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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『申し出』

「なぜ。なぜ貴様がそこに立っている!?」


 駆けつけたミリエフィール団長が叫ぶ。


 騎士団の連中を地に伏せた張本人に、そんなことをする人物ではないと言うのだ。


 まったくおかしな話だ。

 そこまで信用を得る行為はしていないと思うのだが……奴の思考はよくわからぬ。


「説明せねば理解できぬのか? それとも、恩人には手出しできぬと甘ったれたことを言うのではあるまいな?」

「くっ……」


 悔しがるように歯を食い縛るミリエフィール団長に苦笑する。


「ここは戦場だ。敵は殺す。殺さねば、己や味方が死ぬ。騎士団の団長だ、十分承知していると思ったが……どうやら俺の買いかぶりだったようだ」


 わざわざ説明してやったのに、どうやら納得がいかないようだ。


「命の恩人を倒せ――。あたしにそんな恩知らずな真似をしろと」


 甘い。


 甘いぞ、ミリエフィール団長。


「迷うのはお前の勝手だ」


 時には非情にならなければ、守れるものも守れなくなる。


 騎士団長ともあろう奴がこれでは、従う連中の底が知れるぞ。


「お前は責任という言葉を知らないらしい。仲間の生死はどうだって良いって奴の言い分だからな」

「……るな」

「ん? 何だって?」

「ふざけるな!!」

「おっと」


 大剣が振り下ろされるが、ギリギリのところで避けて距離を取る。


「あたしは仲間の命を蔑ろになんかしない! 魔王レグルスっ、あたしと闘え!」


 ようやくやる気を出したようだな。


「受けて立とう」


 バンガスの造った鎌を手に、真正面から受けて立つと宣言した。


「――っと、いきなりとは血の気が多いな」


 スッと音もなく迫りくる大剣を、鎌で軽く受け流しながら呟く。


「ハアァッ!」


 鎌を回転させて大剣に乗った力を我ながら華麗にいなしていく。


「どうしたどうした、お前の覚悟はこんなものか?」

「黙れぇっ――〈業火蓮生〉!」


 振り払われた大剣から全てを燃やし尽くさんと炎が放たれた。


 呼応してそれに地面からも炎の柱が数本立ち上る。


 怒りに呑まれながらもちゃんとコントロールして、俺の退路を着実に減らしている。

 伊達に騎士団長はやっていないようで少し安心した。


 ただの弱者を倒したとあらば、〈魔王〉の名に傷がつくからな。


「ミリエフィールよ、俺はお前に聞きたいことがある」

「他者を見下す貴様などに、傾ける耳は持ち合わせていない!」


 と返答してくれるのだから真面目で良い子なのだと思わず微笑んでしまう。


「なにを、笑っているんだ!」

「おっと、これは失礼」


 怒られてしまった……。


「俺は正直、この国は腐りきっていると断言する」

「ハァッ!」

「隷属、主従、奴隷制度が完全悪だとは言わない。俺とて、必要とあらばそれらを行使すると自負しているからだ」


 返事の代わりに大剣が次々と振るわれる。

 その全てを受け流し、死角からの魔法攻撃も地属性魔法で対処した。


 しかし、炎自体は防げても、その熱までは防ぎきれない。


 火の性質をしっかりと理解した上での魔法攻撃を駆使してきやがる。


 難しいであろう細かい調整を大剣を振るいながら同時に行うのだから、素直に素晴らしい腕だと称賛する。


 それが創られた存在だからなのかは判断しかねるが……。


「だがこの国は自らの力で手に入れていない、ただ譲り受けただけの地位や金で至福を肥やし、それらを持たぬ者たちを虐げている。王ですら嘆く民の声に耳を傾けようとしない」

「……」

「確かに全ての者が平等に、などは理想や幻想に過ぎまい。不思議なことに、この国は歪とも言える状態で国として成り立っている」


 なし崩し的に魔王になった俺だが、同じ王として認められないことだ。


「そんな国を治める王に仕える価値があると? 俺はそうは思えないね」

「貴様に、我らが国王の心労のなにがわかるか!」

「疲れを癒やすためなら、他の種族に隷属を強いて良いというのか?」

「くっ――それは……」


 さすがに言い淀んでしまうミリエフィール。


 こいつ自身も、心の何処かではこのままでは駄目だと理解し、認めているのだ。


 だがそれでも、自分は王国の騎士団団長だからと気持ちを抑え込んで済まそうとしている。


 正しいか否かより、そうあるべきだと信じるように。


「ふ……」


 俺は不思議と苦笑をこぼす。


 ……いや、別に不思議ではない。


 嬉しいのだ。ミリエフィールはしっかりと己が意思を持っている事実が。


 騎士団長としてか、ひとりの人間としてかはわからないが、他者を思いやる心が確かにある。


「アルカナファミリアだかアルティメットレインだかアルカクィエルだか知らないが……ミリエフィールっ、お前はお前の意思で生きろ!」


 これは魔を統べる者にあるまじき行為かもな。


「神の声、神の意思、神の願い……それら全てをはね除けて、我が欲を叶えるために魔を従えんー」


 鎌を手放し、代わりに目の前に現れた一振りの刃を掴む。


 迷いはない。


 自由を望む者に、強き心に、思いを馳せる願いに――応えてやるだけだ。


「今こそ、解放の時――〈枷を滅する導となれ(アグナ・セイヴァー)〉」


 光なのか、闇なのか、例えようのない存在の刃でミリエフィールを――斬った。


「俺は、もしかしたら甘いのかもしれないな」

「……間違いなく、だ……」

「呪縛となる堕天使野郎との因果を断ち斬った。これからどうするかはお前次第だ。自由ってのは案外大変なんだぞ」


 斬られた影響で倒れるミリエフィールを支えて、そのまま地面に寝かせてやった。

 もちろん斬り傷はないとも。俺が斬ったのはあくまで内面、外側は無傷だからな。


 お節介だー、とか文句を言われるに違いない。


 目的は達成したんだ、さっさと次の行動に移らねばならないからな。


「さて、王都はどっちだったかな?」


 額に手を当てて遠くを見つめた。

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