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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『苦戦』

 俺の知っている事柄だけが世界の全てではない。


 まさかこんな形で実感を得る羽目になるとは、まったく予想外だ。


「本日は体調を崩していらっしゃるのですか?」


 レイピアの先端を後ろに向けながら、俺の体調の心配をしてきやがる。


「はっはっ。余裕だな」


 ミリエフィールの大量武器創造でも掠りもしなかったこの俺の身のこなし。


 それをものともせずに、この爺さんはレイピアで腕や足を貫いてくる。


 全ての五感が遅れている。……いや、ずれているんだ。


「ぐ……っ」


 心なしか全身が重たいしだるい。


「あの少年はもう少し粘りましたぞ?」

「少年、だと?」


 爺さんの言葉に俺は眉を上げる。


 少ないそれだけでも、ひとつの結論に至るには十分な内容だった。


「あんたが倒したとでも言うのか?」

「ええ。ここに訪れる途中で鉢合わせしたので、倒しておきました」


 穏やかな笑みを浮かべ、髭を触りながら説明した。


「殺したのか?」

「……肯定したら、どうしますか? 臣下の復讐のために無謀にも挑みますか?」

「ああ、それも悪くないな。あんたみたいな歴史そのものとも言える存在に負けるのも、案外面白いかもしれない」


 純真悪魔こと――ロアンが負けたしまったようだ。


 こいつの挑発通り、敵討ちをするのは王として自然ではなかろうか。


「ふぅぅぅ、すぅぅぅ、はぁぁぁ……」


 深く、深く、呼吸を行う。


 全身に空気を、魔力を送り込む。


 手を握り、開く。

 他にも足や肩や指などを身体の至るところを動かす。


 よし、ちゃんと動く。


「さってっとぉー。待たせたなクラトス。臣下の汚名をそそごうではないか」

「ほおぉ、顔つきが変わった。よほど大切だったのですな」


 余裕でいられるのも今の内だぞ――クラトスさんよぉっ。


「もちろん。俺のものは、全て大事なんでね。だから終わらせてやるよ――〈魔王()〉が直々にな!!」

「――なっ、バカな!?」


 今までよりもけた違いの速さで互いの間合いを駆け抜け、横凪一閃を受け、辛くもレイピアで防ぐが力が足りなかった。


 数歩、ズサリと後ろに下がらせながらクラトスは驚愕を露にする。


「ほらほら、どうしたっ!!」

「――ッ!!」


 形勢逆転。

 俺が攻め、クラトスが防ぐ。


 刀を回転するように次々と持ち方を変え、間髪入れずに斬り続けた。


 休む隙など、気を緩ませる隙など一瞬たりとも存在しない。

 その瞬間に決着だからだ。


 それをこの爺さんも理解しているらしい。

 攻撃をその身に受けても、全く怯まずに魔法で死角から反撃を狙う。


「――なぜだ?」


 残念ながら、魔法による攻撃は全て大地の力を借りて無力化してやった。


 先程まで俺の言うことを聞かなかったのに、急に味方をし始めた事実にクラトスは困惑を示す。


 そりゃそうだ。

 逆にここで驚かれなければ落ち込んでしまうぞ。


 俺がただただ無様にやられていたと思ったのか。

 魔力を込めた血を周囲の大地に染み込ませるために全身に傷をつけさせたに過ぎない。


 単純な魔力で無視されるなら、無視できないほどの強力なもので従わせれば良い。つまりは、魔法陣を流した血で描いたのだ。


「あんたは確かに強い。他の連中なら負けてもおかしくないくらいにな」


 ただな、今のあんたの相手は、そんな暴れ馬連中の上に立つ王なんだよ。


「王が負けるわけには、いかないよな」


 クラトスの毒には適応完了。

 ずれる攻撃も既に見切った。


 正確には仕掛けを見抜いた、だ。


 幻覚と幻影。


 2種の魔法の同時使用による、感覚の誤認を利用した特殊な方法だ。

 広範囲の幻覚魔法と、局所的な幻影魔法で、実体と幻の感覚がずれるように相手の五感に強制的に認識させる。


 ほんの一瞬の発動だから、仕掛けを見抜くのに時間がかかった。気のせいだと思ってしまいそうな細かい調整をさも当然のように一瞬の間に完結させるなんて人間業ではないぞ。


 ……あ、人間ではなかったな。


「……なるほど。評価を改めねばなるまいな」


 僅かに聞こえる程度の声量で呟くと、雄叫びと共に全身から魔力を放つことで俺を吹き飛ばした。


「――だっ」


 無理やり距離を離されたのだ。


「まさか、使わされるとは……」


 本来の力を取り戻す気か。


 魔法陣を自身の頭上と足下に展開させる。

 いやー、さすがと言わされるな。全く構造が理解できない。


 外部からの干渉は……できないようだ。

 強大な魔力の集約によって大地が揺れて小石などがふわりと浮き上がるも、魔法陣に触れた途端に塵も残さず消滅した。


 ざって言って消えたぞ。


 クラトスが本来の力(・・・・)を取り戻したら、ここら一帯が消し飛ぶかもしれない。それはこの戦場にいる人間たちも巻き込むだろう。


「覚悟は済んでいるようだ。なら――」


 悪いが、無礼を承知で阻止するぜ。


 体勢を立て直し、左手だけ刀を本来の持ち方とは逆に持ち、右手は正しい持ち方で居合い抜きのような姿勢で腰に構える。


「四天影心流、第五式――〈真壊躱畏懴零〉」


 逆さに持った左手で振り上げ、正しい持ち方の右手で振り下ろす。


 動きは単純にそれだけ。

 ただそれだけが、瞬きよりも速く完結する。


 上げられた左手は刀を手放し、振り下ろした右手だけで刀を握る。

 他者には左手が上がり、刀の向きがパッと変わっただけに見えるはずだ。


 しかし……刃を受けた者はそうはいかない。


 クラトスの上下で展開していた魔法陣がパリンッと割れるガラスのように砕け散り、集約していた魔力も風と共に分散する。


「――?」


 理解は難しいと思うがな。


 案の定、クラトスも何が起こったかわからないと困惑の表情を浮かべていた。


「第五式――〈真壊躱畏懴冷(しんえたいざんれい)〉。言いにくい名前のそれは――法則無視の二撃必殺による、強制的な原点回帰。簡単に言えば、あんたが力を取り戻そうとしたのを無理やり中断させたのさ」

「陣の中は不可侵領域になっていた。如何に貴公の能力とて、あの短時間で破壊することは不可能……」


 そこまで言ってクラトスはハッとなった。


「四天影心流……よもやここまでとは。――認めよう、小生の敗北を」


 最初の方は聞こえたかったが、最後は立派だと敵ながら称えたくなるほど潔い敗北宣言だった。


「――お。あっちの方も白熱しているな」


 20の〈魔法鳥(ヴァード)〉がすぐに消滅。


 〈剣聖〉同士の戦いだ。

 余波だけでも凄まじいものだろうよ。


 俺たちも王都に急ごう。

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