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最後の魔王伝説  作者: 入山 瑠衣
第七章 人魔対戦
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『保護対象』

「まさか魔族に護られる日が来るとは……。やはり長生きはするものだ」


 ニステア村、及び村人を守るべく配置された〈魔族〉たちを見て、コジュウロウタは感慨深げにそう呟く。


「約束を守ってくれてるのね」

「うむ。あれから半年が過ぎたなど信じられぬ。まるで昨日のことのように思い出せようぞ」

「あらあら。はしゃぐなんて珍しいわね。そんなに嬉しいの?」


 年甲斐もなく嬉しそうな素振りを見せる夫に、子どもを見守るような優しい微笑みを向けるフェイ。


 レグルス(ノルン)の命令で部隊の一部がニステア村を守護するように命じられていた。


 戦場に赴きたいと反論したが、力で捩じ伏せられてしまったのである。


 強さに重きを置かれる〈魔族〉の習性、または(さが)を逆に利用したのだ。


「いよいよ、開戦だ」

「歴史に残るくらい、大きな戦いになる気がするわ」

「某も同じぞ」


 隣に寄り添うように立つフェイの予想に同感を示した。


 腰に携える刀の柄に片手を添えて、コジュウロウタは護衛を命じられた〈魔族〉たちを見やる。


 ――命令を破り襲いかかるようなら、容赦なく斬り捨てろ。


 彼らと共に村に寄ったレグルス(ノルン)がコジュウロウタにした忠告だ。


 〈魔王〉であっても、〈魔族〉を完全に信用している訳ではなかった。


 そもそも、ニステア村には〈魔族〉は入れないから無用な警戒かもしれないが、用心するに越したことはない。


「あの壁が良き防壁として使うようだ。あやつはこうなることを予見して壁を築き上げたのだろうか?」

「あの子ならやりかねないわね。賢い子だから」


 最初にレグルス(ノルン)がマクシスたちと邂逅を果たした場所に築いた巨大な壁。


 低位の魔法程度では破壊できない強固な造りになっている。もちろん例外はあるが……。


「フェイは家の中に。某はダンテ殿に戦場の様子を聞いてくる故」

「気をつけてね」

「うむ」


 村を囲む森の外で仁王立ちする背中にコジュウロウタは声をかけた。


「ダンテ殿!」

「なにかご用ですか?」


 温和な雰囲気を漂わせてダンテは振り向いた。


「戦場の様子を聞きに参った」

「左様でしたか」


 人間をどうでも良い存在と考えてきたダンテにとって、〈魔王〉にその種族が選ばれたのは衝撃の事実だった。


 更に新たな〈魔王〉は人間の保護を自分に命じたことも疑問でなからなかった。


 だが、こうして実際に接することにより、レグルス(ノルン)の意図を少しずつ理解していくのだった。


「戦場は数か所に分かれ、我々〈七ノ忠臣(ヘタイロイ)〉率いる部隊が応戦しています」


 だから以前までのダンテなら話さないであろう作戦状況を教えたのである。


 これはレグルス(魔王)が認めたコジュウロウタだから、とも言えよう。


 もし他の人物であれば、命令に従い守るだけで接することはなかっただろう。


 奇しくも前魔王のフレンが望んでいた魔族と他種族の交友が叶い始めていた。だとしても、これはまだ始まりにすぎない。


 時が経てば物事は自ずと変化する。


「うむ。では、某も役目を果たそうぞ」


 数千の騎士を率いて転移してきた人物に視線を向けながら、コジュウロウタは宣言する。


 あなたは保護対象だから大人しくしていてください――本来は村の中に突き返すべきなのだろうが、ダンテはそうはしなかった。


「死なれては困りますから」

「承知。貴殿も、この戦が終わった後に、酒を酌み交したいが故。生きて帰られよ」


 ――好奇心。


 人間の何倍もの年数を生きる〈魔族〉のダンテが生まれて初めて抱いた感情。


 この男と共に戦うのは、いったいどんな感情を抱くのだろう?


