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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第二章 旅立ちの人間界
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『村人』

 村の中央広場に村人が集まる。こうやって改めて目の当たりにすると驚かされる。


 種族問わず当たり前のように生活している風景はやはり信じられなかった。だが実際に村長コジュウロウタの声に応えて集まっている。


 ちなみに俺やイーニャ。つまり部外者がいるにも関わらず村人“全員”を招集したのはコジュウロウタの俺への配慮だ。

 協力してくれる同志に隠し立てする必要はないと。まったく真面目な奴だ。


 これらだけでコジュウロウタの人と成りはわかる。


 コジュウロウタが高台の上に上がる。事情と作戦の説明を行うためだ。お手並み拝見といこう。


「突然の招集をまず謝罪致す。そして同時に感謝申す。皆に集まってもらった理由は他でもない、近々この村を訪れると予言された化け物についてだ」


 村人たちがコジュウロウタに注目する。100人以上の視線を浴びても怯まなかった。


「化け物が来ると言うのは某が皆についた嘘だ。本当は騎士団がこの村の人間族以外の種族の存在を確認、見つけ次第確保しに村を訪れる。皆は反対するだろうが、俺は自らの命を捧げると決めた。数多くの思考を重ねた故の答えだ」


 こんな状況、常人なら硬直したり、言葉を間違えたりと緊張が表に出るものだが……逆に堂々としている。


 反対にコジュウロウタを見つめる村人には動揺が走っていた。

 そりゃそうだ。嘘をついていたのに加え、村長で村の中心人物である自分が犠牲になるつもりだと宣言したのだから。


「何を言われても、曲げるつもりはなかった。某の命一つで皆が助かるならと……。しかし現実は想定を越えてきた。某の命一つでは、人間族は守れても、他の種族の者たちが連れて行かれてしまう」


 種族問わず、各々の手を握ったり抱き合ったりと互いの身を案ずる仕草を見せる。


「だがもう一つの予言は某に希望を与えた。恥ずかしながら、某は迷いを捨て切れていなかったらしい。まだまだ未熟者だ……」


 俯いてから迷いを断ち切るように顔を上げた。


「故に某は皆に告げる。協力を求むと。某一人ではあまりにも非力だとしても、皆の力が合わされば共に生きる道もあるのだ! それを教えてくれた恩人とも言うべき人物がいる」


 ハードルを上げやがった。あれは質が悪い、無自覚のお伊達だな。


「その者はこの状況を打破するのを約束した。一つの条件つきでだ。それは王国の、延いては人間たちと敵対する覚悟を持つこと。……某は彼のご仁と刃を交え、信じるに値すると判断した」


 そこでコジュウロウタは俺の方を振り向き頷いた。


 どうやら行かねばならないらしい。


「紹介する――〈魔王〉レグルス・デーモンロード殿だ!」

「ちょ、ば、馬鹿者! 俺を紹介してどうするのだ!」


 包み隠さず言い放つコジュウロウタに、思わず高台を駆け上がったが遅かった。

 いきなり“魔王”なんて言ったら怖がるだろうが。案の定、恐怖に満ちた眼差しが突き刺さる。ヒソヒソと小声で話している者もいる。

 子どもは泣き出しそうにまでなっている始末。


 この馬鹿正直者め……。


「俺が現魔王――レグルス・デーモンロードだ。ノルンと名乗っていた理由は言うまでもないだろう。怖がる必要はない。肩書きは大層だが、俺はただの人間だ」


 俺は笑ってみるも、全然笑ってくれない。予想通りの反応で逆に安心するよ。


 ただ話は聞いてくれるようで助かった。


「いろいろ事情や理由があって、この村と村に住むお前たちを騎士団から守ることにした。今すぐ信用してくれとは言わない。結果を見てから判断してくれれば良い」

「そして皆に協力してほしいことが三つあるのだ――」


 一つ目、騎士団の一行が撤退するまで村ないし森から出ないこと。


 二つ目、一部始終をその目でしかと見届けること。

 これには投影魔法で村の各所にて現場に直接行かなくても見れるようにする。


 三つ目、全てを見た上で〈魔王〉レグルス・デーモンロードの支配下に入るかどうかを選択する。


 これに対して俺が要求する代償、見返りは“今まで通り生活すること”だけだ。


 村人たちを包む恐怖が困惑に変わっていく。


「俺には野望がある。世界を征服し、この村のように種族の差別や偏見がない世の中にする。他言無用で頼むぞ。配下に聞かれればどんな反応をするやら……。そのための足掛かりとしてお前たちに協力してもらいたい。頼まれてはくれないだろうか?」


