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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『共に』

 撒き散らした光を根こそぎ呑み込んで放たれた黒き咆哮。


 雲を薙ぎ払い、空の彼方へと飛んでいったそれは、見た者に一目で理解に至らしめた。


「あれが直撃したら国など一瞬で消滅だ」


 突き出した手をおもむろにこちらに向けたかと思いきや、同じものが放たれる。


「来い――」


 鏡を現出させて反射させようとしたのだが、


「〈転移(テイル)〉」


 パリンッと割れる直前に転移魔法で難を逃れた。


 鏡が耐えられる許容以上の魔力放出だったらしい。


 俺たちを炙り出すために、所構わず黒き咆哮を次々と放って周囲を更地へと変える。


「ふたりとも、俺を信じられるか?」


 まだ身体には自我を失った時の影響が残っている。

 ひとりで突っ込めば程なく塵も残らず消滅する可能性が大きい。


 だからリュウヤとカグラに問いかけた。


 〈魔王〉を信じられるのか、と。


「今さらなに言ってんだよ。ノルンは魔王になってもノルンだったし、なんか色々と難しい考えがあるってのもカグラから聞いたから、俺は全然信じるぜ」


 相変わらずの屈託のない笑顔で言ってのけた。


「珍しくリュウヤに同意ね。理由はたくさんあるけど、やっぱりノルンと戦うのは嫌だもん。大切な仲間だからね」


 リュウヤと同じ笑顔を見せてくれる。


 まったく、お前たちは……。


「……馬鹿だな。馬鹿だが、それがありがたい。――作戦は簡単だ。リュウヤは縦横無尽に動いて、隙を突いて強力な一撃を狙え」

「じゅうおう……ようは動き回って必殺の一撃をかませばいいんだな」


 ガッツポーズで独自の解釈をする。

 この際はそれで構わない。


「ああ、それで良い。カグラは引き続き俺とリュウヤを援護を頼むが、先程もよりも近距離でやってもらう。防御は俺に任せて攻撃に専念すれば良い」

「消えるのは嫌だから、ちゃんと守ってよね」

「必ず守る。失うのはもうお断りだ」


 そうして俺から立ち上がり、破壊の限りを尽くす金髪少年を見据えた。


「でさ、気になってたんだけど、あの子の名前ってなんて言うんだ?」

「知らん。そもそも名前があるのかどうかも怪しい」

「――じゃあ、ドランで」

「……まぁ、好きにしろ」


 こうして金髪少年――もといドランはカグラの思い付きで名付けが済んだ。


 女子はそういうのが好きだと、何故かグリムが授業中に密かに教えられたな。

 他にもいくつか教わったが、どんな真意があっ――


「んじゃ、行っくぜぇ!!」

「……集中せねばな」


 魔力を前面に展開し、障壁代わりに受けさせて突進していくリュウヤに思考を中断される。


「うおおおおおおおおお!!!!」

「猪突猛進、ここに極まれり、だな」


 ドランの黒い閃光を受けても関係なしにと駆け抜けていく様は、さすがとしか言いようがない。


「はっ、せぇいああ!!」


 接近すれば魔法による迎撃は難しい。


 ドランは黒い剣を作り出してリュウヤの剣を防いだ。


「これが俺の――〈勇聖剣〉だあ!!」


 が、突進の勢いを乗せた〈勇聖剣(必殺技)〉は防ぎきれず、横腹から肩にかけて傷をその身に刻んだ。


「妙に脆すぎる」


 違和感の正体はすぐに明らかとなる。


 斬られたドランが球体へと再び姿を変え、白から濁るようにして黒く偏食していった。


 そして、自身を中心に4方向と上下に魔法陣を展開した。


 ご丁寧に魔法陣を破壊知されないように結界で覆ってだ。


 リュウヤに倒されることを前提に発動するように仕掛けていた、広域型殲滅魔法だな。


 至極単純な魔法だ。あの球体が完成すれば大爆発を起こす。


「あれが発動すれば、大陸が吹き飛ぶぞ」

「あんたの言うとおり……あれはやべえ」


 全てを呑み込まんとする勢いで周囲の魔力を吸収し、収束させている。

 結界の強度は召喚されてから俺が見てきた中で最も強固だった。


 魔法でも、物理的にも破壊するのは厄介だ。その上であの中の魔法を止めなくてはならない。


 単純に考えて、あれが無差別に解き放たれたら完全に王都は消滅し、周辺の都市や街にも衝撃による被害が出るだろう。最小限だとしてもだ。


 最悪の場合は地面が割れて、大陸が分裂する可能性だってある。


 何としても、止める手立てを探るのだ。


 リュウヤの魔力は、先程の必殺技でほとんど使いきって残り少ない。


「万事休す、か……」


 リュウヤが呟く。

 そんな難しい言葉を使えるようになったのだなと少し感心した。


 苦労して敵を倒したと思えば、次から次へと難題を押し付けてきやがる。


 優雅に旅をしていた頃が懐かしく思えた。


「……」


 呑み込む、と言うより、あれは食らっているの方が相応しい。


 その規模に馬鹿は本能的に見抜き、肩を落としてしまったのだろう。

 しっかりと収束する魔力量を見れるカグラに至っては、もはやその瞳に希望を宿さずに。


 最後の悪あがきにしては厄介極まりないものだった。


「――笑わせるな」

「……え?」


 だから言ってやった。


 心から言いたいことを、言いたいままに。


「こんなことで滅ぼされてたまるかよ。イーニャが紡いだ希望を、失わせるものか」


 我ながら何処にそんな気力が残っていたのか訊きたくなった。


 広域殲滅型だか知らんが、俺は必ず約束を果たす。


 まだ――終わりじゃない。


 終わらせてなるものか!

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