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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第八章 魔界の乙女たち
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『監禁』

 身体に違和感を感じながら俺は目を覚ました。


「んん……ぁぁ……ん?」


 寝ぼけながらも異変に気付く。


 目を開けているはずなのに真っ暗だし、手足も冷たい金属のようなもので拘束されているではないか。


「…………」


 もしや俺、誘拐された?


 まさかそんなわけが。第一にデーモンパレスの警備を抜け、更には寝ていたとは言え、俺に気付かれずに連れ去ることなど……。


「――起きたのね」


 状況を理解しようと意識を周囲に向けるとの同時、耳に鈴のような綺麗な声が届けられる。


 その声には聞き覚えがあった。


「その声……フィーネかっ」


 感じ取れる魔力からフィーネに間違いない。

 隣にもうひとり……この魔力は――、


「アカネもいるな」

「ん」


 そこでようやく目隠しが外され、鎖で繋がれた自分の状態を改めて知ることとなった。


何故(なにゆえ)こんなことをするのだね?」


 ふたりが犯人だとわかり、全身から力が抜けたのは言うまでもない。


「お前、疲れてる。だからわたしたちが癒す」

「ありがたい申し出だが、癒すのに拘束は必要ないと俺は思うぞ」

「……必要」


 指摘されてフィーネとアカネは数秒見つめ合った後、拘束していないと俺が逃げるからと話した。


 いやいや、逃げるような癒しって何をする気だよ。


「先に聞かせろ。俺はどれくらい眠っていたんだ?」

「4日」

「ん」


 フィーネは口で、アカネは指で教えてくれた。


 お礼に頭を撫でようと試みるも、チャリチャリと鎖の音が部屋にこだまするだけだった。


「うぅむ……」


 鎖くらいなら引き千切って逃げ出せば良い――そう考えていたこともありました。


 魔力封じの効果があるようで、魔法を使うどころか魔力を練ることすらできない。

 つまりは単純に人間の持ち得る膂力だけでどうにかしなければならない。


 唸った原因はこれだ。


「逃さないから」

「ん!」


 張り切っているふたりを振りほどいてまで逃げる気力は湧きにくいものだ。


「ふたりとも、気持ちだけを受け取るのでは駄目なのか?」

「ダメ」「ん」


 ふたりとも同時に首を横に振る。


「早まらなくともだな、俺はお前たちが一緒に寝てくれるだけで十分癒される。だからここは穏便に済ませ――」

「レグルス、しつこい。素直に従うが、正しい」

「そうか。譲る気がないのなら、俺にだって考えがある」


 口角を上げて自信ありげに宣言する。


 そして、手足に繋がれた鎖を引き千切ろうとしたのだが……、


「…………何故だ?」

「言ったはず。抵抗しても無駄」


 原因はわからない。

 しかし確実に鎖が先程までより凄まじく丈夫になっている。


「――っておい、ちょっと待て。お前たち何をする気だ?」


 不穏な空気を感じ取り、問いかけてみるも「大丈夫、任せて」と笑顔で言うだけで、何をするかは答えなかった。




 ◆◆◆




 翌日、身体は清々しいほどに疲れが取れていた。

 フィーネとアカネの癒しが効いた証拠だ。どこであんなのを学んできたのやら……。


 もう2度とやってほしくないようなそうでないような。


 とにかく、できるだけ倒れるほどの働き詰めはやめようと心に誓った。


「ゆっくりと休めたようでなによりです」


 体をほぐすために伸びをしながら廊下を歩いていると、バルムを見かけて声をかけると微笑み返された。


「おかげでな。少々やり過ぎな気もするが……日頃の感謝や疲れている俺への労いなのだと思うと文句は言えんよ」

「かなり心配していましたから仕方がありません。今回ばかりは陛下とて、手を上げるしかないですな」


 ふたりが俺の心配をしていたのだと然り気無く伝えられ、周りが見えていなかったのだと反省する。


「近況報告を頼めるか?」

「魔界のあちこちで不穏な動きが見受けられます」

「反乱か。攻めてくるのはいつ頃になりそうだ?」

「2週間後かと」


 意外と先だな。


 2週間なら既に魔国内に潜入されているな。


 丁度良い。

 猟犬たちに餌を与えるとしよう。


「魔界のある区域で調べものがある。俺が留守の間に攻めてきたら、指揮官と数名だけ残して殲滅しろ」

「――陛下」

「皆まで言わなくて良い。魔族以外の奴がいた場合は捕らえ、各国へ送っておけ。だが、指揮官に関連する場合は……」

「かしこまりました」


 〈魔王〉への反逆はれっきとした大罪となる。だとしても、他の種族を〈魔族〉内の権力争いに巻き込むのは悪いだろう。


 外交のためにも生かしておくのが得策だと判断した。


「そう言えば、アインノドゥス王国の様子はどうだ? 知らぬ間にルシファーがデシエマターらを殺しやがったおかげで周辺諸国からの潜入が多いとか聞いたぞ」


 ドレイアス直轄の暗殺部隊――デシエマター。

 イーニャが所属していた、王国の闇の部分だ。


 それらを一手に引き受けていた連中を、戦争のいざこざに紛れてルシファーが全滅させたと聞いた時は驚いたものだ。


 死体を確認したが、まさに残忍な殺し方そのものだった。


「ロアンと共に、私の配下も向かわせたので早めに解決するかと」

「ロアンだけなら王都が血の海だからな」

「陛下。彼はまだ幼い一面もありますが、この国を担うレグルス陛下に仕える〈七ノ忠臣(ヘタイロイ)〉の一員です。もう少し信用なされてもよろしいのではありませんか?」


 バルムにとっては孫のような存在なのだろう。


 実際、ロアンに戦い方を教えたのもバルムである。


 と言ってもだ。長い年月を魔王に仕える時間に費やしてきた立場故に、〈漆黒の剣聖〉に稽古をつけてもらった者は数えきれない。


 俺もそのひとりだしな。


「……?」


 思わず首を傾げる。


 そうなると、俺も孫や子の類いに含まれるのだろうか。


「どうされました?」

「いーや、何でもない」


 今度は首を振って、ふと歩みを止めた。


 丁度城下街が見える場所を通りかかったからだ。


「――変わらないな」


 俺に次いで隣を歩いていたバルムも足を止め、同じように街を眺めた。


 何故か遠い目をしていたのをはっきりと覚えている。

 まるで、昔のことを思い出すかのような眼差しだった。


「人間であろうと、獣人であろうと、たとえ争い好きの魔族であろうと……こんなに温かい街を作れるんだ。昨日誰かを殺めた者でもここに帰ればそれぞれの居場所があり、その生を過ごしている。満足か否かは別としてだ」


 ふっ、と苦笑をこぼす。


 あまりにもいつもと違うバルムだったから、影響されたのかもしれない。


 誰かに話す必要があるかわからない内容を、場の雰囲気に任せて吐露したに過ぎないものだ。


 程よい相づちを打って、聞き手になってくれたバルムには感謝する。


「――あ、忘れていた」


 ものの数分だが、溜まっていたものを吐き出せて満足したことにより忘却の彼方に去ったはずの事柄を思い出す。


「アインノドゥスより渡された五老公だが、処分はシグマに一任する。もし助力を求めた場合は応えてやってくれ」

「適任ですな。陛下の仰せのままに」

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