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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『会敵』

 先行する部隊とロアンが会敵したと報告があった。


 奴なら心配はあるまい。


「行くのか?」


 廊下を歩いていると、フレンがそう尋ねてきた。


 今となっては見慣れたが、最初はフレンたちの姿に驚いたものだ。


「座っているだけなのは性に合わない。部屋を歩き回るよりは、戦場で戦う方がましだろうからな」

「変わらぬな」

「人間は簡単には変わらない生き物なのさ」


 フレンとの会話を終え、俺はグリムと合流した。


「戦況はどうなっている?」

「ロアン様が敵の先行部隊を全滅。こちらの損害はなく、そのまま進軍を続けると報告があったよ」

「宣言通り、敵を撹乱するようだな」


 我先にと突き進んでいくロアンについていく部下が可愛そうだ。


 まさに少数精鋭部隊。


 何だかんだと文句は言っても、言えるだけの実力者ロアンが引っ張る連中だ。

 しっかりと役割は果たすだろう。


「バルムの部隊は何処にいる?」

「ロアン様に次いで、もうすぐ人間界に上陸する。王国騎士団と衝突するのは時間の問題だ」


 ロアンは不規則な動きで王都を目指している。

 敵の意識を逸らすための誘導の役割と同時に、遊撃部隊としても活躍してもらうのだ。


 バルムは一番多くの部下を率いて、焦らずに無理のない範囲で進行させた。


 王国側の騎士団本隊とぶつかるように進行する。


 数ではこちらが不利。


 しかしそれを覆せる強さをバルムたちは有している。

 長い間溜め込んでいた力を解放する時だ。


 存分に発揮してもらわねば困る。


「他の〈七ノ忠臣(ヘタイロイ)〉率いる部隊も作戦を遂行中……だけど」

「ルシファー以外は、だろ?」


 歯切れが悪いグリムに代わって続きを言ってやる。


「あいつが従わないのは想定済みだ、お前が気にする必要はない」


 それからグリムから報告を聞き、城の出入り口へとたどり着いた。


「――ずいぶん待たせたな」


 そこには待ちかねたように苦笑する旅をともにした3人の姿があった。


「それ私の台詞、勝手に取らないでよ」

「んー」


 言い争うシグマとイーニャを尻目に、アカネは俺に抱きついてきた。


 頭を撫でながら確認を行う。


「準備は良いな?」

「いつでも」

「もちろんよ、お兄様」

「ん」


 元気の良い返事が聞けて安堵する。


 グリムを含めた4人には俺の護衛として傍に配置することにした。


 ロアンたちが先頭で突き進む遊撃隊なら、こちらはゆっくりと戦場を通過する遊撃隊だ。


「……レグルス」

「わかっている。皆まで言うな」


 グリムが俺の名前を呼んだ理由はわかっている。


 原因は間違いなくこの背中に突き刺さる視線だ。


 フレンと共に城の守備を命じた……フィーネの鋭い眼光がこちらを向いているのがわかる。


 何故なら待っていたシグマら3人も、妙に俺と目と顔を合わせようとしなかった。会話しているのにだ。


 さすがに気付いてしまうとも。


「アカネ」

「ん」


 意図を察してアカネは俺から離れる。


 後ろを振り向いて、頬を僅かに膨らませてご機嫌斜めのお姫様と目線を合わせた。


 目が見えていないのだから無意味かもしれないが、こういうのは気持ちが大事なはずだ。


「この城は魔族たちの築き上げてきたものの象徴だ。そこが敵の手に渡るのは何としても阻止せねばならない。だが俺はここを離れて、戦場へと足を運ぶ。座して命じるだけの王にはなりたくないのでな」

「…………また」

「ん?」

「また、待つのは……いや」


 フィーネの切実な思いが、少ない言葉からでも十分に伝わった。


 儚げに悲しげに俯く少女に、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。


 放置しては後が恐ろしいからな、何か対策を考えなければ……。


「戦争が終わったら1週間、俺を貸し切る権利を与える。それならどうだ?」

「……」


 それを聞いて、フィーネの表情がパァッと明るくなる。


「レグルス。戦後の後処理はどうする気? 1週間も間を置いたら非常にややこしくなる」

「……」


 グリムの鋭い指摘で、またも暗くなるフィーネ。


 〈魔王〉としての責務に必要なことを配慮して言ってくれたのがわかるからこそ怒るに怒れない。


「1日で終わらせる。グリムには協力してもらうぞ。戦争が終わり次第、やるべきことをまとめてくれ。全てを早急に終わらせてしまえば、誰も文句は言えまい」

「……わかった、手伝うよ」


 苦笑しながらグリムは承諾した。


「決まりだ。フィーネ。俺は約束を守るから、お前もこの城を必ず守ってくれ」

「任せて。絶対に守る。約束破ったら承知しない」

「もちろんだ。では、いってくる」

「いってらっしゃい」


 やはり寂しさの残る微笑みを浮かべて手を降るフィーネ。


 約束を守らねばならんな。

 戦争が終結後。約束の一週間で、存分に満面の笑みにしてやるとも。


 少々時間を要したものの何とか無事に見送られて、俺たちは〈魔界〉を後にした。


「到着だ」


 〈転移法(テイル)〉を使い、メンバーを〈人間界〉へと転移させた。


「なっ、なんだ貴様らは!?」


 こういうのをデジャヴと言うのだろうな。


 そんな感想をぼんやりと抱きながら、敵陣のど真ん中に転移したことに対しての文句が周りから聞こえてくる。


「貴様ッ、わざと敵陣に転移したな!」


 シグマが背中の長刀を抜き払いながら一番大きな声を上げた。


「ほらほら、ぼんやりしていると的にされるぞ」


 騎士たちの全員が困惑しているわけではなく、何人かは冷静な判断力を持つらしい。


 剣を抜いたり、魔法を準備したりと攻撃を仕掛けようとしていた。


「数はこちらが有利だ。包囲して殲滅しろ!!」


 指揮官らしき人物が騎士たちへと指示を出す。


 数的有利を活かした妥当な作戦だな。


「だが相手が悪かったな。返り討ちにするぞ」

「了解!」

「やるしかないな」


 色々言いながらも最終的には協力してくれるのだから、俺は仲間に恵まれていると感謝しよう。

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