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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『逃がすか』

 長を失えば組織は自然と崩壊する。


「いつまで眠っていやがる。ギルシア、お前は王の死に混乱するであろう人間たちの統率を命令する」


 既に目覚めているのに、気絶している振りをする隻眼野郎に命令を下す。


 光の加護とやらがギルシアにもたらした奇跡だ。


 喜べよ隻眼野郎。

 世界が死ぬには早いと救いの手を差し伸べたのだぞ。


「魔王なぞに命令される筋合いは――」

「やかましい! 俺は地脈に集中する。言い訳してないで、さっさとバルムと共に両軍団の統率をしやがれ!!」

「当方は……」


 まだ渋るか。


 国王を守れなかった負い目とか色々感じているのだろうが、正直に言って余裕がない。


「ドレイアスが守ってきた()を、今度はお前が守るんだ。王都の者たちは俺が出来る限り蘇らせる」

「――っ!」

「バルムには既に詳細を伝えてある。合流し、即座に行動に移せ」

「……了解した」


 雷の如く素早い動きで王都を後にした。


「――へぇ、さすがは魔王陛下」


 邪魔をしようとした魔法を打ち消すと、称賛の声が飛んできた。


「お前に褒められても嬉しくない」

「素直じゃないな」

「これ以上邪魔立てするなら排除しなければならんが?」


 殺気には動じないようだ。


 距離があるせいとも考えられる。


「あなたは、オレに協力するべきだ」

「お前に協力だと……笑わせるな。世界を滅ぼそうとしている奴に手を貸す理由はない」


 おや、表情が変わった。


 律儀に殺気まで飛ばしてきやがる。


 どうやら目的を本当に言い当ててしまったらしい。


「なーんだ、バレてるんだ。やっぱり、あなたは厄介な人物だ」


 それは俺の台詞でもあるんだよな。


 ()が黄色、黒、赤の3色同時に存在している。

 こんな奴、初めてだぞ。


 加えて先程から感じる妙な違和感……。


 そして、この胸騒ぎは何だ?


「――決めた。魔王レグルス、あなたにはここで退場してもらおう」

「ほお? 面白い戯言を言えるものだ」


 〈魔界〉との繋がりが絶たれた。

 だが、あちらにはフレンとフィーネがいるから問題はないな。


 イーニャとアカネも、グリムが一緒だから心配はいるまい。


 問題はシグマや〈七ノ忠臣(ヘタイロイ)〉の連中だ。

 バルムとギルシアの健闘を祈る他ないってわけだ。

 後手に回るとはまさにこの事だな。


 〈魔界〉との繋がりが絶たれた今、この忌まわしい結界のせいで外の様子が確認できない。


「ただの道化でいれば良いものを」

「あなたがドレイアス(あいつ)を殺さなければ、まだ出てくる必要はなかった」

「なるほど、俺のせいだと言いたいらしい」


 底知れない魔力。

 ネメシスとはまた違った魔力の波長だ。


 こいつもまた、人間とは異なる血が流れているのだろう。


「計画を前倒しするのはやぶさかじゃなかった。でも、オレはやらなければならないことがある」

「それが世界滅亡とは物騒な話だ」

「全ては世界のため。再生と崩壊の循環が行われなくなった世界をあるべき姿に戻す」


 種族を滅ぼすだの、世界を滅亡させるだのと、そういうのが流行る時代があるのかと疑いたくなる。


「あなたならわかってくれると信じている。オレと同じ思考をする魔王なら」

「――断る」


 手を差し伸べてきたが、俺は誘いを拒んだ。


「……残念だよ」


 本当に落ち込んでいるように見えた。


 そして、それを合図に奴の周りに4つの人影が現れた。


「オレの同志だ。煉獄、轟雷、烈風、瀑布。全員で通称〈四聖〉と呼んでいる。名前は別にあるけど、生きていたらまた今度紹介するよ」

「逃がすと思っているのか?」

「4人の相手と、地脈の暴走を止める作業。更に併用してオレを追いかけるのは不可能だ」


 アルヴァンは一歩後ろに下がり転移魔法を使って何処かへと消えた。代わりに堅苦しいふたつ名で呼ばれた4人が一歩前に出る。


 察するに、炎、雷、風、水属性。


 地属性ではないのかと思ったのは忘れよう。


「ふむ。手練ればかりだ」


 だいたいマクシスよりも強いトールよりも強い程度の実力者だろう。


 ひとりずつなら欠伸をしながらでも余裕だが、4人同時は面倒だ。


「――なんて、弱音を吐いていたらイーニャに叱られる」


 ぷんぷんと怒るイーニャを思い出して、ふっと笑った。


「おれが一番だぜ――〈炎竜拳〉」


 竜を象った炎を拳に宿した赤い短髪の少年が城から飛び立つ。


 全員、自分の属性に因んだ髪色をしている。


「さっさと終わらせ――がぁっ!」


 頭の内側から弾けてしまいそうな激痛に顔を歪めた。


 左手は頭に添えたので、右腕で炎の竜拳を受け止める。


「な、んで、こんな時にっ……」


 狙い澄ましたからのようなタイミングでの激しい頭痛に苛立ちを覚える。


 まずいな。

 地脈の制御どころか、こいつらの相手すらままならないぞ。


「〈裂破風刃剣〉」

「〈ボルテック・アロー〉」


 俺の頭痛事情を知ってか知らずか、〈四聖〉連中は追撃に容赦なく風やら雷やらを放ってくる。


 前方に障壁を展開するも、集中できない状況で作った半端物は即座に壊された。


「ぐっ――あああ!!!」


 複数の魔法をぶつけられて爆発が生じ、勢いに巻き込まれて吹き飛ばされて瓦礫の中を突き進んだ。


 背を瓦礫に預け、足はだらりと脱力して前に伸ばし、地面に腰かける。


 素晴らしく無様な醜態だった。


「魔王っつっても、こんなもんか。拍子抜けだぜ」

「いいや、我々が強すぎるんだよ」

「だねー。でもこれならあの〈隻眼の剣聖〉と()りたかった」

「さっさと止めを刺して、ギルシアのとこに行こうじゃん」


 各々好き勝手言ってくれる。

 敵を殺しきっていないのに、油断をするとはまだ甘いな。


 瓦礫の破片やら木片やらが体のあちこちに突き刺さって痛い。

 魔力による身体強化もいつの間にか解けたようだ。


「さーんせーい。じゃ、あたしが殺るねー」

「おい、ちょ待てよ。魔王の首を取るのはおれだっての!」

「はー。仕方ない、間をとってボクが――って、誰?」


 獲物を取り合う子どもふたりを差し置いて、冷静担当らしき〈烈風〉が手のひらを俺に向ける。


 すると、俺と〈四聖〉の間に割って入るように何者かが立っていた。


「……イーニャ!? 何をしている、お前はアカネと――」

「バカっ、アホっ、この鈍感!」


 最後のは関係ないだろ。


 現れたのは、グリム、アカネと一緒に冒険者たちの対応に行かせたイーニャだった。


 いきなり罵倒の嵐だった。


「こんなになるまでひとりで戦って……どれだけ心配したと思ってるのよ!」

「今に始まったことでもあるまい。ぐっ……それより、さっさと逃げろ。お前がでしゃばって良い相手ではない」


 〈四聖〉の誰が相手でもイーニャは勝てない。


 奴らが俺にとっては弱くとも、人間基準で図れば強者の部類に入るからだ。


「それでも、あなたを置いて逃げるなんて――絶対にできない!」


 男も顔負けの良い背中をしやがって、言い返すのは無粋だな。

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