 俺は気付いたら目を閉じて、軽くと言えど頭を下げていた。


 答えがどちらにせよ、この村が魔王のものと知れば、易々と踏み入れなくなるはずだ。


 気にせず攻め行ってこようものならそれ相応の対応をするつもりである。その場合、農作物の売り買いについても考えねばならないな。


 かといって、こんな得体の知れない者の頼みなんだ、そう簡単には聞き入れられまい。まぁ、その時はその時で勝手にやらせてもらうだけだ。


 心の中で苦笑した。やはり俺も馬鹿の一人じゃないか、と。


 パチパチ。


 パチパチパチパチ。


 パチパチパチパチパチパチ。


 拍手が鳴り響き、


「良いぜ、魔王様ー!」

「オレたちで良ければ協力するぜ」

「村長が見込んだお方だ、間違いない」


 歓声が巻き上がった。


 俺はキョトンとした表情を浮かべ、呆気に取られた。


 やはり温かい。

 コジュウロウタ、あんたに追い付くのはまだまだ先になりそうだ。


「皆の者、感謝する」

「人気者で何よりだ」


 その後詳しい説明を行い、改めて村人たちとの交流を行った。

 酒を飲み交わしたり、料理を披露したりしてくれたりとなかなか楽しんだ。


 気軽に接してくれと頼んだら本当に遠慮なく連れ回されたものだ。こんなにも愉快な者たちだったとは、少しだけ甘く見ていたと後悔した。


 親しみを持ってくれるのはありがたい。だがこんなにも気に入られたのは予想外で不馴れなことに身体がついてこなかった。




 ◆◆◆




 ――夜、コジュウロウタ宅の一室。現在は俺の寝室として利用させてもらっている部屋で、俺は枕に顔を埋めて俯せで寝転んでいた。


 ベッド脇にある椅子にはイーニャが座って、疲労困憊の俺の心配をしてくれた。


 料理を作ってくれると期待して待っていたら、料理らしき何か(・・・・・)が出てきた。せっかくのイーニャの手料理だと心の中で覚悟を決めてそれを口に入れた――あとの記憶がない。


「ごめんなさい……」

「俺こそ悪い。せっかくのお前の料理を、全然食べれなかった」

「い、いいの。本当に食べるなんて思わなかったんだもん……」



 珍しくしおらしくなりやがって、お前は騒がしいのが似合うんだよ。て言うかイーニャさんよ、食べると思ってなかったものを普通出すか?


 ……こいつに常識を求める方が間違っている。

 だがこの馬鹿さ加減がなかなかどうして退屈しない。


「よっと」


 俺はベッドに起き上がりあぐらをかいた。


「話は変わるが、イーニャ。お前の役割はちゃんと覚えているだろうな?」

「もちろん。私はエリートだからな」


 ドヤ顔と胸はりの併せ技を見せるのは構わないが、言葉に全然説得力がないぞ。お前の何処がエリートだ。


「心強い。お前を選んで正解だった」


 本音を言ったら落ち込むので適当に煽てておく。


「ふ、ふふん。私は案内人だけど、ちょっとくらいは手伝ってあげるわ」


 誇らしげに笑みを浮かべるイーニャ。

 チョロい、チョロいぞ。


 俺の口角も自然に上がっていた。



 それにしても美少年騎士――マクシスねぇ。〈王国の守護者〉などと大層な呼び名である以上、かなりの実力者なのだろう。


 ……ん、待てよ?


 俺は首を傾げたままイーニャに視線を向けた。


「お前は精鋭なんだよな?」

「そうよ。スゴいんだから、敬ってもいいわよ」


 敬えるところを教えてほしい。


「王国の精鋭なるお前なら、マクシスについての情報を知っているんじゃないかと思ってな」

「あー、それは……」


 盛り上がっていたイーニャの表情が暗くなる。


「さっきまでの元気はどうしたんだよ」

「おと――なの……」

「なんだって?」

「弟なの!」

「マジか!」


 答えを聞いて俺は素直に驚いた。

 人の縁とは末恐ろしいものだと実感させられた。しかし疑問が一つ。


 姉弟なのに何で姓が違うんだ?


 気にしてはならないのかもしれない。だとしても、気付いてしまった以上、俺の好奇心は止まらない。


「仲は……良くなさそうだな」

「そんなことない、と思う」

「歯切れが悪いな」

「話したことないのよ。マクシスの方は姉がいるのを知らないわ」


 複雑な家庭環境が明らかになった。


 いつもわきゃわきゃな奴が落ち込むなんぞ、やはり反応に困ってしまう。


「また話したくなったら詳しく話せ。俺は待てる男なんでな」

「……バカ。でも、ありがと……」


 仕方ないから今日だけは特別に一緒に寝てやるとしよう。



 一時間後、お互いに緊張して眠れなかったので、結局俺が椅子でイーニャがベッドで落ち着いた。


 我ながら自分の純粋さにも驚いてしまったのは秘密だ。

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