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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第八章 魔界の乙女たち
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『我を忘れて』

 伊達に単身で乗り込んできただけのことはある。


 かなりの実力者らしいな。

 これはもしかしたら本当に危なかったのかもしれない。


 目を閉じながら傍観者気分でそんなことを思う。


「……まぁ、幻覚魔法にここまで見事に嵌まるとは予想外だがな」


 引っ付く3人を起こさないように静かに呟く。


 襲撃者なりに諸々の対策はしているかと考慮した上で、わざと腕試し程度の気持ちでかけてみたものが大成功。


「(――バルム)」

「(陛下。お目覚めでしたか)」

「(強い魔力を感じれば、勝手に起きてしまうようになってしまったようでな。それより、幻覚魔法に惑わされているが、念のため警戒は続けてくれ。いつ気付かれてもおかしくないからな)」

「(御意)」


 んー、妙な胸騒ぎがする。


 いや、美少女3人に囲まれて胸の高鳴っている。

 なくはないが、それとは別に嫌な予感がするのだ。


 他の国にも同じような奴が行っているのではあるまいな?


 同盟とは良いこともあれば悪いこともある。

 無意味な争いをなくせる反面、同盟国がそれに巻き込まれれば手助けをしなければ関係が悪くなるのだ。


「傍観者のままではいかんな」


 3人の乙女たちを起こさないように気をつけながら、ベッドを抜け出した。


 無事に立ち上がると、腕や足を回したりぐねぐねと動かして睡眠中に固まった身体をほぐす。


「……んん……レグルス……?」

「すまん、起こしたか」


 目を擦りながら座るように起き上がるフィーネ。


「敵襲のようでな。相手をしてくるから、お前たちは引き続き眠っていると良い」

「わたしも……わふっ……行く」

「日頃は聞けない可愛らしい声を出すほどふらふらではないか。良いから寝ていろ」


 転移魔法を使い、城の外へと移動する。


「――陛下」

「グリムか。他国の様子はどうだ?」


 素早く駆けつけたグリムに声をかけられた。


「どうやらこの国の他、3ヵ国に襲撃者の仲間と思われる者たちが現れたようです。幸い、アインノドゥス王国の被害は最小限に抑えられているとのこと」


 合計で4人の襲撃者と言うわけだ。


 自分でも口角が上がったのを理解した。


「ふむ、予想通りだな。まぁ、ギルシアと共に〈勇者〉のふたりまでいるのだ。それくらいはしてもらわんとな」


 そこまで言ってため息をつく。


「……しかし、逆に予想通り過ぎて怪しい」


 単独で攻めるだけの技量は確かにある。が、国を落とせるほどの力はない。


 もとより俺はあいつが全力を出していないのを知っている。

 単なる言葉と動きだけの見せかけだ。


「……」

「レグルス陛下。ご命令を」


 グリムの呼び掛けにより、いつの間にか握りしめた拳から力が抜ける。


 若干の痛みと、液体が伝う感触を受け止めて家臣の要望に応えた。


「(バルム以下、その配下は引き続き周辺の警戒に専念しろ。もうじき来客が増えるだろうからな、そいつの相手を任せた。炎野郎は俺が片付ける)」


 そこまで指示を出してから一息つき、最後にこう付け加えた。


「(我が配下たちに告げる。あれは俺の獲物だ。――邪魔をすれば殺す。では、各自の奮闘を期待する)」


 グリムが何か言いたそうな顔を見せる。


「一石二鳥。記憶の中にそんな言葉があってな。ひとつの石を投げて、2羽の鳥を落とすというものだ」

「先程のように付け加えるだけで、実際に邪魔をされぬように。それと――」

「さすがは俺の教育係だ。優秀な者に教わって俺は鼻が高いぞ」


 最後まで言わせず、称賛することで誤魔化した。


 むすっとした顔をされたが、すぐにやれやれと両手を広げた。


「ずるい方です。いったい何処で覚えてきたのやら」

「それはもちろん、優秀な先生から盗んだ手練手管に決まっているではないか」

「身に覚えがありませんね」


 冗談を言い終えると、グリムは真剣な表情になった。


「――レグルス。無茶はダメだよ。あなたが傷つくと、子どもたちが悲しむから」


 真剣な、それでいて何処か悲しげな表情で告げた。


「ずるいのはどっちなのやら。怒られるのは慣れていないしな、程々にするさ」


 グリムより前に出て、暴れる炎野郎を見上げながら指をならした。


「――あ?」


 奴からすれば景色が一変したように感じたはずだ。


 シグマとの戦いでボロボロになったはずの街が、何事もなかったかのようにそこにあるのだから。


「ど、どうなってんだこりゃあ……っ!?」


 世話しなく周囲をキョロキョロと見回す阿保面の気を引くため、無造作に魔力を放出した。


 すると、すぐにこちらに気付き、馬鹿な頭で何となく状況を理解したようだ。


 表情がみるみる怒りに染まる様は、笑いを堪えるのに一苦労だ。


「てめぇ……っ、オレをからかいやがったなぁ?」


 到底声が聞こえる距離ではないが、口の動きで何を言っているかは把握できた。


「からかわれる方が悪いのだ。馬鹿めが」

「殺してやる。絶対ェ、殺してやる!!」


 おっかない発言をしながら炎を後方を排出することで加速し、真っ直ぐこちらへ突進してきた。


 あんなものが我が城――デーモンパレスに衝突すれば半壊は免れまい。


「安心したまえ。ここからの相手は俺がしてやる」

「死ィねエエエエェ――」


 断末魔のような叫びは途絶えることとなる。


 鏡を前方に現出させ、他の場所に飛ばしたのだ。


 国の内部で俺が暴れては、配下たちに見せる顔がなくなるからな。



 あの勢いで海に突っ込んだ炎野郎のもとへ〈転移(テイル)〉で飛ぶと……


「――おぼごごごっこぼっ!?」


 煙が噴水のように吹き出していた。奴の炎がどれ程の高温だったのかを思いしる。


 ついでに溺れる奴の声が耳に届けられた。


「――っと、元気は有り余っているようだ」


 優雅に見下ろしていると炎の球が飛んできた。


「なめんじゃねえ!」


 頭に血が昇っているのだろう。


 力任せの攻撃ばかりで避けるのは容易だった。


「はっはっはっ、声と勢いだけだな」


 相手を嘲笑うだけの余裕が俺にはあった。


 ……いや、違う。


 笑って、相手を見下して、自分の気持ちを誤魔化さなければ呑み込まれそうだった。


 ――殺せ……殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せえ!!!


 イーニャを死なせたこいつへの、こいつらへの怒りが溢れて止まらなかった。


 気を抜けば我を忘れてしまいそうだったのだ。

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