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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第二章 旅立ちの人間界
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『真面目』

 イーニャとの話が終わってから俺は一旦村に戻った。


 コジュウロウタら村人たちに状況を報告したら青ざめられたり、驚愕されたり、褒められたりと多種多様な反応をされた。


 いやいや、お前たちは投影魔法越しに状況を知っているだろうがと、言いたかったがやめた。もっとややこしくなる。


 まさに類は友を呼ぶだな。さっきのイーニャと同じではないか。


 報告が済むと一睡するべくコジュウロウタの家に行くと、フェイが食事を用意していると教えてくれてルンルン気分で食卓へ。そして俺は目を疑った。


「食べ物、なんだよな?」

「うふふ、そうよ。イーニャちゃんが愛情込めて作ったのよー」


 愛情……。見た感じこれには愛情などと言う微笑ましいものではなく、憎悪と言うおぞましいものが込められている気がするのですが!


 もはや料理と呼称するのも憚られる皿の上のそれを目にし、俺は覚悟を決めた。いや、諦めた。

 配下の思いは無下にできない。いや別に配下じゃないが、気分だ気分。


「あむっ……」


 勇気を出して一口分スプーンで掬って口へと運んだ。意識が飛んだ。



 ――次に目が覚めると、夜が明ける直前だった。太陽の光が空を照らし始めた頃合い。


 この村に来てベッドで寝るのは初めてだな。イーニャの料理もどきのおかげでなければもっと安らげたのに……。


 やはり布団は温かい。むしろ暑くないか?


 圧迫感を感じる右腕は、イーニャの枕にされていた。


「お前はどんな時でもイーニャだな」


 俺としては起きるまでこのまま腕を貸してやっても良いんだが、そうも言ってられないようだ。――壁が壊された。


 だが壁を壊した張本人は通り抜けてこず、破壊した穴の前で待っている。これは……もしや俺を待っているのか?


