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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『背中を預ける』

 改めて考えてみると、〈魔王〉と名乗ってから背中を預けるのは初めてになる。


 〈勇者〉と〈魔王〉が一緒に戦うなんておかしな話だ。


 まぁ、旅をしている間、何度も繰り返してきたがな。


「――なぁ、リュウヤ」


 ふとした疑問が思い浮かんだ。


「っんだよ!」


 戦闘中に邪魔をするなと思い切り顔に出しながらも返事はする。


「空を飛べるか?」

「……は?」

「だから、飛翔魔法は使えるのかと訊いている」


 馬鹿丸出しの顔で俺の方を見て硬直し、隙だらけのリュウヤに飛んできた黒い球を、手から魔力を放って消し飛ばす。


「べ、別にだな、ととと、飛べなくても勇者(この俺)がなんとかしてやるよ」

「だよなぁ……」


 頼りない返事にため息を漏らす。


「〈飛翔(レブト)〉」

「あ、ずりーぞ自分だけ」


 俺が魔法で浮遊するなり、即座に文句を言ってきた。


 リュウヤにかけるのも良いが、飛ぶのに慣れていない奴に下手に飛翔魔法を施しても逆効果になりかねない。


 代わりになるもの……あるではないか。


「〈旋駆(セクト)〉」

「お、おお!」


 リュウヤの足下に魔法陣が展開し、対象者に効果を付与して消滅する。


「お前にはこっちがお似合いだ」

「全然飛べないぞ」

「飛ぶのではない。走るんだ」

「走る……もしかして、空中をか!?」

「……」


 面倒になってきたので説明を途中で省き、一足先に白ドレイアスに飛んだ。


「こっんの、また無視しやがって。見てろ、すぐに追い付いてやる」


 持ち前の馬鹿正直さで、あいつの世界ではあり得ない出来事、空中を駆けるのに難なく適応した。


 適応力と言うか、順応する能力は高いよな。


「ホロビヲ……マゾクニ、ホロビヲ」


 不味いな。

 言葉を話せる知能を手に入れやがった。


 これは急がないと、戦略やら戦術やらを思考するまでに至るぞ。


「来い――〈黒旋〉」


 体の半分ほどの大きさの手裏剣を取り出し、黒い閃光やら球やらを打ち消しながら数を増やしていく。


 手から離れても自由自在に動き、なおかつ数を増していく手裏剣を脅威対象と認識したらしい。

 魔法攻撃の属性を闇以外も駆使してきやがった。


「舞え――〈黒影旋風(クロカゼ)〉」


 10を越える数の手裏剣を飛ばす。

 それらは白ドレイアスの前後左右の様々な方向から切り裂かんと迫る。


 魔法による迎撃も効果はあまり見込めず、回転する手裏剣は進行を邪魔するものを悉く切り裂いて突き進む。


「うおぉ、すげぇ……。てか、俺いらなくね?」


 手裏剣はいくつか落とされたが、カグラによる援護もあったおかげで、6枚が白ドレイアスにたどり着き、障壁を展開させることに成功した。


 障壁を削り取るように回転をやめない手裏剣に、白ドレイアスは苛立ちの表情を浮かべていた。


 暇を持て余しているリュウヤに仕事を与えよう。


「今だ、行け」

「へ、俺?」


 自分を指差して、俺がやるの、と訊いてくる馬鹿。


「勇者は俺ではない、お前だ――リュウヤ」


 背中を押すように叩いた。


 あの障壁を破壊できるほどの魔法を行使すれば、いよいよ蘇生魔法が使えなくなる。


「――ああ、やってやるぜ」


 親指を立てた拳を突き出してきた。

 もといた世界の意気込みか何かだろうか。また訊いてみるとしよう。


 剣を構えて文字通り空中を駆け抜ける。


 それに気付いた白ドレイアスが魔法を発動させるが、俺とカグラが阻止する。


「俺に力を――〈竜覇・閃裂斬〉!」


 強靭な竜の鱗すら斬らんとする一振りが白ドレイアスを守る障壁を破壊する。


 驚愕に染まるその表情は、なかなか不思議な印象を抱かせた。


 生物が持つべき意思、心など持たぬはずの地脈から溢れ落ちた残骸が、まるで人のように感情を表したのだ。


「そしてっ、これで終わりだ――〈勇聖剣〉!!」


 振り下ろした剣を、力の加わる向きを持ち手ごと変えて見せ、思い切り振り上げて閃光の斬撃を放つ。


「ホロビ……マゾク……ヲ……ホロ――」


 最後まで魔族を憎む心持ちのまま、白ドレイアスは〈勇聖剣〉によって核を含めて消滅した。


 障壁が破壊した時、追撃をしようと魔法陣を手元に展開していたのはリュウヤには話さないでおこう。


 まさかあの体勢から自分で追撃をするとは思っていなかった。


 仲間としては喜ばしいが、魔王としては脅威だと感じざるを得ない。


「うっしゃー! 俺たちの勝利!」

「喜ぶには早い。まだ5体残っているぞ」


 両手を上げて勝ちどきを上げるリュウヤの首を、残りの白ドレイアスの方にぐいっと向けた。


「マジかよ」

「要領は今ので理解しただろ。3体は俺がやるから、残りの2体を頼んだ」


 1体が倒されたことで城の中から出てきやがった。

 隠蔽魔法を施されていたせいで、見抜くのに時間がかかってしまった。


 先程のは斥候だったのだろう。


 それがやられたから、残る戦力を総動員とはご苦労なことだ。


「もう増えないよな?」

「案ずるな。今度こそ終わりだ」

「じゃあ、本気で行くぜ――〈解放(ブレイヴ)〉」


 瞳の色も黄色く変化し、全身に光のオーラを纏い、魔力を周囲から取り込んで――いや違うな。これは分けてもらっているのが正しい。


 大地や大気などの自然より魔力を分け与えられるなど、世界から祝福されているとはまさにこの事だ。


「聞いていたな。お前もリュウヤの援護に専念しろ」


 返事はないが、カグラならこちらの声を聞こえるようにしているに違いない。


 その証拠にリュウヤが相手する白ドレイアスに攻撃が集中した。


「――行かせん。お前たちにも仲間意識とやらがあるのか?」


 リュウヤのもとに向かおうとした残り3体の白ドレイアスを結界に俺ごと隔離する。


「魔力の塊だと認識していたが、どうやら改めなければならないな」


 魔力に覆われた中身が存在している。


 もともと用意されていた寄り代か。


「――〈モード・デストロイ〉」


 隔離した3体の白ドレイアスが同時に同じ単語を発する。


 途端、白く発光し、リュウヤ側を含めた全ての白ドレイアスがひとつに纏まった。


「若返りが趣味なのか?」


 ひとつになった光の塊は俺と王都の結界を貫いて上空へと昇る。


 一定の高さまで上昇すると、粘土のようにぐねぐねと蠢き、やがてひとりの少年の姿へと形を変えた。

 金色の髪を肩まで伸ばした美少年だった。


 指を鳴らして、両方の結界を破壊し、リュウヤたちと合流する。


「増えるどころか……減ったな」


 合流早々リュウヤが呟く。


「お前たちの世界の言葉なら、合体(・・)と言うのだろう」


 と、俺たちが話している間に少年は両手を前に突き出し、その所作を終えた途端に目映い光が視界を支配した。

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