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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『暗殺』

 コジュウロウタたち、ニステア村の様子を〈遠視(トルム)〉で窺っていたのだが、どうやらお客が来てしまったようだ。


 相手をせねば無礼に当たろう。


「やはり来るよな」


 笑いそうになるのを口角を上げる程度で抑える。


 玉座の間にて、優雅に座っていると複数の気配が部屋に侵入してきた。


 正確には気配はほぼ消されており、感知魔法を使ってようやく存在を感じ取ったのだ。


「うぅむ……」


 しかし、王国の精鋭暗殺部隊がこうもあっさり見つかるとは拍子抜けだ――と、そう思わせる作戦だな。


 素人とは言わないが、まだ隠密能力の精度が低い。


「お前たちは死ぬために来た。後の本命へと繋ぐ、な」


 暗殺者たちへと話しかける。


 標的に見つかっても戸惑わず、しっかりと向かってくるのは褒めてやろう。


「それを勘づかせないように混合部隊だな。本命も混ざっている。運が良ければここで仕留められよう」


 部下を下がらせ、玉座の間にひとりで囮となったのは正解だったようだ。


 罠だと理解していても、〈魔王〉である俺を倒せば形勢逆転も狙いやすい。

 加えて代えはいくらでもいると言いたいのだろうな。


「しかし……しかしだ。俺がお前たち程度に殺されるわけがないだろう。――〈封動(うごくな)〉」


 暗殺者たちが動きを止めた。いや、俺によって止められたのだ。


 言葉を聞いたが最後、その命令は直接脳へと、身体へと働きかける。本人の意思とは関係なくだ。


 〈命言〉――言葉を聞いた者に、強制的に従わせる魔力を込めた言葉と言う名の魔音。


 しかし、言葉を聞かれなければ効果はない。

 例えば耳が聞こえなかったり、騒音で言葉が掻き消されては通用しなくなる。


 ついでに〈命言〉に込めた魔力に抵抗できるほどの実力者も効かない。


 この性質を活かして、相手の力量を測るのにも使えるから便利なのだ。


「ここに来るまでに何人殺し、何人死んだ? 答える気はないよな、わかるとも。だからもとより、答えを聞けるなどと期待していない。お前たちの思考や記憶から直接知るだけだ」


 おやおや、何人かが息を呑んだようだ。


 やはり死は怖いのか?


「情けをかけてやりたいが、俺は〈魔王〉だからな。面倒なことに部下に示しをつけねばならない。さらばだ、勇気ある暗殺者たちよ。お前たちに裁きを下す――〈十字葬天(ジャッジメント)〉」


 パチン。


 指を鳴らした音が静寂を支配していた部屋に響き渡る。


 そして、それを合図に次々と何かが弾ける音と同時に血飛沫が壁や床にへばりつく。


 俺の顔にも散った。


 音が止むと、十字架が部屋のあちこちに立ち並んでいた。


「おや、毒だな」


 俺が人間を食べるような生粋の〈魔族〉だったら、こいつらを追いかけてしまっていたらしい。


 危ない危ない。


「でだ、残るはお前ひとりだけだ。どうする、俺を殺すために戦うか――ルカム」

「バレてたなんて……もう、恥ずかしいわネ」


 文句を言いながら影から姿を現す〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉美の化身――ルカム・テロンツーノだ。

 相変わらず妙に引っかかるな名前をしている。


 懐かしい奴と再会したものだ。


「約束は覚えているか?」


 次に会った時にメイクをしてくれると約束した。


「もちろんよ。でもね、その前にアナタを殺さなきゃダメなのヨ」

「楽しみにしていたのだがな」

「アタシもよ」


 悲しそうな顔をしながら拳を構えるルカム。


 避けられない戦いか。


「俺の強さは知っているはずだ。なのに何故、お前は変わらず立ち向かう?」

「アタシにもね、譲れないものがあるのヨ。大切な約束を破ってでも、果たさなくちゃいけないことがネ」


 アタシはもう覚悟を済ませた。


 次はアナタの番だと言われているようだった。


 友として、仲間として歩めたら楽しい日々を過ごせたのかもしれない。


 あんなとてつもないメイクができるのだ。普通に可愛らしいメイクなども可能なら、アカネやフィーネにしてもらいたかったな。


「約束を破った者へと罰だ。戦いではなく、一方的な処刑を行うとしよう」

「……」


 ふっと微笑みを浮かべるルカム。


 俺の意図がこうも簡単に伝わるとは、やはりお前とは戦いたくなかった。


「ルカム・テロンツーノ。お前とは良き友になれただろう。さらばだ――」

「――ガファッ」


 別れの挨拶を告げた次の瞬間、俺はルカムの心臓を手で貫いた。

 構えは見せかけだけで、初めから守る気などなかったのだろう。


 痛みを刺されてから貫かれるまでの間だけに留めるために強制的に意識を断たせた。


 まるでそれを見越していたように、ルカムは言葉を遺していた。


 ――約束を守れなくて、ゴメンね。


 ルカム・テロンツーノの命はこれで終わりを告げた。


「馬鹿野郎が……」


 俺ならばこいつを生き返らせることは可能だ。

 だとしても、それをこいつ自身が望んでいるかと言うと難なく否定できる。


 何故ならこんなにも良い顔で死んでいったのだから、無駄な情けとなろう。


 ならば、俺がやるべきことはひとつだけだ。


 壁に取り付けられた火を操り、魔法へと昇華させる。


「〈炎覇灼滅陣〉」


 魔法陣から上った炎の柱がルカムの遺体を呑み込んで、骨も残さずに燃やし尽くす。


 こうなってしまえば、俺ですら蘇生は不可能となる。


 誰にもルカムの死を冒涜するようなことは許さない。


「気にくわないな」


 俺がこんな思いをするのを見越して、ルカムを刺客に選んだに違いない。


 純粋な力では敵わないから、精神的に追い詰めようと言う魂胆か?


 まぁ、どんな思惑でも作戦でも構わない受けて立つさ。


 戦場では迷った者から死んでいく――と言われるが、俺はそう簡単にやられてやるつもりはない。


 迷いを見せるだけの余裕を示してやろう。


「俺は〈魔王〉だ。魔族を統べる王だ。人間たちよ、心して挑むが良い。決められた敗北をどのようなものに仕上げるから、お前たちに次第ぞ」


 もう少しここで待っていようと思ったが……どうもそういうわけにはいかないらしい。


 相手は俺にさっさと戦場に出てほしいと望んでいるようだ。


「力の差を教えてやろう」


 俺は燃え尽きた灰を一瞥してから玉座の間を後にした。

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