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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第八章 魔界の乙女たち
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『条約』

 アルヴァンたちイレギュラーの介入もあり、魔族側は甚大なる損害を得たとして退くことにした。


 これ以上争っても無駄な犠牲が増えるだけなのはわかりきっている。


 まぁ、文句を言う奴は確かにいたとも。


「オレサマはこのまま人間と戦うんだ!」

「――ほお、俺の命令を無視するとは良い度胸だ。特別にレグルス・デーモンロードが直々に指導(相手)してやる」


 その者たちを黙らせて〈魔界〉へと帰らせるのに時間を要した。

 何か対策を練らねば、勝手に単独で攻めいる可能性があるとグリムにも指摘された。俺も同感である。


 とりあえず、互いに回復するまで不可侵の条約を結ぶことで人間との戦争――人魔対戦は終わりを告げた。


 戦争中に堕天使が介入するのも考慮していたが、杞憂に終わってしまった。


「引き受けたのは妥当な判断だ」


 戦争終結から3日。

 現在、俺は〈アインノドゥス王国〉の城の応接間にて応対を受けていた。

 今後のことを新たな国王と話し合うためだ。


 護衛兼付き添いとして、グリムとアカネに同行してもらっている。社会勉強のためにネイレンも一緒だ。


「受ける他あるまい。そう何度も攻められては本当に滅んでしまう」


 前国王――ドレイアス・ウィル・ヴァンダグリーフ・アインノドゥスが亡くなった後、国の混乱を避けるために次の国王が選ばれたのが〈隻眼の剣聖〉――ギルシア・S・アイオン。


