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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第八章 魔界の乙女たち
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『魔界探索』

 のんびり待ち構えるのも性に合わないので、翌日にはバルムと話していた〈魔界〉の探索に出た。


 〈魔王〉がひとりで出歩くのは自殺行為だと咎められ、グリムが付き添うこととなった。


 それこそフィーネとアカネもついてきそうだったが、危ないからと言い聞かせて留守番を頼んだ。


「陛下……なにやらいつもより肌に艶がありますね」


 開口一番、唐突にそんなことをグリムに言われた。


 ニヤニヤした顔でだ。

 こいつ……理由を知ってて訊いていやがる確信犯だ。


 もしや……。

 ふたりがあんな奇行に走ったのは、こいつが仕向けてからではあるまいな。


「……気のせいだろ」


 初めて言われたぞ、肌に艶があるなんて。


 適当に返事をして本題に移る。


「気になる場所がある。そこに向かうぞ」

「此度は何処(いずこ)へ?」


 グリムがいつも通り落ち着いた口調で訊いてきた。


「フィーネとお前が通った道筋より少し逸れた位置になるな」

「そこに陛下が求めるなにかがあるのですね」

「バレバレか」


 これから向かう先は、異常な魔力を感じる場所だ。

 異常(・・)とは、高い魔力と言う意味ではなく、異質な魔力の方だ。


 デーモンパレス周辺の警戒の意味で〈世の盃〉を使った際に、偶然見つけたと言うわけだ。


 そこに何者かがひとりだけいることも。


「理由はよくわからんが……妙に惹きつけられるんだ。行かなくてはならない気になる。――あとな、ここには俺とお前しかいないんだぞ」

「……堅苦しいのは苦手、だったね。だけど惹きつけられるなんて、フィーネ様やアカネ様が聞いたらどう仰るやら」

「きちんと説明すれば、あいつらならわかってくれる。そもそも、俺の記憶と関係があると言う意味だしな」


 そこに行かなければならない、妙な使命感めいたものが込み上げてくるのだ。


「なら、絶対に辿り着かなくてはいけないね」


 気恥ずかしいことを笑顔で平然と言えるところが凄いよな。


「もちろんだ……ん?」


 物陰で不審な動きを見せる何者かが視界に入る。


「あれは〈ゴラウルフ〉だよ」

「知っているとも。お前は誰にいろんなことを教えたのかね?」

「優秀な生徒をもって、先生は鼻が高いです」


 ふふんと自慢げに鼻を鳴らすグリムが珍しくて思わず笑ってしまう。


「執務ばかりで忙しいだろうから、良い息抜きになったようで何よりだ」

「私もついていくと言った甲斐があったよ」


 ふたりで笑い合っていると、待ちかねたのか〈ゴラウルフ〉が数頭の仲間を引き連れて牙を剥いてきた。


「おやおや、増えてきたな」

「フィーネ様とアカネ様の癒やしの効果を確かめるのに丁度いい相手だね」

「ウウゥゥウ、ガルルルルウウア!!!」


 最初に見かけた奴が真っ先に突進してきた。


「私に提案があるのだけど、いいかな?」

「構わんぞ。何をご所望だ?」

「武器を使わず、素手で撃退しましょう」


 ニコッと笑顔をこちらに向けてくるグリムに苦笑で返す。


「魔法は使っていいのかな、グリム先生」

「身体能力強化でしたら構いません」

「了解しました」


 腕と肩を回して筋肉をほぐしてから飛びついてきた奴の顎を手のひらで下から叩きつける。


「バウンッ!?」


 情けない声を上げながら見事に吹っ飛んでいった。


 右から来た奴には蹴りを、左から来た奴には拳を脳天にぶつけて地面に落とした。


「次から次へと……」


 よほど獲物に困っていたのか、倒しても倒しても次の個体が襲いかかってくる。


 グリムの授業で、〈ゴラウルフ〉はあまり賢くないと教わった身だ。

 こうなるのはだいたい予想はできていたが、実際に直面すると面倒の一言である。


 強力な魔法を使えば一網打尽にできるが、残念ながら先生よりそれは禁じられてしまった。


 つまりは――


「地道にやるしかない――ふんっ」


 この約1週間に戦闘関連の稽古を怠っていたことへの罰なのかもしれないと感じた。

 まぁ、結果的には良いリハビリになっているのだから文句は言えまい。


 それから〈人間界〉では出くわさないような珍しい魔物や、はぐれ〈魔族〉をグリムの指導の下で蹴散らしていった。


 体を動かすのは気分転換にも繋がる。


「感謝する」

「これも私の役目だと思っているけど、素直に受け取っておこう」


 途中で出てきた魔物に関する情報も教えられ、有意義なリハビリの時間を過ごせた。


 太陽の光を雲が遮り、空気が沈む中でも笑っていられるほどに。




 山あり谷ありの道をよいしょよいしょと歩き続ける。


「ここは……」


 境界線がそこには存在し、それより先は魔物どころか生物の気配すら感じない場所が広がっていた。


「この先にいるんだね。レグルスの記憶に関係しているかもしれない人が」

「話ができる人物であるのを願うよ」


 問答無用で攻撃されては記憶について訊けないからだ。


「でも、獣も寄り付きそうにないここにずっといるなら、食事はどうしているんだろうか?」


 至極もっともな疑問をグリムが口にする。


 それで俺は言っていなかったことがあったのを思い出した。


「あー、なるほど。言い忘れていたが、ここに永遠と引き籠っている訳ではないぞ」

「え、そうなの?」

「ああ。時折〈人間界〉の方に足を運んでいるようだ」

「目的はやっぱり食事関係かな」


 首を傾げるグリムの言葉に、腕を組んで数秒の思考の後に「そうだろう」と頭を使うのを放棄した。


「これから実際に会うんだ。本人に直接確かめれば良いさ」

「言う通りだけど、実力者だった場合の対処方法は考えてあるの?」

「……もちろんだとも」


 魔力の質から察するに、正直な意見を述べると戦わざるを得ないんだよなぁ……。


 グリムには伝えていないことである。

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