻き起こした。


「……ば……かな……」


 爆発が止んで煙が風で飛ばされる頃には、炎野郎はボロボロの姿で地面に突っ伏していた。


「捕えろ――〈天輪縛鎖〉」


 土を掻き分けて地面から生えた鎖が身動きの取れないヘルグを捕らえる。


「ぐ、離せ……つっ」


 叫ぶだけの体力は残されていないようだ。


「ふー、大変だった」


 わざとらしく汗を拭う仕草を見せる。


 心にも思っていないことを、平気に口にできるものだ。


「これでいいかい、魔王陛下」


 振り返ってニヤリと口角を上げた。


 結局、当初の目的であるルシファーの実力の半分も知ることはできなかった。


 いや、ある程度の推測が可能にはなったか。

 ヘルグがいてもいなくてもあまり変わらない結果だが……。


 少なくとも無様に転がるあの炎野郎よりは数段強いらしい。

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