 疑問とも言えるそれは、ダンテに今までとは別の行動を強いた。なのに決して不愉快ではない、むしろ楽しみである。


「(――あなた方は村の護衛に集中してください。あれらの相手は引き受けます)」

「(了解)」


 村の周りに展開していた部下に指示を出すダンテ。


「――魔族がいる。ボクはアタリを引いたようです」


 まだ青い服装に身を包んだ、見た目は若い少年のようだが、ダンテは異様な力を感じ取った。


 コジュウロウタもまた同様で、腰に携えた刀の柄に手を添える。


「ダンテ殿」

「あの方の足止めをお願いできますか? 3分で周りの騎士を」


 まさかの提案をされて目を見開きながらも、コジュウロウタはすぐに笑顔で頷いた。


「承知した!」


 言うが先か、刀を鞘から抜き払いダンテが指定した人物へと斬りかかる。


「いきなり斬りに来るなんて物騒だなぁ」


 発言は危険そうなのに、態度は悠然としたもので余裕を示していた。


「キミたちはあっちをお願い。ボクはカレの相手をするよ」


 突進してくるコジュウロウタは自らが相手をすると騎士団一行に村を攻めるように命じた。


「――っ!」


 散開する周りの騎士は放置し、少年に刀の横凪ぎ一閃をお見舞いしようとしたコジュウロウタは、直前に気配を感じ取り後方へと飛び退く。


 直後にズドンと鈍い音が響く。


 すると、先程彼がいた足下の地面が円形に窪んでいるではないか。


「へぇー。今のを避けるんだ。凄いね、キミ」


 パチパチとわざとらしく称賛の拍手を相手に送る。


「君などと呼ばれたのは初めてだ。いきなりの非礼を詫びる。某はコジュウロウタ・スメラギ。貴殿の名を聞いても宜しいか?」


 刀は構えたまま、それでも礼を尽くして相手の名を問いかける。


 その問いは予想していなかったのか、少年は少々の驚きを見せてから笑った。


「スメラギ……。うーん、非常に光栄だな。まさかあのスメラギと出会えるなんて、ボクはなんて幸運なんだ」


 嬉々として喜ぶ少年に、訝しげな顔をするコジュウロウタは危険な雰囲気を感じて警戒の色を濃くした。


「いやいや、失礼。ボクとしたことが嬉しすぎてつい、ね。ボクはクェルム=インティアル。〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉の序列9位さ」

「こちらこそ光栄だ。名高い〈王国の守護者ナイト・オブ・レギオン〉殿と相見えられるとは」

「たかが9位、気負う必要はないよ」


 問答無用で斬りかかってきたコジュウロウタに友好的な態度のクェルム。


 逆にそれが武士の警戒を強くさせた。

 腹の奥に底知れない何かを隠していると、長年戦いで培ってきた勘が警告していたのだ。


「――でも、魔族の味方をするのなら殺すけどね。あと人間以外の種族も含めて排除する」

「話し合いは叶わぬか?」

「人間こそ神が創造せし至高の存在。ボクたちは最高傑作なんだよ。他の種族はその実験作に過ぎないから、もういらないんだ」


 ――だからこの世から消し去る。


 他を受け付けない潔癖が行きすぎれば、こうまでも(こじ)らせるのかとコジュウロウタは眉を歪める。


 しかし同時に、これは王国が他種族を完全に相容れない敵だと拘った見解を国民に強いた結果だと理解していた。


 全ての者が話せばわかる――。


 そんな理想は抱いていないが、話して分かり合える者がいるのもまた同じ。


「貴殿は、決して相容れぬと?」

「もちろん。ボクらは成功作、カレらは失敗作。いつまでも失敗作をのさばらせるのは、神へと冒涜だと思わないかい?」


 笑顔で〈人間族〉以外の他の種族を失敗作だと断言するクェルムは、王国が自らの手で招いてしまった道を閉ざす壁に思えた。


「……残念だ」


 ――この者とは相容れない。


 そうコジュウロウタが結論付けるには、十分な問答であった。


 根本的に考え方が正反対なのだ。

 時間があれば語り合えたかもしれない。


 もしかしたら、その先に手を取り合う可能性だってあるかもしれない。


 しかし今、己が理想に身を委ねれば大切な者たちを失ってしまう状況、目の前の相手を斬るべき相手として見据える。


 故に彼は刀を正眼に構える。


「ふーん。本気なんだ。本気でボクたち王国に抗う気なんだね」


 視線をコジュウロウタの背後の村へと向かった騎士団一行へと向け、その全てが肉塊と化しているのを見て呟いた。


 ほんの少し時間、一瞬とも言える短い時間……クェルムは悲しそうな表情をした。


 それをコジュウロウタは皮肉にも見逃さなかった。

 かといって、決意が揺らぎはしない。


 武士は知っている。


 ――殺らねば殺られるのだと。


「始めようよ、サムライさん」


 懐から一冊の本を取り出すクェルム。


「いざ、参る!」


 それを真正面から見据えるコジュウロウタ。


 彼らの戦いはここからが始まりなのである。

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