「信じられない。顔に書いてあるぞ」

「死者を蘇らせる――それだけでも現実離れだ。重ねて、犠牲になったのは国王を含めた数人だけだなど、到底信じられることではない」

「同感だ。――時間魔法(・・・・)、しかもあんな広範囲なのは俺とて見たことも聞いたこともない」


 ギルシアの言葉に頷きで返した。


 今回の〈人魔対戦〉と呼ばれる戦争での犠牲者は、ギルシアの言うように数えられる人数だ。

 それもこれも全て――時間が巻き戻った結果である。


 ネメシスが展開させた魔法陣が発動して数秒後、崩壊した王都は元通りになっていた。


 目の前に広がる光景を目の当たりにして、理解するのには時間を要したとも。


 火、風、水、地、光、闇。


 そのどれに属するのか不明とされ、行使できる人物も少ない影響で詳しい情報も比例して数がない。


 その中でわかったことが、時間と言う普遍的なものへの干渉による反動が存在するらしい。

 王国の領土全域に広がった戦場全てを覆う範囲ともなれば、反動が凄まじい規模になるのは想像に難くない。


 なのにだ。確認できたのは術者の消失くらいときた。


 〈特異能力(レガリア)〉の可能性も考慮すべきか。


「貴公が言うのだ、実際に前例がない件なのだろう」

「俺から訊くのも何だが、何故そこまで魔王を信用できるのだ?」


 一瞬だけ驚いた顔をして、ティーカップとはまた違う形状の和風茶器とやらを置いた。


「魔王だからではない、貴公だからだ」

「自分を殺した奴を……まぁ良い。理解はできんが、これ以上は口を慎むとしよう。友好な関係を築けるのならそれで良い」

「しかしだ、こちらは敗戦国。隷属を覚悟していたが、あの条件での同盟で良いのか?」

「十分だ。死刑囚なら問題視されにくい」


 そうだ。

 〈アインノドゥス王国〉には我が魔国と同盟を結んでもらうことを持ちかけたのだ。


 一定の条件を踏まえた上でだがな。


 死刑が決まった囚人を譲渡するのがそのひとつ。


 コロシアムにて〈魔族〉連中と戦う催しに参加させる。一種の娯楽企画の要員として利用する。

 確実に死ぬのが前提だ。


 選定は俺とギルシアが直接行う。


 命の危機に発現する確率が高いとされる〈特異能力(レガリア)〉の研究も兼ねている。


 もちろん成人になっている者のみだ。子どもに殺し合いをさせるほど落ちぶれてはいないからな。


「力で屈服させる簡単故に、侵略や隷属を強いる場合が多い。その分、反乱分子が生まれるのも確率も同様に高くなる。なるべく面倒ごとは避けたい身でな」


 此度の戦争の犠牲者は、少ないだけでいないのとは違う。


 狙い通り〈魔族〉本能による衝動を発散は成功した。


 長年溜まっていた鬱憤を晴らさせる強行手段を選んだしわ寄せは後から必ずやって来ると理解しながら、今は一時の安寧を噛み締めて次を考える。


 国の長は民を一番に考えねばならない。


 国あっての民――否。


 民あっての国なのだ。


 犠牲になった者たちを思うなら、より良い未来へと歩むことこそ弔いになろう。


「お前こそ、国の大事な貴族の代表である五老公を渡して良かったのか?」

「……」


 ばつが悪そうに視線を落とした。


 こいつの立場を考慮すれば当然の反応だった。

 時間が巻き戻りはしたが、ネメシスの計らいなのか国民の記憶は保持されていた。


 つまり、前国王ドレイアスが民を犠牲にしてまで勝利を得ようとした事実が国中に知れ渡っていた。

 大衆の怒りの矛先である国王が亡き今、それは地位ある者に向けられる。


 暴動が起きてもおかしくないほどに。


 そういった国民の不安を受け止め、たった2日で国の情勢を安定させたギルシアには称賛を送りたい。


 ……が、この剣聖が気にしているのは奴らが行ってきた所業の方だ。


「当方は気付いていた。気付いていながら黙認したのだ。国を思ってのことだと盲目に信じて、蛮行を見過ごした罪は一生をかけても償いきれない」


 掴む和風茶器にピキッとひびが入る。


「此度の戦がなければ、死ぬまで見て見ぬふりを貫いていただろう……」


 ギルシアはドレイアスの過去を知っている数少ない人物だった。


 国の未来を憂いていた善き国王が、如何にして堕落していったのかを知っているのだ。

 それ故に蛮行だと理解しながらも、止めずに見逃すことを選んだ。


 真面目なこいつのことだ。かなりの葛藤があったのは容易に想像できる。


「人とは得てして、心の拠り所たる何かを信じたがる生き物だ。お前だけが悩み、苦しみ、決断しているのではない。それは覚えておけ」

「……感謝する」

「慰めではない。苦言を呈しただけだ。王が民の前で不安を見せては余計な心配をかける。まして、お前のように慕われていては尚更だ」


 まるで長年仕えてきた配下のようにだ。


 現状では国民にとって必要な、単なる統率者として求められているに過ぎない。が、いずれ彼らはギルシアの人と成りを知り、真の意味で王であると受け入れる。


 俺が何もしなくてもこの国は自分たちだけで立ち直る。


 そして、以前よりも良い国になるだろう。

 国の民から慕われるギルシアが国王に選ばれたのだから。


 それにあの爺さん(・・・・・)が支えるなら文句を言えはしまい。

 ギルシアの口調が少しだけ変化したのも恐らくは……。

 ちらりと扉のもとで姿勢正しく佇む執事服の老人に視線を送った。


 見守る立場から、支える側に変えることにしたようだ。



 互いの茶器の中身がなくなった頃。


「――よし、一通り話し終えたな」


 俺は椅子から立ち上がって身体を伸ばす。


「魔王レグルス」


 名を呼び、片手を差し出してきた。


 ふっと笑ってから手を出して握り返した。


「アインノドゥス王国はここに、魔国グランベルディアと同盟を結ぶことをここに宣言する。これからよろしく頼む」

「こちらこそだ、ギルシア国王」


 執事服の老人と俺の後ろに控えるグリムが最初に拍手をし、アカネとネイレン、その他の同室していた者たちも倣った。

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