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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『老人』

 遠距離攻撃による誘導は成功し、地中からの不意打ちによって結界は無力化できた。


 転移のために皆を集めようと視線をアカネに向けた途端、反対側から爆発音が聞こえた。


「――桁外れの魔力の持ち主がいらっしゃる」


 そして、耳を塞ぎたくなるほどの轟音の中でもしっかりと聞き取れた男の声。


 年季の入った老人特有の落ち着いた響きを持っていた。


 頭の奥から痛みが込み上げてきた。この兆候……さすがに何度も味わえば察しがつく。


 ――俺はこの声を知っている。


 失った記憶の中で、俺はこの声の主を知っている気がした。


「我が配下をよくも消し飛ばしてくれたな」


 声の主の方に振り返ると、先程までそこにいた配下たちの姿がなくなっていた。


 視線を下に落とせば、まるでそこを円形の何かが通過したように抉られている。爆発音の原因と関係しているのは明らかだ。


「貴公は周りの魔族より強者のようだ」


 細長い剣――レイピアを右手に持った白髪の老人が地面の抉られ始めの地点に立っていた。


「あんたもな」


 何者なんだこの老人は。


 奥深い緑色。ずっと見ようものなら吸い込まれそうな深緑を連想させる。


 感じ取れる魔力も、今までの人物とは文字通りの桁違いの量だ。


 俺と同等……いや、下手をすればそれ以上かもしれない。


「レグルス、気をつけて。この人は序列3位――クラトス・ファルサティア。その正体は――」

「いけませんよ」


 俺とグリムの間に風が走り、会話を途切れさせる。


「グリム。ふたりを連れて離れていろ。この爺さんの相手は俺がする」

「お気をつけて」


 気をつけて、か。


 なるほど、お前が俺の安否を気遣うような相手なのだな。


 警戒しなければ――、


「――っ!?」


 構えようとした俺の眼前に尖った金属の先端が迫り来る。


「おや、これを避け、反撃までするとは……。まだまだ小生の眼は曇っていないようで安心しました」


 平然と言ってのけやがった。

 俺の拳を空いた右手で受け止めながらだ。


 不意を突かれたとは言え、人間なら軽く吹き飛ぶはずの魔力を込めた拳なんだがな……。


「警告されるわけだ」


 身体を回転させて取られた手を振り払い、勢いを乗せた回し蹴りを腕で防ぎ、しっかりとレイピアでの反撃を忘れない。


()せんな。あんたのような奴が、王国の味方をするとは……。人質でも取られたか?」


 嘲笑うような態度で問いかける。


 それにクラトスはゆっくりと瞼を閉じ、そしてゆっくりと開いてから答えた。


「貴公は勘違いをしているらしい」

「なに?」


 ため息混じりに呆れたと言わんばかりの様子だった。


「小生は王国の味方ではない。〈人間族〉の手助けをする存在です」

「……」

「彼らの中心がこの国なだけ。しかし、貴公が人間の敵である限り哀しきかな、我々は相容れない」


 故にここを通りたくば、自分を倒せと言いたいわけか。

 本当に面倒極まりない。


 ――クラトス・ファルサティア。


 俺はあんたの正体を知っている。それを承知の上で言っているんだろうな。


 本気を出されたら俺でも厳しい相手だ。


「――はぁ」


 まだ使うには早い。


「故、貴公をここで――終わらせる」

「――ちぃっ」


 意識を逸らした一瞬を突いて、クラトスは迷いなく心臓を狙ってきた。


 刀を添えるように当てて軌道をずらすも――、


「――ぐっ」


 それをわかっていたように、的を心臓から左腕へと変えて見事に貫くことに成功した。


 すぐに引き抜いて後ろに飛び退くも、逃さないと距離を詰められる。


 左の肩から先が痺れたように動かしにくい。

 ズキズキとした痛みが脳に、響くかの如く伝わってくる。


 術式を組み込んでいたと考えるのが妥当だろう。


 地面を踏みしめ、突出させようとしたが……、


「――っ!?」

「無駄だ。貴公と小生、どちらが大地と長く時を過ごしたか考えれば理解できましょう?」


 長期戦になればこちらが不利なのは明白。


 かと言って、イーニャとアカネをこいつと戦わせるわけにもいかないしな。

 グリムはふたりを守る役目があると来た。


「――」


 心配する気持ちが痛いほどに伝わる表情で、こちらを見つめるイーニャとアカネが視界に入る。


「……俺としたことが情けない」


 自然とため息が出た。


 自分からひとりで戦うと言っておきながら、助けを求めようとしているとは……。


 いやはや、俺はいつの間にこんなにも情けなくなっていたのやら。


「魔王とて、やはり人間では小生には及びません」

「それはどうかな?」


 と威勢の良いことを言いつつも、全身の傷は増えていった。


 傷がひとつ、またひとつと増える度にイーニャとアカネの表情が更に深刻なものへと変化している。


 しかし、対照的にグリムの顔は笑みを浮かべていた。

 考えが見抜かれているのか、それとも信じられているのか。どっちなのかね。


 ふたりには悪いが、俺も苦笑してしまいそうだよ。

 ありがたすぎる故の罪悪感でな。


 と、そんなことを考えていると攻撃の手が緩み、クラトス爺さんの方から距離を取った。


「あんたから引くなんて、どんな風の吹き回しだ?」


 だから逆手にとって嘲笑するように苦笑させてもらった。

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