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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『魔王の逆鱗』

 イーニャの自爆によって、王都は半壊状態だった。


 レグルスと国民の死体があるとされる城は、直前に魔法障壁が展開したことで難を逃れた。


 自爆する前に、最後の仕上げだとイーニャが発動したのだ。


 明らかに先程までとは空気が、纏う雰囲気が変わった魔王レグルス。

 黒いオーラのようなものが彼の身体の周りで陽炎の如く揺れ動いている。


 変化に気付いていながらも、どうせ見た目だけだろと高を括り、余裕で殺してやるよと風魔法を発動させる〈烈風〉――ラストル。


 しかし、彼以外の〈四聖〉は自分たちが対峙する相手の力の底知れないものをしっかりと感じ取っていた。


「やべーな、ありゃあ。でもよ、おれら4人でならいけるっしょ」

「そ、そーね。〈四聖〉が魔王なんかに負けたとあっちゃ、アルヴァンに笑われるもんね」

「ふたりが言うなら協力するよ」


 アルヴァンは既に撤退している。〈四聖〉は彼に選ばれた(救われた)元孤児や元奴隷。


 それ故に絶対の忠誠を誓っている。


 ――死を恐れないものこそ、戦場では最も脅威となり得る。


 後に〈魔王〉が評価を改めるきっかけとなる。


「あれと同じように粉々に砕け散れ――〈風陣爆裂衝〉」


 具現化した風が塊となってレグルス(ノルン)に襲いかかり、衝突と同時に次々と爆発を起こした。


「――邪魔」

「ひっ」


 爆音と振動で瓦礫を崩れさせる勢いのそれを、片手で振り払い、一瞬にしてラストルの眼前へと迫る。


「速すぎ!?」


 〈煉獄〉――ヘルグが眉を歪ませた時には、避ける余裕など何処にもあらず、ラストルは振り上げられた闇の爪によって体の前面を切り裂かれていた。


「――ああああっ、痛いぃぃぃいいいい!!!!」


 負けず劣らずの、持ち前の速さで背後に移動した〈轟雷〉――ミカゲは、事前に雷を手に宿してあとは放つだけだった。


「――え? ぐふっ……」


 いつの間にか刀が腹部を貫いており、横へと凪ぎ払われる。


 裂けた腹から血が吹き出し、ミカゲはその場に倒れた。


「ミカゲ! てめえっ、よくも――」


 ヘルグはミカゲがやられたことに激昂して突進するも、吹き飛ばされてきたラストルをぶつけられて阻止される。


 ――しめた。


 〈瀑布〉――アズサはそう思った。


 レグルス(ノルン)の足下の地面から水が噴き出して、彼を包み込む。


 〈水流の牢獄(アクエイトプリズン)〉――水の球体の中に対象を閉じこめて窒息させる魔法。

 この中では魔力は練り込めず、魔法の発動や呼吸すらままならない。加えて泳いで出ようにも中心に水圧がかかっているため、生半可な力では出られない優れものである。


「あたしの勝ち。いやー、よく頑張ったほう……あれ?」


 水球に歩み寄りながら、強者の余裕を見せるアズサは途中で違和感を抱く。


 水球の中で息ができずに苦しんでいるはずのレグルス(ノルン)が、まるでごみを見下すような目でアズサを見下ろしているのだ。


 幼い頃、奴隷だった時代に身につけた直感が少女に警告する。――こいつはやばい。


「ぁ……ぁぁ……そんなはずない。あたしは強くなった、強くなったんだ!」


 水中であろうと、関係なしに対象を貫く水の槍――〈水蓮槍(アクエアッド)〉を水球の周りに無数に造り出した。


「いっけえええ!!」


 アズサの掛け声によって、水の槍はレグルス(ノルン)を貫いた。


 そう、たしかに貫いたのだ。水球が赤色に染まっていく様を、少女は見て喜んだ。


 仲間たちにあたしたちが勝ったのだと伝えるために周囲を見渡して、


「――え……どうして?」


 そこには――誰もいなかった。


 レグルス(ノルン)に腹部を切り裂かれて倒れたミカゲも、吹き飛ばされたラストルも、そんな飛ばされた彼と衝突したヘルグも。


 景色は変わっていないのに、人だけが忽然と姿を消していた。


 まるで、世界に存在するのがアズサだけだと宣言するように。


「いや、いやいやっ、ウソだよ、こんなのはウソだ! ミカゲ! ヘルグっ、ラストルっ……みんな、みんなどこに行ったの、ねえ!!」


 目が見えないものが、周囲に形ある手がかりを探すように、アズサは両手で空中を掻く。


「なにしてやがんだ、アズサ! 返事をしやがれ! ちっ――てめえっ、アズサになにしやがった!?」


 現実とは異なる、幻術に支配されて喜怒哀楽が激しいアズサ。異変を察したヘルグが、少女の目元を右手で覆うレグルス(ノルン)に叫ぶ。


 残ったのは〈四聖〉の中で特にうるさく、暑苦しい〈煉獄〉ヘルグ。


 飛ばされてきたラストルを地面に寝かせて立ち上がる。


「これがてめえの本気ってわけか。仲間が死んでぶちギレたってとこだな。けどよ、おれだっててめえを許さねえ。ぜってえ殺す。その澄まし顔を泣きっ面にしてやるよ!」


 人差し指をレグルス(ノルン)に突きつけて、返り血に汚れた顔は少しも反応せず無表情のまま。


 ただ、イーニャが言った「大丈夫だよ」――その言葉を現実にするために動き、目の前の原因を排除する自動人形。


「おれの全力で燃やし尽くせ!!」


 竜巻の如く渦巻く魔力が拳に集約し、それらが白き炎へと昇華させる。


「――〈聖炎攻竜拳〉!!」


 今までで一番速い跳躍をして見せ、レグルス(ノルン)と肉薄する距離まで詰め寄った――が、


「――ごぼっ」


 ジュウ、という音と共に聖なる炎は消え去る。


 ヘルグは何故か〈水流の牢獄(アクエイトプリズン)〉の中にいた。


 水属性の適性がないレグルス(ノルン)は操るのは可能だが、発動はできない。ならどうやったのか。答えは――遅延発動。


 幻術に支配されたアズサが使用したそれの発動を遅らせて、ヘルグが突っ込んできたタイミングで使用したのだ。


 息ができない苦しさ故に喉元に手を添えて、彼は倒れたミカゲ、ラストル、放心状態のアズサと順番に視線を送り、最後になおも無表情のレグルス(魔王)に向けた。


ごぼ(ちく)……ごぶぉ(しょぉ)…………」


 ヘルグが溺れ死ぬその瞬間までの数分間を、レグルス(ノルン)は無言で見つめていた。


 そして、その死を確認してから他の生き残っている〈四聖〉の心臓を自らの手で貫いて殺した。


 4人目を殺した時点で、同時進行で展開していた、地脈抑制の魔法陣も上空で完成した。

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