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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『封印された力』

「どうした、魔王はこの程度なのか?」


 嬉しそうに眉を上げて、挑発してくるドレイアス。


 なかなかに腹立たしい見た目だ。

 どれくらいかと具体的に言い表すなら、あの顔面を思い切り殴り飛ばしてやりたいくらいだ。


「弱者にも時には花を持たせてやるのが強者の役目」

「ほお? では、貴様は余に勝てると戯けるのか?」


 俺を見下さんと、口角を上げる国王に笑いかけてやる。


「お前ごときで躓くほど、堕ちてはおらんよ」


 と、強気に言ってみたが、このまま長引けば不利なのは明らかに俺だ。


 地脈との繋がりを断つのが一番手段だが、魔法陣が奴の心臓と融合していやがる。


 魔法陣を破壊すれば心臓が止まる。するとイーニャに仕掛けられていたのと同じ魔法が発動して王都は吹き飛んで更地になる。


 解除を試みたが、俺の理解できない構造をしているせいで難航を余儀なくされた。


 これだから古代魔法は嫌いなんだよ。文字も盛り盛りだし、術式も盛り盛りで面倒極まりない。


「出し惜しみしてはやられるな――〈解放(アルシエ)〉」


 全身に魔力が染み渡るように流れいく感覚をしっかりと感じる。


「〈破滅の扇動(スコルタディノース)〉」


 魔法陣の展開から発動までの時間が早いため、破壊が追いつかない。加えて当たり前のように無詠唱だ。


 数を撃てば当たるの精神で、上空に魔法陣を無数に展開させ、雨のように闇の閃光による柱を地面へと突き立てる。


 ドレイアスは王都の民家や建物が次々と破壊されていくのを、全く気にも留めていない。


「羽ばたけ――〈黒翼〉」


 詠唱を終えると同時に、烏にも負けない黒い翼を翻した。


「的を広くするなど、頭がおかしくなったか?」

「さあな」


 鎌による斬撃を飛ばすも当たる直前で避けられ、片腕を斬り飛ばす程度で済まされる。


「ふむ。これが痛みか」


 それも数秒で再生してしまった。


 しかし、よっぽど近付かれるのが嫌らしく、距離を詰めれば即座に離れやがる。


 下手に転移魔法で近付けば、奴の周囲に仕掛けられた罠魔法の返り討ちをくらう。


「〈破滅の黎明(デストレア・ログナ)〉」


 ドレイアスの手から何本もの触手のような闇が、接近する俺へと放たれた。


 鎌を回転させることで相殺したが、やはり同じように距離を稼がれる。


「仕方ない」


 作戦を変えるために鎌をしまう。


「武器を手放すとは、やはり口だけであったか」


 俺の行動を諦めと思ったドレイアスが止めを刺そうと手のひらをこちらに向ける。


「接近戦を仕掛けるのに飽きただけだ。俺も魔法を使いたくなった――〈転移(テイル)〉」


 〈魔界〉に準備しておいた城よりも巨大な大剣を転移させ、ドレイアスへと飛ばした。


「無駄なことを」


 単に大きいだけの剣は闇に呑み込まれて消滅するかと思いきや、


「――なっ、ふん!」


 進行を阻止する闇を難なく斬り抜けて前進していき、ドレイアスは魔力を込めた拳で破壊を余儀なくされる。


「休んでいる暇はないぞ――〈転移(テイル)〉」


 大剣を拳で粉々に砕いた奴を中心に囲むように、砕かれたのと同じ大きさの大剣が7本現れる。


「次から次へと……なめるなッ!!」


 両手を勢いよく広げることで全身から衝撃波を放ち、迫る7本の大剣も金属の破片に変えてしまった。


 膨大な魔力が成せる荒業だな。


「〈堕落する天空(エア・ル・ダウン)〉」


 川を飛び出す濁流の如く、混沌の闇が空より俺へと降り注ぐ。


「紫電一刀流、奥の義――〈(ユカリ)〉」


 刀を現出させて、闇の衝突と同時にそれらを全て吹き飛ばす居合い斬りをお見舞いした。


「〈悪魔の闇槍(デモンズ・ランス)〉」


 先程のドレイアスのように、お次は俺が黒い槍に取り囲まれた。


 逃げ場がない状況でも俺の思考は冷静に対処法法を身体に伝える。


「四天影心流、第三式――〈|須斬劉影華〉」


 六芒星を模した陣が展開し、対象を貫くべく発射した無数の黒槍を1本残らず絶ち斬った。


「なぜだ……」


 立て続けに常人では行使どころか見ることすら稀な上位魔法を次々と発動させて俺を攻撃するが、生憎と受けてやるつもりはないので、そのことごとくを斬るなり消すなりと対処してやった。


 合間にしっかりと反撃を入れるのを忘れていないとも。


 俺とドレイアスの攻防に、王都のあちこちの建物は崩壊し、地形も多少の変化を見せていた。


「なぜ貴様は死なないのだ!?」


 業を煮やした国王はそう叫んだ。


「俺がお前より強いからだ」


 わからないようなので、簡潔に教えてやった。


「ふざけるな! 地脈の力を得た余が、魔族ひとりごときに負けるはずがない!」

「魔力だけなら〈獣王〉にも勝るだろう。だが、どれだけ膨大な力を得たところで、使いこなせなければ意味がない。諦めろ。お前には地脈の力は手に余る」

「くぅ――ッ。あり得ぬ、あり得てはならぬ。余は民を犠牲にしたのだ。必ず成し遂げねばならぬのだ。なんとしても、世界を……ネフィアが願った美しい世界にするのだ」


 こいつなりに目指す何処かへ辿り着くべく選択をしたようだ。


「……悪いが、お前の目的達成は不可能だ」

「ハッ、たかが魔王風情が大それたことを。よかろう、貴様には余の真の力を見せてやろう。余の力を前に、ひれ伏すがいい――〈解放(アルシエ)〉!!!」

「――何だと!?」


 静かな驚きが口からこぼれた。


「ウアアアアアアァァァアアアアッ!!!!」


 しかし、冷静に考えてみれば奴は俺を監視させていた。

 加えて実際に発動する様子を観察し、仕組みを調査させたのだろう。


 保有する魔力を駆使すれば行使は不可能ではない。


「――俺のミスだな」


 後悔を呟いている間に、雄叫びと共にドレイアスの力の解放は終わった。


 辛うじて人の形をしてはいるものの、それは〈人間族〉よりも〈魔神族〉に近い。肌は黒くなり、所々皮膚が強固な外郭へと変化している。


 まるでフレンを小さくした感じだな。


 纏う雰囲気だけでも、全ての能力が跳ね上がっているのが伝わってくる。


「フゥゥゥ……」

「目的のために人を捨てたか」


 肌を通じてピリピリと静電気のように伝わってくるドレイアスの〈魔族〉よりも禍々しい魔力。


「余は人間以外の種族を滅ボシ、世界ヲアルべき姿に戻ス。邪魔は、サセぬ」


 そして――俺は気付いた。


 数ある種族の中でも一番脆弱とされる〈人間族〉が、禁忌を行使してまで己が身を強化しようと、広大な世界の大地を流れる魔力の本流たる地脈の力を取り込んだ者の末路は限られている。

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