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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『叶わぬ現の夢』

 認めたくないと拒んでも、無慈悲に現実はやってくる。


「……余は……余は……魔族をほろ、ぼし……皆の無念を……人間を、守らねば……ならんのだ」

「――哀れだ」


 身体につられて自我の崩壊も始まったか。


 どれだけ強化しようと、元は人間。耐えられるはずがなかったのだ。


 満身創痍。


 立っていることすら奇跡のような状態で国王は、己が夢を目指して手を伸ばす。


 一歩、また一歩と最期の力を振り絞って歩みを進めた。


 誰の目からも、もはやその手は何も掴むことは叶わないのは明らかだ。


 ドレイアス・ウィル・ヴァンダグリーフ・アインノドゥスは、哀れにも舞台から退場させられたのだ。


 無理矢理魔力を引っ張り出した地脈か、裏切って殺した国民か、それとも――。


「まだ……終われぬ。余は応えておらぬ。誓いを……果たしておらぬ」


 身体の崩壊が止まり、更には再生能力が復活したようだ。

 まるで時間が巻き戻されているかのように、崩れ去った身体が元に戻っていく。


 内容は知らんが、既にお前の誓いは泡沫の夢。

 死を受け入れれば、楽になれるとわかっているだろうに。


「叶うのならば、お前と国について語らってみたかった」


 刀から鎌へと持ちかえる。


 せめてもの情けだ。


「次で終わらせよう」


 確実に死と言う名の終わりを与える。


 鎌の柄を握りしめ、今から殺す相手を見据えて深呼吸。


「誰が決めた――俺が決めた。世界が抗う――俺が覆す。理が拒絶する――俺が破壊する。邪魔をする――俺の前では森羅万象とて無力なり。さぁ、死を与える――〈四死界輪〉」


 傍から見れば、鎌を一回転させただけに見える所作。


 だが、やがて世界が起こった出来事を認識し始める。


 4回の死を与える〈四死界輪〉は、どんな相手であろうと確実に殺す。

 たとえ不老不死の魔法をかけていようと、その魔法の効果を無視して対象を死に至らしめる。


「余は……間違って、いたのか……?」


 走馬灯でも見たのか、おもむろに疑問を口にした。


「知らん。お前が王であるなら、そんなものは民が決めることだ。俺が決めることではあるまい。……が、あえて言うなら、もっと違うやり方を考えるべきだったな。あまりにも犠牲が多すぎる」


 巨人が暴れまわったのかと怪しむほど、瓦礫の山と化した王都(周囲)を見渡す。


 誰もいない都を。


 民のいない国を。


 終わりいく王を。


「王あっての国ではない。民あっての国であり、それを治める王なのだ。お前は王としての在り方を間違えた。一番犠牲にしてはならないものを、お前は糧にしてしまったんだよ」


 残された僅かな時間に応えるべきだと、俺は心からの意見を伝えた。


「――あまいな、魔王よ」


 急激な早さでしわが増え、年老いていくドレイアスの瞳は俺をしっかりと見据えていた。


「見た目と同じく、まだまだ考えが若い。……じゃが、余が捨て去ってしまった、かけがえのないものだったのかもしれぬ」


 足元から砂へと還っていく。


 それでもドレイアスは言葉を紡いだ。


「若き魔王――否。優しき魔王。置き土産だ、最後に忠告してやる」


 目の前に立つ男は、死に損ないの老人のはずなのに……自然と敬意を表するべき人物なのだと理解した。


「その優しさは貴様を苦しめ、やがて己を滅ぼすだろう。それでも貴様は優しさを抱いたままでいられるのか」

「俺は魔王だ。傲慢不遜、欲の化身だの呼ばれる奴よ。欲しいものは力ずくで手に入れる。種族など関係なしに、誰もが笑顔でいられる世界を俺は作る。――忠告感謝するぞ、ドレイアス国王」

「ハハハ……誠にそのような世界が来るのなら見届けてみたかった」


 死を前にしているのに、ドレイアスはとても穏やかな表情だった。


 一瞬だけ、同じように誰かの最期(微笑み)の記憶が脳裏を過ぎ去る。


「あの世から悔しがっていやがれ。多くの命を奪ったあんたへの罰だ」


 だから、悪戯小僧のような笑みを浮かべたのだろう。


「しかと受け入れよう。さらばだ、魔王レグルス・デーモンロード」

「ああ、さよならだ、ドレイアス・ウィル・ヴァンダグリーフ・アインノドゥス国王よ」


 虚空へと手を伸ばすドレイアス。もはやその瞳が捉える世界に俺の姿はあるまい。


「待たせたねネフィア。今、私もそこに行くから……。また君の、作った……パイが食べ、たい――」


 愛しき者への言葉を最後に、ドレイアスは砂となってその生涯を終えた。とても厄介な置き土産を遺して。


 やるせない気持ちだ。

 敵を倒したのに、倒す前よりも心が沈むとは……。


 己の甘さを自覚して嘲笑する。


 あの者とて何かを求め、定めた目標へと突き進んでいた。

 数多くの障害を、苦難を、壁を乗り越えてさえ至れなかった。


 やったことは悪だが、目指したものは悪ではなかった。

 始まりは誰かのためにと思って、その一歩を踏み出したのが今ならばわかる。


 ただ、その道半ばで立ち止まってしまっただけなんだ。


「無駄にはしない。俺ができるのはそれだけだから」


 深く息を吸って、吐き出してから辺りを見渡した。


「地脈の暴走、王都に仕込まれた巨大な魔法陣、死者の蘇生と……」


 無理に魔力を吸い上げられた地脈の暴走により、大地が震える中で俺はとある場所に視線を向けた。


「――」


 城の頂上からこちらを見下ろす、見覚えのある顔つきの黒髪少年。


「……アルヴァン」


 アルヴァン・N・オーレディア。


 俺がオークション会場で手痛い傷を負わせた奴だ。

 もう完全に回復している。

 治癒阻害を含ませた攻撃だったにも拘わらずだ。


 唐突にそこに現れやがった。

 転移魔法はなかなか難しい魔法のはずなんだがな。

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