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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第八章 魔界の乙女たち
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『魔境』

 偶然にもフィーネが通ったとされる道を進んでいるのだが……些か過酷すぎやしないか。


 雲に届くほどの山あり、断崖絶壁の谷ありと、よくもまぁこんな道を通って俺のもとへ来てくれたものだ。


「ふぅー」


 魔族が開拓にあまり興味ないとは知っていたものの、ここまで何もしていないとは驚きだ。


「こうしてみると、魔王城近辺が異質に思えてくるな」


 蹴散らしてきた魔物も〈人間界〉にいる奴らと比べれば見た目が違えば強さも圧倒的だった。


 何も知らない人間が迷った日には、数秒で骨も残らずあの世行きだろう。


 そもそもこんな辺境まで訪れる人間がいたら、そいつは馬鹿かよほどの物好きに違いない。


「初代の魔王様が文明に興味を持ったことが始まりだと伝えられているよ」

「文明ね……。人間たちが想像している魔王の印象ってのは、いったい誰に植え付けられたのやら。全てが違うと否定はできないが、違う部分もあることを知ってほしいものだ」

「それはこれからのレグルス次第。現魔王陛下のお手並み拝見だ」


 からかうような口調で言っているが、本当にグリムの言う通りだ。


 俺がどうするかで、〈人間族〉と〈魔族〉の関係は大きく変わるのだから。

 〈人間族〉だけではない。他の種族とだって、俺の一存で関係が良くもなれば悪くもなろう。


 此度の〈人魔対戦〉ではうまくいった面とその逆が半々だ。

 物凄く万能な頭脳が欲しいものだ。


「まったく、大役を任されたものだ」


 〈魔族〉ですら近付かないとされる〈魔界の三大魔境〉のひとつ――紫煙の渓谷。


 俺とグリムは現在、その入り口に立っていた。


「本当にこんなところを通ったのかよ?」

「うん、本当に通ったよ。いやー、何度これは危ないなと思ったことやら」


 冗談なのか本気なのか掴みきれない口調でグリムは語る。


 渓谷に入ると霧が周囲に広がり、頗る視界を遮ってくれた。


「結界のようなものか」

「うん、そうだと思う。外からと中からでは干渉の加減に違いがある」


 霧は視界以外にも魔力探知も遮った。

 おかげで周囲への警戒にいつも以上に神経を使う羽目となる。


 自然現象でこんな面倒な仕組みが出来上がるとは考えにくい。

 となると……意図的に仕掛けられたものである、か。


「…………いるな」

「ひとりだけ。でもこの霧のせいで詳しい位置まではわかりにくい。気を付けてよレグルス」


 隣でグリムが苦笑しながら解説してくれた。


 散々危険な授業を受けさせたグリムが忠告するのだ。

 本当に油断は禁物と言うことだろう。


「舞え――〈黒華〉」


 漆黒の鎌を現出させ、自分を中心に全方向に意識を拡散させる。


 すると、突風が巻き起こるような音が岩や壁に反射してこだました。恐らくは跳躍による、地面を蹴った時の音だと推測。


 おかげで何処から相手がやって来るのかがわかりにくい。


「――グリム!!」


 突如魔力を感じたかと思った次の瞬間、グリムが黒い靄に呑み込まれかける。


「レグルスっ、正面だ!」

「なっくぅ!!」


 名前を呼ぶも、逆に呼び返された忠告で辛うじて初撃を受け止める。


 霧の中でも目立つふたつの赤色が俺を見つめていた。


「なるほど――お前か(・・・・)


 黒い髪を肩の上辺りで切り揃えた少女だった。


「アアアAAAAアAAAAAA!!!!」


 人の身から出たとは思えないような咆哮が響き渡る。


 俺よりも小さな体躯からは創造し難い怪力で身の丈を越える戦斧を凪ぎ払われ、後ろへと吹き飛ばされてしまう。


 飛ばされながら体勢を立て直して無事の着地を果たす。


「――ッ!」

「ふむ、これを止めますか」


 グリムが気配を消して背後から剣を振り払うも、斧少女は戦斧を軽々と回転させて背中側に回して攻撃を弾いた。


 更に弾くと同時にグリムの方へと振り向いて打ち合いを始めた。


「……ありかよ」


 加勢に入ろうとした俺の気が削がれる動きをふたりは見せつけてきた。


「貫き、凍てつけ――〈アイス・ランス〉」

「――HAAAA!」


 戦斧の追撃を避けるべく距離を取りながら、氷の槍を生成して追撃を邪魔する。


 だが、斧少女は戦斧を振り下ろして地面に叩きつけることで衝撃波を正面に飛ばし、迫りくる氷の槍を砕きグリムに追い討ちをかけた。


「駆けよ――〈ソニック〉」


 移動速度を上昇させる魔法を使い、横へ跳んですぐに反撃に移ろうと武器を構えるもそれは防御の役目を強いられる。


 まるでグリムの行動を先読みしていたが如く、斧少女は跳躍しており一回転の力を加えた一撃をお見舞いした。


「HAAAAアアアアAア!!!」

「――重い!!」


 ドスンと如何に重い一撃かを表現したのはグリムの足下であった。


 グリムの足を食い込ませ、あまつさえひび割れさえ起きているではないか。


 よくも不利な体勢であれを受け止めて腕が保ったものだと称賛する。が、すぐに首を振ってからふたりの戦いに見惚れている場合ではないと深呼吸。


「無視されるのはあまり好ましくないな」

「――ッ!?」


 雰囲気からして理性を失っているのは明らか。

 だとすれば理性ある者より扱いやすい。

 生命の本能に直接訴えかければ反応を示さずにはいられないからだ。


 魔力を無造作に解放して撒き散らすことで存在を誇示したのである。


 思惑に沿って斧少女はグリムからの離れた。


「やはりな」

「助かったよ、ありがとう」

「なぁに、遅くなってしまって悪いな。あまりにも素晴らしい動きだったもので」


 再び頼もしいグリム先生と肩を並べられた。


 と冗談を言いつつもグリムが黒い靄から無事に抜け出したのはさすがだと思った。


 運悪く視覚だったために、どうやったのかを見れなかったのは残念だ。


「よし。黒い靄に警戒しつつ大人しくさせるぞ!」

「仰せのままに!」

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