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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『国王』

「勇者なぞ役立たずよの。やはり、余が自ら出向くしかあるまいの」


 まさかの国王が戦場に現れるなんて、誰が予想していただろうか。


 爺さんのひとりやふたりが増えようが、戦況は変わらない――そう思っていた。


 だが、予想に反して姿を現したのは老人国王ではなく、若人国王だった。


 胸元に大穴を開けた俺に止めを刺すべく、その国王の手から閃光が再び放たれた。


「〈反射せし鏡扉(ミラーゲート)〉〈セラフィアル〉」


 俺の正面に鏡が出現し、防御魔法を易々と貫いた閃光を呑み込む。同時に回復魔法で胸の穴を塞ぎ、左腕も治した。


「返すぞ」


 鏡が吸い込んだ閃光を文字通り国王に返した。


「――ふっ」


 が、あの強力な閃光を片手で防いで見せた。


「凄いな」


 遠目でもよく見える。泥沼の方が綺麗だと思える、この世全ての色を織り混ぜたような混濁した色が。


 見ているだけで吐き気を催す汚さだ。


 喜べ国王よ、今までで1番だ。


「余にひれ伏せ、魔王。貴様に勝ち目はない」


 張りぼての強がりかとも思ったが、あながち本当に勝つ自信があるようで、魔力量も人間のそれから逸脱している。


 天才と称されるギルシアと比べても圧倒的だった。


 さて、ここで疑問が浮上する。

 そんな強力な力をいったいいつ、どうやって手に入れたかだ。


 シグマの話を信じるなら、俺が旅をし始めた頃。つまりは半年前まではただの老人だった。


 なのにどうだ?


 現在、俺を上から見下ろしている奴は老人とは程遠い、だいたいリュウヤより少しだけ年上くらいだ。


「勝ち目がないだと? 笑わせるな、それはお前の方だろうが」

「愚かな。余を前にしても力の差が理解できぬとは、魔王とは名ばかりの弱者だったか」


 王族だからなのか、人よりも少しのんびりとした話し方で罵倒されると余計に腹が立つな。


「人間風情が俺に勝てると思っていることこそ愚かだろ」

「フハハハハハハッ。貴様とて同じ人間であろう?」

「一緒にしないでもらおう。俺はお前のように他者を虐げて楽しむ趣味はない」


 僅かだが国王に繋がる魔力の流れが残っている。

 この流れを辿っていけば奴が何をしたのかがわかる。


 俺はこの時、王都を覆う結界と同じように地脈から魔力を直接取り込んだのだろうと予測していた。


「この世界は人間のものだ。他の種族なぞには渡さぬ。人間こそ、全ての生命の頂点に君臨すべき存在なのだ。そして、余は人間の頂点――故に、余こそが神に等しい存在。崇めよ、愚者どもよ」


 盛大に両手を広げて高らかに自らが神であると宣言する。


「ども、と言われてもここには俺しかいな、い……?」


 同時に、俺はとあるものを発見した。


「――お前、国民はどうした?」


 それまで悠然とした態度に相応の表情だった国王が、俺の問いかけを聞いた途端――口の両端がニヤリとつり上がった。


「余の民の心配とは、此度の魔王はまことに甘い精神をしている。よかろう、特別に教えてやろう」


 そう言いながら、国王は自分の胸元に片手を添えた。


「世界を取り戻すための礎として、余の供物となったわ」

「馬鹿な」


 念のため、会話をしながら〈世の盃〉で魔力を探ったが……結果は言わずもがな。


 数えられるほどの反応しか得られなかった。


「……なるほど理解した。地脈の魔力を得るための器。それを作るために、己が国の民を贄として焚べたのか! 非道を極めしはここにありだな」


 国王ドレイアス・ウィル・ヴァンダグリーフ・アインノドゥス。


 バッカスの話だと、50年程前までは良識な、それは素晴らしい王だったと言う。


 なのに突如、他の種族を忌み嫌い、虐げるようになった。


 あの頑固じじいが認めるくらいだ。本当に良き王であったに違いない。


 ――ならば気になる。


 何がこの男をここまで変えてしまった(・・・・・・・)のか。


「守るべき民を、自ら殺すとは……。堕ちるところまで堕ちたな」

「言ったはずだ。余の目的を果たす糧となることこそ民の栄誉。これを喜ばずしてなんとするか。貴様ら魔族には到底理解できまい。共に手を取り合い、力を合わせられる人間の素晴らしさを!」

「笑わせるな! 生殺与奪の権を握っておいて何が手の取り合いか。お前の行いは己が私欲による、ただの虐殺に過ぎん!」


 魔力を吸い付くされてはいるが、国民の死体自体はまだ残っている。


 俺はリュウヤのように〈勇者〉でもなければ、称えられるような〈聖人〉でもない。


 ――〈魔王〉だ。


 故に必要とあらば他者の命を奪うことを躊躇わない。


 せめてもの手向けとして、殺した者の責任として、必ず目的を成し遂げることを誓っている。


「俺とお前は似ている。だがな、俺は決して、命を使い捨ての物のようには扱わない。――断じてっ、己に付き従える者たちを、供物とは言わん!!」


 万を越える人間を蘇生するとなると、残りの魔力のほとんどを持っていかれる。


 その上で、地脈から魔力を得たドレイアスを倒すのは、良く見積もっても相討ちだ。


「――青二才が。民とは王のために生き、存在する。そやつらに役割を与えてやることの何が悪か。我が民の名誉なる犠牲を無駄にしようとする貴様こそ悪であろう」

「ああ、言えている。お前を倒すのは、俺が目的を果たすのに障害物となったからだ」


 禁忌〈清廉なる器への贄(カルマサクリフィウム)〉――他者の魔力を生命力ごと奪い、不死に近い状態になる魔法。

 生命力を奪えば、もしかしたら若返りもありえるとグリムは言っていた。


 五大禁忌のひとつだ。


 それを使ったクズキング……おっと、キングサイテーダ……でもなくて、ドレイアスは単純な魔力総量ならあの〈獣王〉を圧倒している。


 ネメシスはやはり手を出す気はない、と。敵意も殺意も全く感じない。

 完全な傍観者になっているようだ。


「この国の民に義理はないが、奪われた魔力と命を取り返してやろう」


 こいつ相手に容赦は不要。


 確実にドレイアスを――殺す。

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