 感じる魔力で誰かは確かめるまでもない。


「ほんと、お前たちは似た者同士だ」


 右腕を勝手に使った代償に軽く頭を撫でて「すまんな」と小声で伝えてから、イーニャの頭の下の我が腕をそーっと抜いた。

 起きなくてホッとしたぜ。


 礼儀には忠節をもって応えなくてはなるまい。


「行ってくる」


 眠るイーニャにそう告げてから俺は部屋を出た。




 ◆◆◆




 貫通した穴の前に到着した。

 穴の向こう側には目を凝らさなくとも一人の少年の姿が見えた。騎士団の仲間たちが起きる前にここを訪れたのだ。


 見るからに壁を破壊する際に凄まじい音が発生したと思うが、俺が気にすることじゃないな。駆けつけてきたら倒せば良いし。


 かなり堅牢な造りにしておいたはずなのに、こうもあっさりと破られたらちょっと落ち込んでしまう。


 この壁はそんじょそこらの安っぽい城壁とは訳が違う。


 単純に俺の魔力を込めて、更に強化魔法、防御魔法、硬化魔法など様々な手を尽くした今できる最高傑作だった。


 そんな俺の頑張りはあれ(・・)の前では無力に等しいってわけね。


 少年の横で地面に立てられた大きなシルエット。独特な形は一度見ればそう簡単には忘れない――〈麗剣クァイムアルビオン〉だ。


「ここに来た。つまり貴様が先日の相手か?」

「おいおい、王国の騎士様は礼儀も知らんのか? まずは自分からなのるべきでは?」


 聞かずとも名前も正体も知っている。謎の暴走状態以外はな。


「そう、だったな。無礼を謝罪する。オレはアインノドゥス王国騎士団、王国の守護者の座を授かった者――マクシス・セベルツィア。改めて、貴様の名を訊かせてくれ」


 ただの退屈しのぎに言ってみただけだが、相手は真摯に受け止めたらしい。騎士らしく堅苦しいな。


「俺はノルン。ただのノルンだ。世界中を旅して絵描きをする妹の兄だ」

「絵描き……旅? ではなぜ、我々の邪魔をするんだ?」

「妹が絵を描いている。理由はそれだけだ」


 とてつもない妹贔屓な奴だと思われた方が楽だからこうした。


「貴様は己の行動を理解しているのか? これは王国に対する反抗にもなりえるぞ」

「お優しいことだ。なら問おう。お前は民が反旗を翻した時、王族と国民のどちらを守り、どちらを殺す?」

「そ、それは……」


 それまでの堂々とした態度が嘘のようにはっきりと答えられなかった。これだから真面目な奴は大変なんだ。


「俺の最優先事項は妹だ。もし、妹が“王国の終わり”を描きたいと言ったら、俺は迷わず終わらせよう」

「貴様、発言に気を付けろよ」


 杖剣に手を携え、敵意を向けてくるが気にしない。


「もし、と言っただろう。そもそも俺の妹は馬鹿でもそこまで堕ちてはいない」


 馬鹿で真面目だが、悪くはないんだよ。

 俺は口角をあげた。


「貴様にとって、妹とはそれほど大切なんだな」

「もちろんだ。お前にはないのか、命を懸けても守りたいと思える大切な何かが」

「大切な……」


 若干俯き気味になるマクシス。本気で悩んでいるようだ。それとも心当たりがあるのか……。


 だが、数秒の思案の後、かぶりを振った。


「それはオレが考えることではない。オレは命令に従うだけだ」


 逃げやがった。

 しかし、考える頭は持っているようで安心した。


「それで、王国騎士団の邪魔をした俺はどうなるんだ?」


 これが一番重要な問いだ。返答によって俺はこいつら全員を消さねばならなくなる。


「一度、オレと手合わせをしろ。返答はそのあとだ」


 騎士道か、はたまた持ち前の真面目さか。

 剣で真意を示せと言いたいのだろう。


 誘いに応えてやる義理は……あるか。道案内のイーニャの弟だったな。


「良いだろう、相手をしてやる」


 俺が答えるとマクシスは杖剣から手を離して、腰に携えていた方の剣を抜いた。


 助かる。あの剣相手だったら俺もそれ相応のもので対応しなくてはならなかった。


 安心してこれを使える。

 詠唱をすると、隠蔽魔法で隠しておいた剣――ではなく一振りの刀が姿を現した。


「それは、カタナ?」

「ああ。良い出来だったのでな、貰ったんだ」

「貴様、村の人々をどうした?」

「すぐにわかる」


 お互いに武器を構えた。


「合図はお前がやれ」


 決して考えるのが面倒だからではないぞ。俺なりの気遣いってやつだ。


 それにマクシスよ、勘違いしているぞ。


「わかっ――」

「それは自分が引き受けます」


 合図をするのはお前の後ろにいる奴だ。副官と睨んでいた男。


 気配の操作に関してはフィーネに匹敵するほどの腕前。マクシスが気付けないのは仕方ない。

 正直、マクシスより危険視すべき人物だ。


「申し遅れました、此度の部隊副官の任を授かった――トール・アルカンです。以後お見知りおきを」


 こらこら、殺気が漏れているぞ。いーや、これは隠す気がないな。

 笑顔の裏で相当怒ってやがる。


 これは……俺への怒り、ではなく止められなかった自分自身への怒りね。


「頼もうか、トールのやら」

「待てッ、トールがなぜここにいる!?」

「マクシス。始まりますよ、構えてください」


 突然現れた副官に戸惑いを隠せないマクシスに対して冷たい態度を取るトール。


 本当は自分が止めるべきだったのに、それが叶わなかった。止めてくれた俺への礼のつもりだろうな。


「……わかったよ。集中する」


 覚悟を決めたマクシスに優しい笑顔で頷くトール。まるで兄と弟だ。


 イーニャ、お前の立ち位置にはどうやら既に代わりがいるようだぞ。


「では――始め!」


 猪突猛進の如く、マクシスが穴を一蹴りの跳躍で抜けてくる。


 俺は刀を構えただけで動かなかった。やはり魔王である俺は待つのが相応しい。


 それにしても何度見ても凄まじい跳躍力だ。地面がものの見事に抉れている。


「光よ我が剣に宿れ――〈光覇閃裂衝〉」


 剣が淡い光を纏いマクシスが姿を消した。正確には目にも止まらぬ光速で斬りかかってきた。


 剣で帯びた光を放つ一閃の技。文字通り光の速さで攻撃できるため反応が難しい。おまけに斬れ味が鋭いので生半可な防御では意味がない。


 だから俺は横凪ぎ一閃の光の軌道に正面(・・)から闇をぶつけて相殺した。


 その攻防を何度か繰り返した。


「うむ、作戦は悪くない」


 相手が光に気を取られている隙をついて奇襲。


 刀で剣を受け止めながら称賛する。


「斬り裂け――〈光覇刃〉」


 光を剣に纏わせて速度を上昇させる魔法。


 防がれても退かずに次の攻撃に転ずるとは、気合いは充分にあるようだ。


 速度を増した剣を全て受け止めてやった。そこでようやくマクシスが後ろに飛び退いた。


「展開――〈光覇流剣〉」


 マクシスの周りに4本の光輝く剣が生成され、ビュンと風を切って迫ってきた。


 軽く躱わしてみたものの、どうやら追尾してくるらしく、避けても方向転換して追いかけてきた。


 ちらりとマクシスを確認すると、更に8本が展開されているではないか。


「良い練習になる」


 あえて刀で破壊するのではなく、躱わすのに徹底した。


 この程度、全然目で追える。と、マクシスの姿がまたも消えた。


「光よ、駆け抜けろ――〈光覇竜帝咆〉」


 詠唱が聞こえたのも束の間、俺の視界は光に包まれた。

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