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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『長距離攻撃』

 阻止しようとミリエフィールは必死に手を伸ばす。


 もはや魔法の行使もままならない状態にも拘わらず、抗おうとはさすがと言わざるを得ない。


「――〈大地の剛剣(グラウンドブレイド)〉」


 頭上に掲げていた手を振り下ろす。


 連動して上空で生成された巨大な剣が前方へと飛翔する。


 王都を目指して直進するそれの動向を〈遠視(トルム)〉で確認していた。

 結界に直撃すれば破壊できるように魔法の術式を組み込んでおいた。


 結界があるから大丈夫だと安心しきっている連中の油断を突いた攻撃――だったはずなのだが、


「……斬られた」


 〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉序列1位ギルシアに、ものの見事に両断されてしまった。


 王都を守る結界に掠りもせずに左右へと分かれて地面へと突き刺さる。


 まるでこういう攻撃を予期していたかのように、外壁で間違えていたらしい。


 やはり、あいつが王国守護の要なのだろう。


 ギルシアさえいなくなれば、あとは寝ながらでも制圧できる。


「ギルシアよ。次はどうする?」


 上空に再び剣を生成し、その表面に数人の騎士をめり込ませる。


 戦闘続行は難しくともまだ生きている者たちだ。

 先程のように両断しようものなら、仲間ごとふたつにわかれることになる。


 だが見過ごせば結界は無意味と化す。


 非道と罵られようと構わない。


 これは紛れもない戦争。


 勝利すれば良いのだ。

 勝利しなければ、戦争による戦死者よりも、多くの罪なき者たちが命を失うのだから。


「さあ、どうする――ギルシア・S・アイオン」


 口角を上げて、手を振り下ろす。


 すると上空で待機していた、人を埋め込まれた巨大な6本の剣が王都に向けて放たれた。


 音速と同程度の勢いで空気の抵抗をはね除けて進み、すぐに王都へと飛来する。


「――む」


 さすがは序列1位と言うべきか。

 剣にめり込む騎士連中をすぐさま見抜いたようだ。


「〈連刃雷豹閃〉」


 ギルシアの刀が煌めきを放ちながら鞘から抜かれ、次の瞬間――俺の造った巨大な剣が粉々に斬り刻まれた。


 騎士たちを避けて、だ。


 つまり、俺の卑劣な作戦はギルシアの実力の前に無意味にされてしまったのだ。


「あんなに細かい調整が可能なのだな」


 あいつの魔法の属性は雷。


 光から派生した属性とされ、光よりも速さでは劣るが、その分威力が上昇している。


 多くの騎士が使いたがるらしい属性であるものの、非常に扱いが難しく結局断念する者がほとんどだとシグマが言っていた。


 それをここまで使いこなしているからこそ序列1位なのだろうな。


「妙だな」


 いくら俺の大剣が速いと言っても、先行したロアンたちを追い越せるようなものではないはずだ。


 そうだ。


 ロアンたちがもう王都に到着している頃なのに、俺の目には映っていない。


「何処だ、何処にい――っ」

「アアアアアッ!!!」

「まだ動けるとは、褒めてやろう」


 探索魔法を使おうとしたその時、倒れていたミリエフィールが狂気染みた形相で斬りかかってきた。


 瞳も赤く変化してしまった。


 なるほど。


 もうどうしようもない瀕死状態になると、本人の意思とは関係なし、つまり自動的にリミッターが外れるように設定されていたな。


 これは……まずいな。


「アアアアアァァァァァア!!!」


 暴走ミリエフィールの咆哮に応えて、周囲に無数の武器が形成される。


 〈創造形(アークス)〉の根源は、無から有の生成。


 実際は魔力の物質変換なのだが、物をほぼ0の状態から構成することなど不可能に等しい。


 何故なら、その構造を理解していなければ形あるものとして(・・・・・・・・)成立しない(・・・・・・)からだ。

 それが人工物ならなおのこと。


 ただの張りぼてになってしまう。


 ならどうすれば良いか?


 構造を理解するほどの頭脳。


 細かな魔力調整が可能な才能。


 そして、頭の中で組んだ想像物を創造するだけの相当量の魔力。


 本来ならいくつもの条件が重なって初めて偉業を成し遂げられる。


「レグルス!」


 グリムが異常に気付き、駆け寄ろってこようとするが、


「来るな! こいつは俺が相手をする」


 ミリエフィールの相手は俺がやると告げる。


「代わりに、周りの騎士の相手を頼む」

「……了解。王都までまだ道のりはあるからね」

「わかっている」


 奴なりに心配してくれたのだろう。


 はっきりと言うと、俺の〈魔王〉としての立場が崩れてしまうのではと理解しているのだ。


 本当にできすぎた先生だこと。


「――よっと。多いぜ、まったく」


 思わず愚痴を溢したくなるような数。


 四方八方から様々な武器が、所狭しと数の暴力で襲いかかってくる。


 暴走を止めたいのは山々なのだが……解析してみるとより厄介な事態になっていると認識させられた。


「魔法陣が同じとは、厄介なことをしやがる。生かして帰らせる気がないのか」


 心臓の役割を果たす核の魔法陣と、〈創造形(アークス)〉の魔法陣がひとつになっており、どちらかを止めようものならもう片方も止まってしまう。


「堕天使アルカクィエルめ、悪趣味な野郎だ」


 このまま防御に徹していれば、魔力切れか暴走による魔力の暴発で勝手に死ぬのは目に見えている。


「俺はな、諦めるのは嫌いな(たち)でな――〈解放(アルシエ)〉」


 魔法構造を解析。


 更に全方位から迫り来る無数の武器に対応。


 更に更に解析した魔法陣から新たな魔法を創造。


「言うのは簡単だな!」


 斧を弾きながら叫ぶ。


 視力と嗅覚は不要だ。


 集中しろ、必要なことだけを成すのだ。


「なっ――」


 生成されていく武器が俺だけではなく、ミリエフィールまでもターゲットにしやがった。


 やはり、遠隔操作していやがったか。


 何としてでも邪魔をしたいみたいだな。


 自分のものを他人に弄られるのは嫌だってか?


「アルカクィエル。聞こえているのだろう? お前は命を創ったことにより、神にでもなった気でいるのかな」


 地面を片足で軽く踏んでミリエフィールに突き刺さろうとしていた剣と槍を防ぐ。


 数100年以上の月日を経て、堕天使堕天使アルカクィエルが造り出した魔法。


 それをこの短時間で理解し、そして俺が望む術式へと組み換える。


「ならば俺はお前を、今ここで越えてやろう。そうすれば、俺は何者になるのだろうな?」


 俺は口角を上げる。


「届け――〈創造改変(アクシア)〉!」


 ミリエフィールの胸元に手を当て、その名を叫ぶ。


 すると赤くなっていた瞳が青色へと変化し、そのままミリエフィールは俺の腕に力なく項垂れた。


 うまくいったな。

 完全に書き換えることができたようだ。


「まったく、世話の焼ける団長殿だ」


 視界の隅でむすっと頬を膨らませたイーニャが見えるのは気にしないでおこう。


「――よし、成功した。お前とてこれは予想外だろう」


 上空からの攻撃の間に、地中から結界に干渉し無力化する。


 これで王都は無防備な状態。言い換えれば良き的だろう。

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